there is nothing so sexy as a boy who is angry



「黙れ、沢北」
緊迫した空気が一気に沸点を上げる。
「お前ロードワーク五周だピョン」
ロードワークと呼ばれるそれは学校の敷地外、5kmのマラソンコースである。
「深津さん!」
「黙れピョン」
「………だって深津さん……」
「先輩。でお前後輩。問答無用だ、走って来いピョン。松本、お前もだピョン」
深津は人差し指で松本を示した。
「俺も?」
「当たり前だピョン」
そう言って深津は二人に背を向けた。
「深津、もう少し柔らかくても」弱々しげに堂本が声を上げたが、此れには聞く耳を貸さない山王バスケットボール部主将だった。



「理不尽だ!信じらんれねえっ。……ああ…もう!そう思いません!?松本さん」
先から沢北は声を荒げながら、松本と並んで走っている。
「なんでああ分らず屋なんだあの人。頑固すげえ頑固。なんか言おうとすると黙れのごり押しだし、チクショーっっ」
喚いて、叫び上げて、目を拭った。涙が溢れそうだったのだ。
「なんか解らないけど、俺最近深津さんと喧嘩してばっかりだ…」
「仲悪い訳じゃあないだろ?お前ら」
「全然悪くないすよ!」
悪い処か愛しているくらいだ。
一方的に。
心の内で独語する。
「怒って謝って泣いて…俺って道化ピエロかも」
松本は危うく出掛かった「そうかもな」と云う言葉を飲み込んだ。
「って言うか後何週でしたっけ?」
「二週。あんま喋んな。沢北ばてるぞ」
「っす」
二人は炎天下の中ピッチを上げた。



勿論沢北が怒れば深津はその沈静化を待って慰めてくれる。それの時の深津は非常に優しくて、全てが相殺されてしまう。
だから、厄介なのだ。
次に怒るまで、その先に怒ったことを綺麗さっぱり忘れ去っているからだ。



部活終了後、バスケ部の主将と頼れる最上級生は合宿所の談話室で顔を突き合わせていた。
「最近厳しいな、お前」
「ん?」
深津は、紙面から顔を上げずにそういった河田を、下がり気味の眉を片方押し上げて窺い見た。見ているのはスコア表の山である。部活は終っても二人から気が抜けることは無い。
「沢北だよ。へこんでんじゃねえか。怒らせるようなことばっかしやがって」
「ちゃんと後でケアはしてるピョン」
その物言いに溜息をついた。
「…意地の悪い先輩だな。その内泣くぜ」
「もう泣いてるピョン。河田そっちのファイル見せてピョン」
沢北は夕食後部屋から出て来ない。
黒い拍子のクリアファイルを手渡される。頁を繰りながら会話は続いた。
「河田、簡単な英語だピョン」
手にしたシャーペンを器用に狂狂と回した。河田が少し怪訝に笑んだ深津を見る。
「なんだよ、」
「……there is nothing so sexy as a boy who is angry」
「沢北が?」
「そう」
「ああ」
河田が半ば苦笑気味に破顔した。
「そりゃあ…沢北も本望だろうよ、」



09/07/05





流川のプレイが気に触った沢北を見て。

「there is nothing so sexy as a woman who is angry」と仰ったのはマラです。

marvelous!


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