affair of summer



幾度でも湧いてくる感情。
時にそれは畏怖に近く。同時に情欲は何処までも深い。



酷く熱せられた部屋の中で、先から深津は口を利かない。
疲れ倦んだ肢体を床の上に横たえている。体中に散った斑紋は間違えなく自分がつけたもので、僅かな満足感と、よく解らない申し訳なさが綯交ぜとなって只管その姿を凝視し続ける他なんの手立ても持たなかった。
そもそも身長は3cm弱の差で、体重は向うが1kgばかり多い。
殆ど体格は同じなのだ。そしてそれに伴う力の差だった殆ど一緒だ。
多分、眼は覚めているだろう。意識もはっきりとしているはずだ。だのに貝のようにじっと口も利かない。
矢張り、厭だったのだろうか。
締め切ったベランダに続く窓に沢北は凭れかかっていた。
目線の先に深津の背が見える。
骨と筋肉の条が皮膚の下にくっきりと見える。
綺麗な背だった。
随分とそのままだったような気がする。不安感に段々気分が悪くなっていっていたのだが、深津が漸うと動いたのを見ると一気に気分が霽れ、同時にまた情欲が起こり出して来る。
「あのな、沢北」
声は尖っているようにも呆れているようにも聞こえた。
「………何ですか?」
咽喉が酷く乾燥していて、ひりひりする。思えば水分を全然摂取していない。
「こっち見るなピョン」
「………え、」
「身動きも取れない」
ゆっくりと上肢を持ち上げ、鈍鈍と部屋の隅に置かれた自分の衣類を手に取った。動きが怪訝しい。アディダスのティーシャツを着た。跫には薄い肌掛けが纏わりついている。
深津はベッドの足許を見ると少し表情が曇った。背の低い塵芥箱にティッシュと口を塞がれた避妊具を見つけたからだ。
「咽喉渇いてませんか?」
唐突に口の中を苦く感じて口を濯ぎたくなったが、どうにも腰間に力が入らなかった。弱い。躰の其処彼処を鍛えていると自負しているにも関わらず、此の弱さは何なのだろう。
「何か買ってきますよ」
「ポカリと水と洗面器、ピョン」
「洗面器?」
「口を濯ぐピョン」
ああ、と沢北は納得の言ったような声を出し、立ち上がった。
それを見やって矢張り不服感が拭えない。
跫を伸ばす深津を跨いで往く沢北の跫を掴んだ。
「なんですか?」
「今度はやってやるピョン」
「……は…?」
一瞬虚に尽かれた沢北の顔は少しだけ憂さ晴らしになった。
「窓、」指差す。「開けるピョン」
「窓ですか?」
「臭いが籠り過ぎピョン」
沢北はまるで気にしていないようだった。再び自分が座っていた箇所に戻り、窓を薄く開けた。
「深津さん、」
「なんだピョン」
「居なく為らないで下さいね」
窓を開け、背を向けながら半ば懇願するような声で沢北は呟いた。余りに莫迦莫迦しくて返事もできなかった。
物理的に今この状態でどうやって動けというのか。



「鍛え直さなきゃピョン」
部屋の主がいなくなった部屋の中で深津は呟いた。じっとりと浮いた汗に窓から入り込む微風がささめいてゆく。
仰向けに寝転がった。
昼日中の窓の向こうは夏の青空が広がっている。その青のに、白い筋が引かれていった。飛行機だ。
いつしかあれに乗って、行ってしまうだろう。
先まで深津を好い様に扱っていた、一つ下の男は。
「居なくなるのは…お前だ、ピョン」
呟いて、深津は少し目を瞑った。




09/06/05



違う…
そうじゃなくて。
なんかもっとエッチィ感じのを書く心算だったのに…
あれ?
折角のロマンポルノの日が。(6月9日)
台無しだ。

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