ミースファンデルローヱ







雷鳴が轟いて、照明が揺れた。


談話室には東北-南西に長い、テーブルが10列に渡って並び椅子は百脚を越え、大型テレビが三台据えられていて趣きは、談話と云うよりも会議室であった。
誰が何処に座るという規定は無いが、無い分自然と座る位置は決まってしまう。学年ごとに着席して監督の関わらない自主ミーティングだった。
ビデオ鑑賞と反省会である。
勿論自分たちのプレイ中の録画ビデオだ。
沢北は天井の照明を少し窺って、椅子の背凭れに肘を着いた。
夕方から少しずつ近付いてきていた雷の気配は今頃になって漸くその獰猛なる本性を明らかにし始めていた。
深津は左を一之倉に右を松本に、正面に河田を配した完璧な山王バスケ部主将たる布陣で、何処か朦りと画面を眺め遣っていた。
沢北は思う。
何故自分は此処なのか、と。
学年が違えば、座るところもまるで離れてしまったことを当然と思わなければならないのか。
沢北は最も欠かすことの出来ない主力であると言うのに。
松本が座る席が少しだけ不満だった。
何故其処に自分がいてはならないのか、と。
「理不尽だ」
小さく呟いた。
沢北の目はビデオに注がれているわけではない。
当然だが誰も雷に表情を変えることもない。もしくは気付いていないのかもしれない。
曇天の狭間に光を見た。大きな雷鳴がした。
そして空が引き裂かれた。


音も無く、文明の叡智たる「燈り」が消えた。


勿論テレビもクーラーも何もかもである。爆発音とも思える雷鳴の後に一瞬にして部屋中の電化製品の駆動音が已んだ。
「ブレーカーが落ちた?」
「素破、停電?」
とそれまで厭なほど水を打ったように静かだった室内は俄に騒然とした。
こうした緊急時に指揮を執るのは、主将の役目である。
深津は兎も角腰を浮かせて声を上げようとした時、


手が頬から顎を被った。
口を塞がれたのだ。
そして、普段無防備に日の下でさらしている項に唇が触れた。


一瞬のことだ。次の瞬間には、背後に人の気配はなく、勿論視界を奪われて辺りは見渡せない。
「静かにするピョン。ちょっとブレーカー見てくるから、松本―――――」 それでも動じず、深津は右隣にいて、扉に近かった松本に声を掛けた。一緒に行こうと言った。
「河田は此処に居てくれピョン。何か有ったら連絡するピョン。停電だった場合はミーティングは終わりピョン」
「おう、」
河田は闇の中で頷いた。当然、深津には確認できない。
「じゃあ皆此処で待機ピョン」
殆ど手探りで、松本と談話室を出た。

「懐中電灯が必要だよな、深津」
「……」
深津からの答えは無い。
「深津?」
「ピョン。持ってくるピョン」


訳も無く確信する。
首筋裏に触れた感触。


あれは沢北のものだと。







17/07/05







小学生の男の子たちを見つつなんて無防備な項なんだ!と感動しながら。

なんか…沢北と松本は余り相性が良くない気がするのは…
自分だけか?
同じチームとしては迎合するけど、個人としては…ね。
みたいな。

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