a day off--day 2







ものうい雨が外界に降り注いでいた。
曇天が低く垂れ込め、室内は仄暗い。目覚める時間を間違えただろうかと思った程に。扇風機が回っていた。見れば最大二時間のタイマーが未だ切れていない。
誰かが定期的に見ていてくれたと言うことだ。
躰を伸ばす。背も脚も垂直線上に持って行く。それまでは胎児のような体勢をしていた。
「違う動物だ…」
寝起きに声が少し擦れた。
いつも朝練習に起きる時間に未だ周囲は静かだった。それは休日だと言うことを思い出すには足ることだ。
また目を瞑ると雨樋を堕ちる水音が聞こえた。雨の匂いがする。
躰が怠いのは一日中寝ていた所為だ。
人が入ってきた。部屋の主に声も掛けない。部屋の中に入ってきて薄く開いていた窓を半分ほどに開け直す。
ビニル袋の音がする。瓶が床に触った音もする。冷蔵庫の開く音が聞こえ、目を開いた。
想像通りの人物が冷蔵庫の前に屈み込み、ビニル袋の中の物を移し変えていた。
寝返りを打ってその姿を見ていた。
冷蔵庫を閉めて、此方をみると白地に驚いたようで身を少し竦ませた。
「吃驚したー。起きてたんですか、深津さん」
「勝手に入ってきて勝手な言い草だピョン」
「寝てると思ってたんですよ」
沢北は胡坐を掻いた。
「昨日結構辛そうだったから長引くかなって思ったけど、大丈夫そうですね」
「そんな長い時間休んでらんないピョン」
明日から、また練習の日々なのだし。
それでも起き上がろうとはせず深津は身を寝台の敷布に接した儘だった。
二人が黙るとファンの廻る軌道音と雨音が響く。
「深津さん、着替えたら如何です」
「ん?」
「そのティシャツの色が映って顔が蒼く見えますよ」
濃紺色を着ていたのだ。
「俺出てますから」
その言葉に深津は少し妙な顔をした。
「別に」
身を起こした深津が言いかけると素早く沢北はそれを遮った。
「俺、好きな人の裸見て平然とできる男じゃないですよ」
面には苦笑を浮かべていた。度々こうして沢北は後輩という部をこえて、深津に思い起こさせる。
思いを寄せていると言う事実を。
それでは部活中などはどうなるのだ、と訊きたかったが何故か口にすることは憚られた。
「冷蔵庫にグレープフルーツ買って来てきてありますから、食べて下さい」
立ち上がって二歩ほど進んだが、すぐに身を翻して深津に寄った。
「これ剥がしましょう」
手を伸ばして額の冷ピタを剥いだ。
「態々買いに行ったのかピョン」
沢北は深津を見下ろした。
「風邪にはビタミン必要だって聞いたから」
「誰に?」
「食堂のおばさん。昨日の夕飯の時」
その辺りは深津は熟睡していたのだ。
「雨の中?」
「そんな大した雨じゃないですよ。前に深津さんが俺迎えに来たとき程も降ってないし」 じゃあ、と言って出て行く沢北の背に声が追い縋った。
「ありがとピョン」
「昨日もそれ聞きましたよ」
声が笑っていた。扉の向うに沢北が消える。
ティシャツと下着を脱ぐと膚に風が当って、そして小さな音を発てて止まった。
沢北は一日中看てくれていたのだろうか。
遂に時間前までも。
「…何にもしてないだろうな、彼奴」
そう呟いて少し笑った声の後に出来た静寂を縫って雨の音が響いた。












12/07/05





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