秋の夜長 派出所勤務になって幾つか困ったことがある。 青木はぼんやりと硝子戸の向こうを見詰める。墨流しの其処は魑魅の跋扈する世界だ。犯罪は闇に起こるものだ。 簡単には動けないし、何より制服は人目に着く。 「でも一回くらいは見て欲しいな」 呟いて、青木は壁に背を凭れさせ、腕を組んで少し天井を仰いで唇を尖らせた。 制服になったことへの悔恨は無い。 だけれど────── 「そう滅多に会えなくなったし」 特にこんな差してことも起こらない夜に、相方が警邏に出てしまうと勃然と自分が靄靄することが解る。 それが何であるのか、青木にも当然解っている。 瞼に思い浮かべるのはあの人の痴態だ。 「こんな閑潰しみたいに」 思い出したくは無いのに。 けれど、この対象が敦子になるのかと云えば、酷い背徳感…罪悪感を感じてしまうのだ。 「関口さん…」 小さく小さく呟いて、自分の足の付け根を撫でた。 先に木場に会った時、先輩は関口のことに触れなかった。自分から切り出すのも何故か出来ず、結果聞きそびれてしまった。 会いに行く口実も、連絡も無い。 時刻を確認し、青木は劣情に耽った。 暇潰しに、関口を思い浮かべて。 了 |