sin against... 更けて、寒々しい。 風が窓硝子を揺らしている。関口は筆を弄ぶれど一向に進まないことを自覚している。原稿用紙は皺が寄るだけで文章が綴られることは無い。 冬の廊下に電話のりん、と一声甲高い音が鳴る。 受け取る前から誰なのか解っている。そしてそれが今誰よりも欲しい声だと云うことも。 「会いたいんだ」 「…無理だよ、」 「一時間だけでいい」 「だって…」 関口は妻の名を口にする。 すぐ其処で寝ているのだ。 「関口」 榎木津は普段関口を関口とは呼ばない。 「寂しい」 「え…のさん…」 声が上擦った。咽喉が詰まる。泣きたいほど、互いの心は寄り添っている。間違った恋なのだ。でも正しい恋なんてあるのだろうか。 もう電車は無い。車を使う。関口家は洗うが如き赤貧なのだ。こんな出費は酷く痛い。 けれど────。 薔薇十字探偵社の内部に燈はなかった。ただか細い月明りが探偵の三角錐が載る机の一体を照らし出していた。其処には人影がある。 風が強い。 硝子が震える音がした。 「榎さん────」 呼ぶと榎木津は目線だけを巡らせて関口を見た。一瞥されるだけで、こんなになる。 関口は榎木津の座る椅子の前に膝を着くとベルトとズボンの前を寛げて下着の中から彼の優美な器官を取り出した。実際ちょっと滑稽なものに思えるのに、何故榎木津のだけそう思うのだろう。 関口はそれを口に含む。唾液を口の中で多量に分泌させて先を舐める。舐めて口で含んで、水音をさせる。窄めて舌先で尿道入口を撫ぜて唾液を其処に置くように脣を離した。雁を舌で摩った。 「関、」 舌を裏側全体を包みこむように這わせて深く咥え込んでゆっくりと戻す。亀頭を口をすぼめて吸い上げながら口を離した。 如実に反応がある。 「関くん、そんなことはいいよ」 榎木津が関口することはあるが、反対は殆ど無い。だからお互いに慣れないことなのだ。抱き合いたいのだ、と云った。時間が無いのだ。 「いいよ、だって寂しかったんでしょう?榎さん、お願いさせて」 榎木津を大切にしたいと思う。いつか結ばれるだろうか。否解りきっているこれは結ばれるものではない。だから無いからこそ────。 透明な液体を零しだした榎木津のその先を指で撫ぜながら反り返る側面に脣と舌を這わせて行く。その関口の髪を熱い吐息を漏らす榎木津の長い指が掻き回している。 寂しい。寂しい。寂しい。 すること自体余りないのだが、 頬で挟み込んで、咽喉の奥を榎木津のもので尽かれるのが好きだ。 頭を撫でられるのが好きだ。唾液と先走りを音を上げてものに絡み付ける。 撫ぜる手が動きを止める。何故なのかは判っている。口の中のものがそれを告げている。 見上げれば、少し眉を顰める榎木津の美しさに思わず見蕩れる。 旋毛に掌を置き指先が項を押さえつけられる。揉んでいた睾丸と茎の付け根。 「ん、」 榎木津の呻く声に続いて、口の中を満たすそれ。 実際飲み込むことは苦手だ。けれど、榎木津のものだ。咽喉へそのまま押し込んで、精管の中も吸い上げて関口は漸うと解放した。 脣の端から零れた唾液は顎から首筋を滑って服の中へ吸い込まれていた。 「すみません、戻ります」 関口は手の甲で唾液でべとべとだった脣を拭いた。口を漱ぎたいとも思ったが、家に戻るまでの間榎木津を反芻するには好いのかもしれない。 立ち上がって、振り返ろうとすると、腰を脚で挟み込まれた。 「え、榎さん!」 蹌踉けて関口は榎木津の腕の中に落ちた。 溜息が耳許で聞こえる。 「関くん」 俯くと其処に剥き出しの儘、少しだけ起ったそれがあった。 「何で紅くなっているんだ、」 榎木津は関口の紅い耳朶の上部を舐めて、軟骨を甘噛みした。 「こんなことしていて、なんでそんなあっさり帰ろうとするのか。君が判らない」 「だって、」 帰らないと。 「君を舐めさせるために喚んだんじゃない」 寂しいんだよ────。今は、今だけでも、手を伸ばせば届く距離に君が欲しいんだ。 「でも、」 ────言い訳はいらない。 脣から顎を行き首筋しっとりと汗の浮かんだを指の腹で舐めて襟の間から忍ばせて榎木津の手が鎖骨を触る。そして耳の裏側を往復する舌に関口の腰がもぞりと動いた。 「一時間でいいって云っただろう」 関口は身を捩って榎木津を見上げた。視界が悪い。榎木津の端麗な相貌が歪んで見える。脣を少し噛んで、彼の首筋に額を擦り付けた。 寂しいと云うのなら、 「朝まで居ろって云ってよ…っ」 傍にいることを許して。 風が鳴いている。硝子が音を上げて震えている。 榎木津は関口の顔を掬い上げる。 能く見えない。眼の奥から熱いものが込み上げて頬を濡らす。ざらついたものが頬を下から上へゆっくりと移動する。 「寂しいよ、傍にいて」ずっと────。 蟀谷の横で榎木津が囁粧いて、乞うた。眦に脣が触れる。 関口は幾度と無く頷いた。 相手は学校の後輩で、それからだらだらと続く友情があって、同性で、既に妻があるのだ。だのに。 榎木津は関口の脣に自身を重ねた。 嗟────なんて、罪深い。 |