重い睫毛が天上を彩る輝きの瞬きを留め、鬱蒼りと持ち上げられた時には辺りに星の粉を散らせた。 只吐き出されるだけだった呼吸は甘みを帯びて、脣をもう一度合わせて彼の口の中を嘗め回し、おずと近付いた舌を絡め合わせると彼の咽喉がなった。首筋に口付けと舌で舐め下肢を擦り付けると、少し驚いた顔をしていたが彼も少しだけ勃起していた。顔を俯かせたので、沫い色彩の尖りを噛んだ。間で舌で転がして吸い上げてまた噛んだ。 電流が流れているように小さく震えた。その姿に 「可愛い」 呟くと脣を噛み締めて、顔を逸らせた。 手は彼の前に絡んでいた。 少し強めに扱くと更に反応は如実だった。其処が涙を流しはじめて手を濡らした。指先で鈴口を押すと矢庭震えて零れるそれを彼の性器へ塗りこめる。 「あ…も…い、から」 声が掠れている。 「いいって?」 耳許で囁くと暗がりだのに顔が尚益して火照るのが見えた。 「お…願い、も…」 「もう?」 問い返すとこくんと頷いた。 そんなことを言われるだけで昂ぶる。感じる。自分の其処が張り詰める。何処までも力任せにしてしまいたくなる。けれど、あれからずっとずっと待っていたのだ。 優しくしたい。 痛みなんて与えたくない。 その細くて薄いからだの凡てに口付けて舐めまわしたいくらいなのに。 だってその窄まりは本当に小さくて。 抱き起こすと素直に胸を合わせて、顔を見せられないのか肩へ埋められた。膝を開かせて跨らせる。 互いの胸が擦れ合う。臀部をもっとあげさせると、更に関口の上肢は榎木津に宛がわれた。躰が熱い。 左手で前を扱きながら右手を開いた臀部に這わせて、其処へ当てた。指先でその窄まりの縁をなぞり、其処を軽く敲くと身を捩った。少し関口の肩を押しやると、酷く不安定な体勢で、関口の目が榎木津を向いた。その薄く開いた口に指を二本含ませる。ぬるり、とたっぷりの唾液と柔らかな舌が指を出迎えて、舐めた。舌を抓むと熱に潤んだ眸子を伏せる。 唾液が榎木津の指と腕を伝う。 ゆっくりと指を引き抜くと、口付けた。 そして関口にしゃぶらせた指を、後ろへ宛がう。 しとどに濡れた指を中へと押し込もうとすると、その箇所がひくりと動いた。魚が跳ねて逃げ出すかと思ったが、躰を震わせてその腕が頸に回された。 躰が熱い。 これで興奮するなと言うのが無理だ。 狭隘な其処の肉襞を施すように緩慢と中へ進めた。頭を抱える腕の力が強くなった。髪を鷲掴みにされる。 「中が、とっても、熱い」 囁くと躰が震えた。 指を増やす。耳に掛る呼吸が熱くて速い。 中を探る。そして躰が跳ねた。あるところで確実に。如実に反応が違う。 「此処?」 と指に力を籠めると喘いだ。頸から背筋に指が食い込む。 下肢が摺り寄せられた。 榎木津のそれもずくりと熱くなった。 もう一度中を押す。 「…ぁ…」 声が漏れた。 名前を呼ばれた。そして腰を掴むと、彼も膝に力を入れしがみ付く腕が少し緩んだ。潤んだ眼と合う。 「い?」 問うと泣きそうな顔が脣を求めて来た。その儘ゆっくりと腰を下ろさせた。 関口の自重が相俟ってぐっと榎木津の熱さを飲み込んだ。 躰と呼吸が震えていた。そして榎木津はその震えが落ち着くのを待ってゆっくりと動き出した。 「榎さん榎さん」 うかされる儘に名を呼んだ。 ああ、欲しいと思う。 思って榎木津の髪を掻き雑ぜ、脣を寄せた。薄く開いた脣に舌を差し入れると、待ち構えていたしたが絡んできた。 「…ん、ふぅ……」 甘い声が榎木津の耳へ降ってくる。 どれ程長い間これが欲しかったのか。 今だったら教えて上げられる。 あの幼い頃、手を伸ばそうとして、拒絶されて。誘ってきたのは向うなのに。実地の経験こそ無かったが、既に精通は迎えていたのだ。 内側が熱くて融かされて行く。其処を擦られて、突き上げられて、声が止まない。 「え…のぉ……ん、ん…ぁ、ぁ、ぁ」 榎木津にしがみ付いていた。汗がお互いの間をぬるぬると滑らせている。 「解る?…しまって…る」 榎木津の声が少しだけぎこちなく囁かれた。そんなことを言ってもさせているのは誰だと云うのだ。 「も…それ以上……このまま…ったら…」 何もかももう解らない。内側と腹の間で関口の性器は擦られている。 だらしなく開いた脣を吸われる。そして離すと、関口の腰を掴んでぐっと突き上げた。咽喉が反る。そして関口は精を榎木津の腹と己の腹の間で吐き出した。 けれど突き上げは止まず、奥へ奥へと呼吸を荒げ、低く声を呻き上げて関口の中で弾けた。 榎木津の上から漸うと敷布へ横たわる。けれど官能の余韻が中々去らない。関口は浅い呼吸を繰り返しながら、じっと小さく震えていた。 「関、」 額に張り付いた前髪を除けられる。 「榎、さん…」 声が掠れていた。 「ご…めん。も…ちょ…この、まま……」 榎木津は関口の頬に口付けた。 「関くん、」 呼びかけに、関口はぼんやりとした目線だけを遣した。 「どれだけ、僕が夢見てきたかなんて解らないだろう?」 「え…」 「まさか、君たちみたいのに発情期があるなんて思わなかったけど」 何処まで中禅寺は榎木津に話したのだろう。それとも榎木津は知っていたのか。自然と。あの幼い日、何も話していないのに、何もかもを理解していたように。 「…繁殖期って言って下さい」 漸く口調が明朗さを取り戻してきたようだ。 「そんな。色気が無いじゃないか」 関口は身を少しだけ回転させて榎木津に背を向けた。熱が去ると、正直に言って恥ずかしい。彼の顔を見ていられなかったのだ。 此の為に会いに来たのに。 関口は永い間、再会した彼の美しさにどうしてもどうしても踏み出せなかった。 そして榎木津は頓着していないように見えていたのだ。 そんな昔のことなど疾うに忘れているかも、そんな不安が席巻していた。だのに好きで、堪らなかったのだ。他の人間の、など考えられないくらいに。 「関くん、」 呼びかけられて頸筋に脣を落とされた。 「行ってしまうのかい?」 「………うん、行かなくちゃ。彼方に」 交われば孕むのだ。 関口は微笑んで、腹を触った。肩を掴んで仰向けさせると、平な胸部と陰毛の下には男性器がある。鮮々に凝視されて居ると思うと関口は矢張り居た堪れず、上肢を起こし両腿を寄せて座ると敷布を引き寄せようとした。 「何で?先刻散々見たし触ったし…未だ舐めては居ないけど…」 「ちょ…っ榎さん!」 関口の熱の引き始めた白い躰が再び薄紅色に染まった。 「大丈夫だよ」 榎木津は関口の腿に触れた。 「や…そんなことしなくていい…ですっ」 懸命に額を押すとその腕を取って引き寄せられて口付けられた。 「行かないで欲しい。漸く、会えたんだから」 背を抱かれながらもう離れたくないんだ、と榎木津は日頃の彼とは思えないような口調で囁いた。 「でも…」 「僕の実家に入ればいいよ。君みたいのが大好きな馬鹿たちが集まっているからね」 自分はその一因ではないとでも言う心算だろうか。 「で、でも…」 「何?」 「驚くと思うよ」 「男が産むから?」 「まあ…それもあると思うけど。僕らにとって雌雄は実際どうでも好いことだし、交われば増えるんだから」 人間の世界では有り得ないことを関口は甚も易く口にする。 「じゃあ、何がなのだい?」 関口はすこし笑った。 「卵を産むんだ」 「卵?」 「そう、卵を産んで温めて孵化させる」 温めるのは相手の仕事だ。それなりの環境が必要でしょう?と関口は少しだけ寂しそうに笑った。 「じゃあこうすればいい。君は卵を産んで、僕が温めるよ」 だから産んだら帰っておいで────── 僕たちの子供なんだから。 「そうだ、」 声を上げて腕を伸ばし寝台下の床に脱ぎ散らかした制服の胸から厚紙を一枚取り出し関口に差し出した。紙の中では、目の大きな愛くるしい猿類が福耳の男と映っていた。 「指猿だよ、可愛いだろう?」 関口は胸が高鳴るのを抑えきれない。抱き合っているのだ、きっと伝わっているだろう。 「君と似ている、写真を見せてあげるよ」 幼い榎木津の声が記憶の彼方に黄泉還る。初めて会ったあの幼い日は榎木津の中にもしっかりと残っているのだ。 夜が明けだしている。 関口は顔を覆う。 躰が震えて、泣いていることが解った。榎木津はそっとその手を関口の顔から引かせる。関口の鬱蒼りとした長い睫毛には雫が溜まっていた。 頬の膨らみに脣を当てる。 「せきくん、」 瞼を開けると、視界が滲んでいた。榎木津の顔が朦りとしている。 帰ってお出で。もう離れたく無いんだ。 耳殻を啄むように囁かれ、矢庭躰が震えた。 関口が再び目を臥せて頷くと、 雫が、滴り落ちた。 それは明け初めんとする日の輝きを受け止めて、金色の軌跡を描いた。 了 |