海棠の睡り




朦朧と覚醒して房内の寒気と明るさに障子を開け放った儘であったことを認識した。
夜来の雨は去ったようである。
隣に栗鼠のように丸くなった男の白い背中を見る。骨が背中に浮いていた。枕元には互いの精液をたっぷりと含んだ白い手拭いが
置かれている。
風呂に行ったらそれを洗って棄てて来よう。
青木は布団から起き上がり下穿きを身に尽け、折りたたまれた状態の清潔な浴衣に袖を通した。帯を締め、宿名が記された丹前を
羽織る。
まだ床の上で目覚めない丸まった男が一層身を縮ませた。青木は自分が這い出した儘の布団を正した。
関口の顔を覗きこむと、髭が薄らと伸びていた。
「海棠の睡り未だ足らず…とは行かないか、」
同じ寝汚いにしても、余りにものが違いすぎる。

青木は裸形の関口を障子も開け放った房室に放置することは忍びなく広縁に立った。そして障子に手を掛けると、此処に着いた時
既に外界は暗かったので望むことの無かった庭を眺めやった。
山茶花の紅が夜来の雨に地面に敷き詰められていた。








06/12/06

青関で旅に出た明くる日のこと。