弱い12月の影


何を思ったのか、京極堂で忘年会が催された。此の家の主人が率先する筈も無い。真実は榎木津と木場、他数名が外で呑んでいたのだが余りに騒々しいもので店から追い出され、行き着いた先が此処だったのだ。
関口は午后三時に京極堂を訪った。
そこで見たものは既に出来上がった人々だった。
「おっそーいいぞ!関くんっ」
「漸く来たか、」
と榎木津の腕が頸部に回される。
「駆け付け三杯と決まってる。呑め、猿」
「冗談じゃ」
無い────
その時外出用の華やかな羽織が居間へ覗いた。
「それじゃあ私は、」
京極堂の細君がにっこりと笑った儘へべれけの人々に会釈をしてそそと行ってしまった。その隙に榎木津の腕から逃れたかったが如何にもならなかった。
「京極堂、千鶴子さんどうしたんだい?」
「────先生、どうもです」
「諾、鳥口君。君も居たのか」
彼の横には既に倒れている人物がいた。膝しか見えなかった。
「僕も居ますよー」
益田が紅い顔で言った。
「河原崎くんも来るとか言うし、先刻司くんからも連絡が入った。鮭を食べるかどうかとか言っていたよ」
相も変らない仏頂面京極堂は酒の臭いの中で矢張り紙面から眼を離さない。
「で、千鶴子さんは?」
「諾。関口家に避難するようだ」
「避難?僕は何も聞いて無いぞ」
「行き違いだったんだろう」
「関口、お前とりあえず呑め」
木場が蕎麦猪口になみなみと日本酒を注ぎ、榎木津に捕獲されたままの関口の鼻先に突きつけた。
酒は好きだが、余り強くない関口はちょびちょび遣るのが好きだった。
故に────。



頭が鈍重に痛い。
懐には、先刻やってきた伊佐間がくれた土産の変な人形が入っている。思考も段々億劫になっているし、当然口が利ける状態ではなくなっていた。
だからそこで始まった関口自慢…ではなく罵倒大会に異議申し立てが出来ない。
厭だなあと思いつつ、半眼の儘襖に背を凭れていた。
何を言っているのか、それを聞き取ることさえもうできない。
しかし言っていることは次第次第悪くなっている筈だ。
彼らの顔が嬉々としている。
不意に、鳥口の向うの膝が沈んだ。そして同時にその上肢が起き上がった。不倒翁おきあがりこぼしのようだった。
「あ、おき…く」
青木だった。
朦朧とした眼をしている。酒を呑むと直ぐに眠ってしまうと木場が云っていたことを思い出した。
「そんなこと────ないですよ、」
とまた眠りに着いた。
思いも寄らぬ関口擁護の科白を残して。
呆気に取られる人々。
酔いとは別に赤面する関口。
「なんじゃそりゃっっ」とは皆の心の声。







12/12/05


memoです。メモ。
タイトルはオペラアリスさまより拝借。