ノンストップヒーロー!
             第15話

 
 
 
「元はといえば、お前たちの仲間だろう?最後は責任をもって閉めてみたらどうだ?」
 
満面の笑みの中に、どこか殺気すら漂わせ、
悪の秘密結社の幹部の一人、キュアンが正義のヒーローたちに言いました。
キュアンの周りでは、リーヴァ・クガイ・アークが神妙に頷いています。
 
「あ。俺は方法を見付けたんだから、嫌だよ。」
 
ラティスがカノトの側から一歩後ろへ下がります。
 
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』
 
カノトの前で、正義のヒーロー・ギル・カイン・レアンは石のように固まっています。
このピンチから抜け出す術を持っていないのです。
誰も、真っ赤なハートをフリフリの可愛らしい羽の付いた、ダサいステッキを持ちたくないのです。
触れたくも無いのですっ!
いち早く石化から抜け出したギルが、そっと一歩後ろに下がりましたが、
目ざといレアンかに見つかり、逃げ出さないようにと、しっかりと腕を捕まれてしまいます。
 
「何、逃げてんの・・・。」
 
その声は地を這うようです。
 
「冗談じゃねぇ、俺はやんねぇ。」
「俺も嫌。」
「僕だって嫌。」
 
堂々巡りが始まってしまいました。
その殺気が漂い始めた三人以外の者は、自分に飛び火して来ないよう、静かに見守っています。
 
 
いったいどれほどの時間が立ったのでしょう。
ラティスが立ち疲れてその場にしゃがみ込み、クガイがあくびをし始めた頃でした。
ギルは重いため息を吐くと、こう言ったのです。
 
「お前がやれ、レアン。」
「何で僕がっ!!」
「生贄一匹逃しただろ。」
「っ!!」
「ああ、そう言えば。」
 
やれやれと、肩をすくめるギルに、悪戯を思いついたようにクスクスと笑うカイン。
その二人を前に、しかも自分が失敗したと言う事実がある以上、レアンに反論の余地はどこにもありませんでした。
 
しばらく、わなわなと震えていたレアンでしたが、意を決したのか、
勢い良くカノトへと振り返り・・・
 
「・・・何、写真取ってんのおばさん。」
 
デジタルカメラで、パシャパシャと写真を撮っているカノトに冷たい一言を浴びせました。
 
「え?だって、どうせ近づけないんだったら、写真だけでもと思って。えへv」
 
・・・・恐るべき根性である。
 
 
 
カノトから捕った、真っ赤なハートが着いた可愛らしいを通り越したステッキを、
レアンはなるべく直視しないよう気をつけながら手に持ちました。
一生懸命、「カノトを捕らえるため。カノトを捕らえるため。」と呟やきながら、精神を保とうとしています。
そんなレアンでしたが、ふと思い立ち、後ろを振り返りました。
 
「ねぇ。呪文って何?」
『世にも恐ろしい、ダサヒロイン魔法!受けてみよ!!』 よ。」
「は?」
 
何故か後ろから答えが聞こえてきて、レアンはもう一度カノトに向き直りました。
 
「何であんたが教えんの?」
「え〜、だってどうせだったら、聞いてみたいじゃな〜い。」
 
ピシッ、とレアンのこめかみが引きつったのは言うまでもありませんね。
 
「〜〜!!!いい加減にしてよねっ!このおばさん!!歳食って頭逝かれちゃったんじゃないの?しかも男にもてないからって迷惑振りまくのもいい迷惑だよっ!分ってんの!子供以下の頭で理解できるのか知らないけどさ、少しは分別持ってみたら?人並み程度にはさっ!
ああーーっ!!もう!!世にも恐ろしいダサヒロイン魔法受けてみよ!!ついでにいっぺん死んで来いっ!!」
 
レアンが呪文を唱えた同時に、ステッキから毒々しいまでの真っ赤なハートがカノトに向かって飛んでいきます。
ぜぇぜぇ、と肩で息をしているレアンは、自分の後ろから、ぶっ、と言う吹き出した音を耳にしてしまいました。
ゆーっくりと振り返ると、お腹を抱え、声を殺しながら爆笑しているギルと、その横でギルとレアンの様子を気にしながら戸惑っているカインが見えます。
 
「・・・・・・・・・。」
「お、落ち着け、レアン!」
 
どうどう、とカインがレアンを宥めようとしますが、ギルの笑いは一向に収まる気配はありません。
 
「おい、ギルっ!」
 
カインが慌てた声を上げるのと同時に、カノトの入った毒々しいハートを抱えたラティスが、「あっ!!」と声を上げました。
その声があまりにも唐突で、大きなものだったので、皆いっせいにラティスに注目します。
レアンもしぶしぶながら振り返り、ギルも笑いを押さえ、滲んだ涙を拭きながらラティスを見ます。
 
「ハートの壊し方、聞いてない・・・。」
 
『あ。』
 
何人かの声が被さりました。
 
 
 
 
 
 
 
 

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