ニュージーランド遠征記

長谷川行光

期 日 平成16年4月6日(火)〜16日(金)
場 所 ニュージーランド・オークランド&ワンガレイ

4月6日(火)15時。成田空港第1ターミナルビル。出国手続きの為、大韓航空受付カウンターへ。
今回遠征はいつもと一味違う。

ニュージーランドナショナルチーム形コーチのボブ・ダルトン先生よりかねてから指導の依頼を受けていたがこの度、実現の運びとなった。今回はプライベートでボブ先生のお弟子さんを見るために単独ニュージーランド入りした。
今まで30カ国ほどの遠征経験はあるものの、単独というはじめてのケースに胸躍らせていた。
出発前、試合とは違った安心感から前日にようやくパッケージを済ませた。しかしいつもの癖でスーツケースの半分にはインスタントラーメンや、普段では食べないくせに梅干やにんにく詰め合わせ、お菓子のばかうけは海外遠征時の私の必需品となっている。17時フライト。19時30分、ソウル着。ここで乗り継ぎの為、空港内で時間を過ごす。大韓航空ではソウル乗り継ぎのオークランド経由が格安である。

出会い
旅には普段の生活では味わえない、いろいろな貴重な出会いがある。
2時間ほど乗り継ぎ時間があった為、ソウル空港内の売店でビールを飲んでいると、偶然隣あわせた黒人男性がいた。私も国際感覚を養うべく、積極的に彼に話しかけた。するととんでもない会話に転じた。彼はフィージー人でイギリスに向かう途中という。ここまではごく当たり前の話だが、その先の話を聞いて思わず返す言葉を失った。
イギリスに向かう目的がイギリス軍への軍隊志願で4年間派兵されるという。フィージーの物価は安く、警察官の給料はおよそ5万円。安定した職もなく、20万円という高額の給料が出る軍隊には志願者は多いという。今、イラクでは緊迫した状態が続いているが、イギリス軍もイラクに派兵しているという。

フィージーはイギリスの植民地であったことから、イギリス軍として参加できるらしい。しかも最前線に送られる軍隊はフィージーなどの多国籍軍だというから驚きだ。仲間の何人かは命を落としているらしい。彼は家を出るとき「3歳の息子が泣かなかったことを誇りに思う」と言っていた言葉が印象的であった。その時だけやさしい父親の顔を垣間見る事ができた。同じ年頃の子供を持つ親として複雑な思いが頭をよぎる。ただ、どうか彼が無事でありますように!と祈るしかなかった。「Good Luck!」の言葉を贈り、それぞれの搭乗ゲートで別れた。
       イラク派兵されるフィジー戦士
21時30分ソウル発。およそ11時間のフライトでニュージーランドへ。
4月7日(水) 午前11時 NZ・オークランド空港着。南半球のNZは今の季節は秋。ひんやりとした空気がさわやかであった。空港にボブ先生の迎えを受ける。同じタイミングでフィージーのナショナルチームメンバーも空港に到着していた。2日後に行われるニュージーランドオープン選手権大会に出場する為である。ここで形選手3名も私の指導を受けるとのことである。

空港からボブ先生の自宅であるファンガレイまで車で移動。オークランドから北上する事2時間。みどり豊な港町に到着。ニュージーランドの印象はまず緑が多い。また空気がうまい。そして水道水がおいしく飲める。とくればステーキなどの食べ物もうまい。街中には落書きやゴミも少なく、オークランド中心地にも浮浪者は見当たらない。治安がいいのだ。殺人事件などがあったなら大騒ぎらしい。今の日本はどうか?新聞には毎日のように信じがたい事件の記事が載り、そんな事件に麻痺していることが悲しい。一昔前まで言われた安全国家、日本はもう過去の事であったことを考えさせられる。
ニュージーランド生活
そんな事を思いながら、いよいよニュージーランド生活が始まる。ボブ先生宅でのホームステイも、私にとってはじめての体験である。ボブ先生の奥さんであるオリタ婦人がやさしい笑顔で出迎えてくれた。
旅の疲労感はややあるものの、16:00〜18:00 さっそく自宅のガレージにマットを敷き、お弟子さんの指導を行う。彼女はまだ16歳の高校生でボブ先生の直弟子。名前はカエラ・マリエ・ネホ。シャイだがよく話を聞き、頭の回転が良い印象を受けた。ひとつ形を見たが外人特有の力強さは感じるが、細かい部分の修正が必要だった。あと形に気持ちが入ればいいと思った。
18:30 夕食。オリタ婦人の手作りチキングリルとポテト、野菜。バランスがとれていておいしい。またこの土地はいろいろなフルーツも特産で、葡萄もありワインもおいしい。食後のデザートにチョコレートケーキと赤ワインでしばし団欒。家の明かりも白色蛍光灯ではなく、セピア色というのが落ち着く。ニュージーランドは一軒の土地が広く、広い庭付きで郊外にあるほとんどが1階建て。2階を造る必要がないと言う。22:00 就寝。

4月8(木) 6:00起床。熟睡できた。コンディションを整える為、町の散策をかねて1時間ほどランニング。
車の硝子が凍るほど冷えていた。南半球のこの時期は秋である。そんな寒さの中、短パンにタンクトップ姿の学生らしき人たちに出くわし、かわす挨拶もすがすがしい。
7:30 朝食。トースト2枚とバナナ、スモモに紅茶。ボブ夫妻はショッピングに出かけていた。

9:00 ボブ先生と岬を車で巡る。やはり道路両サイドは果てしなく続くファーム(牧場)。緑が本当に多い。
ファンガレイからさらに北上する事1時間。きれいな海岸線とゴルフ場のようにきれいな牧草地帯と海岸線を突き進むと、ケリケリ(kerikeri)という町に到着。ここではマウリ族の古い建築物や部族伝統の格闘術を見せてもらった。私が日本から来た空手家だと聞くと、詳しくテクニックを説明してくれた。
途中、コーヒーショップにてハンバーガーの昼食をとる。
     マウリ族とハイポーズ!!「ウ〜!」
14:00 道場にてフィージーナショナルチームの3人の形を指導。みな素直でまじめである。やはりパワーはあり、これから技術を身に付ければ楽しみな選手もいる。明日のニュージーランドオープン選手権大会の調整練習をした。
16:00〜18:00 カエラの指導。驚いた事に昨日の注意点をほとんど直してきていた。「なんとしても吸収する」といった意気込みが感じられ、こちらも思わず力が入る。こういうところは日本の道場生たちにも学ぶべきものがある。最低限のポイントを修正したが、明日の大会の健闘を祈る!
19:00 夕食。今夜はラムステーキに野菜とポテト。プールつきの中庭でダイナミックにバーベキュー。

こちらのラムも日本で食べるそれとは違い、独特の臭みもなく、柔らかでジューシーなのには驚いた。「水と食べ物がいいからね!」とボブ先生が言う。確かに本場で食べる産物はやはりボリュームも味もぜんぜん違う。以前、高知に行った時に本場の「カツオのたたき」を食べたときと同じくらい地元での食のボリュームとうまさを痛感した。この家の習慣だと思うが、一切テレビをつけずに会話を大切に家族がいろいろな出来事や、質問などで会話を楽しんでいる。夕食時、家族の団欒の場という事が当たり前になっているところはすばらしいと思う。
ニュージーランドの夜は早い。商店を始め、飲み屋なども夜10時にはほとんどの店が閉まり、街の灯りが消える。若者はどうしているのだろうと思うほど、静かであった。これで家族団欒も納得した。日本ではどうか?と考えてしまうが、生活環境に違いがあるにしても良い事は学びたいと思った。

しかし、あまりに暇な夜は何か寂しい。ボブ先生がパソコンを持っていたのでお借りしてインターネットしようと思った。が、ここで問題発生。海外のパソコンなので日本のサイトに入っても日本語が文字化け。@@@@@□□□□□・・・・・悩んでいるところ、フィジーの選手の一人がインターネットサービス関連の仕事に携わっていて、日本語のダウンロードをして設定を変えてくれたおかげで日本のサイトが見る事が可能になった。私は海外での設定方法を知らなかった為、大変参考になりそしてうれしかった。翌日からの彼への指導が丁寧になった事は言うまでもない。(笑)
  フィジーナショナルチーム ビヤー、ジュニア、マーク
早速、家族や友人にメールで連絡を取ることができた。当たり前の事だが、「インターネットって本当に便利なんだなあ」と感ずる。一昔前なら海外遠征時は自宅に電話する事も、料金と時間帯を気にしながらかけていたが、ネットが繋がる事で直接携帯電話のメールにも即座に連絡を入れる事ができる。メールなら時差があっても時間帯を気にすることなく伝言として連絡できるし、料金も比べのもにならないほどかからない。しかしボブ先生のパソコンには日本語ソフトが入ってない為、こちらからメールを送る場合は、英語もしくはローマ字で送信。これくらいは問題ない。日本からのメール受信は日本語でOKなので安心だ。
23:00 明日の大会の健闘を祈り、就寝。

ニュージーランドオープン大会
4月9日(金) 大会当日。5:00起床。
昨夜はステーキの食べ過ぎでお腹が張っていた為、朝食はオレンジジュース1杯で済ます。
6:30出発。2時間かけ、再びオークランドへ移動。ここでボブ先生の生徒でロシア出身の親子と合流。
9:00前に会場であるユニテックスタジアム(国立工科大学体育館)に到着。

ニュージーランドオープン選手権は国内選手権大会に次ぐ2番目に大きい大会であり、今回の参加人数250人。海外の参加国はタヒチ・フィージー・日本・オーストラリアなどであった。会場はコート3面でマットの質はまああま良い。この大会の特徴は各クラスジュニアとシニアを年齢制限で試合を行った後、再度オープンという形でジュニア・シニア混合で試合をする。その為、試合数が多くなり時間もかかる。選手は形も組手も2種目にエントリーする事は驚いた。と同時に、勝つ為にはスタミナが重要であると感じた。
                                                 大会会場のユニテックススタジアム

ニュージーランドに来てから急遽、模範演武の依頼を受けた為、開会式の際に紹介を受けた。
10時開始予定が準備や打合せで大幅に遅れ、形が始まったのは結局11時30分であった。こんなことは海外では良くある事なので大きくかまえてのんびりと見学していた。

そこに今大会唯一の日本人選手がいた。ニュージーランドに高校1年から留学中の西村誠太君だ。彼は御存知ナショナルチームのコーチである西村誠司先輩の御長男である。初対面であったが礼儀正しく、最初はまじめな印象を受けた。組手に出場し、惜しくも敗れはしたものの日本人らしいファイティングスピリッツの持ち主だ。上段にフック気味の打撃を受け、意識がもうろうとしながらも最後まで闘っていた。
      唯一の日本人参加者 西村誠太君

一般の団体形の部ではフィージーチームが地元を決勝で破り、金メダル。
短期間ではあったが、練習の成果が出ていたようだ。

彼らは今年のメキシコ世界大会出場チーム。3人ともに剛柔流だが、劉衛流や糸東流の形もこなす。海外では大会に関して、流派の垣根がなくなってきているように思う。新ルールに対応する為に割り切っている。確かに持ち形が多く必要とされる新ルールにおいては、流派のこだわりは選手にとって問題なのであろう。日本でも去年の国体においても同じ現象が起きているのだから。ただ、競技と流派の、認識と使い分けはしっかり出来なければいけないと思う。
   団体形優勝のフィージーチーム


注目のカエラ選手は高校生の部でまず優勝。しかしこれからが本番。続くオープンシニアの部に出場。ここでニュージーランド在住の日本人で世界大会出場経験のある理佐選手との勝負があった。そして予想通り、決勝戦は両者の戦いとなった。共にファイナル形は得意のスーパーリンペイで臨んだ、軍配はカエラ選手に上がった。
またカエラ選手は組手も金、銀を獲得し大活躍であった。
                                         優勝したカエラ選手、ボブ先生と生徒さんたち

3:00 ようやく訪れた昼休みにセイエンチンとマツムラバッサイの演武を行う。日本の形を正確に、そしてナショナルチームとして誇りを込めた演武を心掛けた。現役の日本人選手の形を見る機会が少ないという人々にとって、どれだけ関心があるのかが会場の静けさから肌で感じとることができた。丹田に力を込めて形名を言った瞬間、会場から一切の雑音が消えた。予想外の心地良い環境に酔うように演武に集中できる。


大勢の選手、役員と観客が静まり返った会場で、自分の一つ一つの技を注目しているのが良く分かった。すると体の中心から何か不思議な気のパワーがみなぎっている事を感じた。演武中にこれほど「気持ちいい!」と感じたことは未だかつて無い経験であった。この気持ちを常に大会で発揮させる事が大事であると感ずる。その為の精神集中と気分の盛り上げ方、やはり気力の充実が重要である事を再認識できたことは収穫であった。そして何より海外の役員の先生方や各道場の先生方に評価してもらえた事もうれしかった。
海外に行かなければ味わえない環境の中で、得る事も多いものだ。
       模範演武をする長谷川
20:00 予定より3時間オーバーで長い初日が終了。
そのまま、会場近くのホテルへ移動。えび料理にビールで乾杯!気持ちよく就寝。

4月10日(土) 朝食はパン、ベーコン、ポテト、ハム、ヨーグルト。
10:00 大会2日目。今日は子供の大会。
ニュージーランドでは国際結婚をした日本人の女性指導者も頑張っていて、試合前も熱心に子供たちにアドバイスしている姿が微笑ましい。

小学生の団体形では決勝戦でも当然分解も演じており、新ルールへの対応が底辺にまで行き届いている事は我々も学ぶべきであると感じた。
実際のところ日本では小学生まで新ルールが徹底いない現状は否めない。先生方も、今はレベル的にはこれからだが、若い世代の活躍する10年後が楽しみだと言う。この言葉通り、常に世界を意識した考えが指導にあると感じた。

昨年フランスマルセイユで行われたジュニア&カデット大会において、日本から団体形のエントリーがない事を考えると、ジュニアの強化は世界ルールからしてみれば一歩出遅れているように思う。確かに今の日本の現状からしてみると大会におわれ、団体形に関して言えば世界を目的とした稽古は出来てないと思う。全中やインターハイでも団体形はあるが分解までできるところはないのではないか?。これからは道場単位で世界を見据えた稽古をやっていかなければ、遅れをとるばかりであろう。

日本人の形は世界トップレベルであるが、新ルールはそれだけでは通用しない。我々も新ルールもと、初めてのアジア大会で分解演武において苦汁を飲んだ。経験が大事なのだ。日本の代表として選ばれても新ルールの中で勝ち続けなければ意味はない。これからの若手にはもっともっと経験を積ませなければ。試合会場に立って、今までの練習が通用しない!ではどうにもならない。我々指導者は実情をよく捉えておかなければ。これらは組手も同様である。
  小学生団体形決勝・分解も上手にこなす

今日の模範演武は、バッサイダイとチャタンヤラクーシャンクーを行った。
全般的に形において、指定形は一部正確性に欠く部分もあったが、比較的に4大流派とも上手であった。
自由形においてはもう流派は関係なく、器用に他流派の形をこなしていた。予選は剛柔流だが自由形は糸東流など、やはり新ルールの対応の為、割り切ってやっているそうだ。
また組手においては日本スタイルが多く見られた。上位入賞者においてはトリッキーなフットワークを巧みに使っている人も2,3人いた。そして試合後は必ず両者がコート中央で握手をし、健闘を称えあっている姿は日本人以上にピュアな精神であった。空手レベルもこれから上がっていく国だと感じた。
また、役員の先生方も一致団結、大会を盛り上げていて役員の先生自ら受付や会場のゴミ拾いを積極的に行うなど、すばらしい光景を垣間見る事ができた。

この日、会場に西村誠太君の友人で、同じ留学生のなおみさんがわざわざ演武を見に来てくれた。
今日は誠太君、梨紗さん、なおみさんの4人で久々に日本語での会話に話もはずむ。
しかし、誠太君にはもっと話の流れの中で「ノリ、ツッコミ」を覚えて欲しいところだ。まだお父さんの域には達してない。思わず顔が引きつってしまうあのダジャレニは無敵だ。などと思いつつ、いずれにしても楽しいひと時であった。
                                         なおみさん、誠太君、理佐さんと

18:00会場を出発。帰り間際、連盟の会長さんから記念品を頂いた。
また演武を見て感銘を受けてくれた係員のおじいさんからレアコインを頂いた。
みな親切にしていただき、また皆で連盟を支えていこうとする姿が感じられ、すばらしい事であると、同じ空手道に携わるものとして大変うれしく思った。
   ニュジーランド連盟の役員先生方

20:00 ファンガレイ到着。ボブ夫妻と3人で食卓を囲み夕食はピッザ。ここでもう一人、ホームステイ仲間が増えた。オークランドで和道流道場をしているロバート・スミス先生だ。一緒に練習をしたいという事で、大会後の大事なホリデイを利用しわざわざワンガレイまで足を運んだ。
その夜、友人からのメールで、イラクにおいて4/8、3人の日本人の人質事件を知り、インターネットで確認。残念な事である。NZの新聞も一面トップに写真つきで記事になるほど関心は高い。ふと、出発時にバクダットに向かうと言っていたフィージー人の父親を思い出す。
その夜、遅くまでインターネットで情報確認していた。
また、友人からの励ましのメールに感謝!ほっと息をつく。

合同稽古
4月11日(日) 8:00起床。そろそろ米が食べたい。
10:00〜12:00 今日から本格的な指導。午前中は基本と移動をみっちりやった。
みな、あまり基本稽古に時間はとっていないようだ。基本の重要性を説明しながらの反復練習だが、集中させる為に休憩を何度か取りながら行う。
14:00〜16:00 フィージーチームの形の指導。チャタンヤラクーシャンクー。
16:00〜18:00 カエラ選手、指定形バッサイダイ&セイエンチンの指導。彼女は昨日の組手試合で痛めた腰の状態が悪く全力で動けなかったが、指定形の問題点を指導した。


17:00 待ちに待った夕食。
今夜はステーキ。やはりうまい!
それにビールが一日の疲れが癒してくれる。
やはり本場は違うと感じた。
日本の焼肉感覚でステーキなのだから。

気になっていたイラクの日本人人質事件の続報をインターネットで確認。「日本人開放」の記事を読んだが、未確認情報との事でまだ心配であった。

4月12日(月) 8:00起床。ボブ夫妻はすでにショッピングに出かけていた。近くのスーパーマーケットは朝7:00に開店している。オリタ婦人は車の免許を持たない為、ボブ先生の唯一の空き時間である早朝をショッピングタイムとしているようだ。
トースト2枚と紅茶で朝食を済ます。
10:00〜12:00 カエラ選手、ニーパイポの形の指導。形に関連する基本を交えながら指導していく。癖はあるが覚えが早い。
昼食はパン、チキン、ハム、トマト。少々あきてきた為、日本から持ってきたカップラーメン「めん達」を食べた。「持ってきて良かったと!」思うと同時に胃もほっとした。
14:00〜16:00 フィージーチーム、アーナンの形。
16:00〜18:00 カエラ選手、アーナンの形。正確な順序と緩急をチェック。
19:00 夕食。今夜はラムステーキ、ポテト、パンプキン、キャベツ炒め。

4月13日(火) 8:00起床。晴れ。朝の天気はよく変わるが、今朝はよく晴れて気持ちいい。
10:00〜12:00 ロバート先生&カエラ選手、ウンシュの形の指導。

昼食は気分転換に近くのレストランへ。海老とサーモンのパスタがおいしかった。
そして初めての町中の散策。静かな港町をイメージしていたが、中心部は多くのテナントやショッピングセンターが並び、学生などでにぎわっていたのは以外で驚いた。
 $2 SHOP(日本でいう100円ショップ)もある

15:00〜16:00 フィージーチーム、スーパーリンペイの形の指導。
16:00〜18:00 カエラ選手、スーパーリンペイ。今日は下半身から技を出す練習。やはり骨格も筋肉も大きい外国人は上半身だけで技を出す傾向にある。言葉で言ってもなかなか理解しにくい部分があるようである。となれば体で感じてもらうことが一番。どうすれば強いパワーがだせるか?お互いに思い切り、ど突き合いをする事にした。私よりも20s以上はある選手は私の技を肌で感じて、理解してくれたようだ。外国人にはこの手のが一番てっとり早い。「言葉よりも体で理解させる」逆に言うと、「口ばかりで実際にやってみせれなければだめなんだ!」とも思う。
呼吸法の重要性も指導すると、フィニッシュも上達した。

19:00 夕食。今夜はオリタ夫人(私はママと呼ぶ)のスパゲティー。さすがイタリア生まれだけあって本場の味は絶品。デザートはケーキに紅茶。この夜はお国自慢の話に花が咲いた。
ママ(オリタ夫人)はイタリア人で、ニュージーランド人である夫のボブ先生とは国際結婚。文化の違いなど楽しい会話をする事ができた。

  ママ(オリタ夫人)の本場仕込みのパスタは絶品!

4月14日(水) 9:00起床。昨夜は食べすぎでやはりお腹が張っている。国内にいるとちょっと食べすぎと食欲のセンサーが働くのだが、海外ではセンサーがまわりのレベルに合わせられるようで不思議に食べられる。「海外留学すると太る」、とよく耳にする事が納得できた。
今日は午後からの練習の為、しばしショッピングへと出かけた。ボブ先生に車で町まで送ってもらい、一人ウインドウショッピングを楽しむ。お土産に民芸品店をまわる。

昼食はタイレストランへ。
地元の人にも人気があるようで店は満員だった。メニューの中から理解しやすい、ヌードルスープとフライライスを注文。見た目も味も最高!タイ米であっても実に1週間ぶりの米に思わずかぶりつく。こうなったら朝のお腹の不調感を食欲がしのぐ。懐かしささえ感じるスパイスの味と馴染みある食感に、当たり前であることのありがたみを思わず実感していた。何故か涙が出てきそうになるほどうれしかった。
                                         これもおいしい、タイ料理!  

ニュージーランドに単独遠征してふと考える事がある。健康である事。平和である事。一人ではない事。「この当たり前の事が大事なんだなあ」と。
自分には家族や多くの友人・仲間がいる事を一人になって改めて実感し、例えば食事にしても、家に居て当たり前のように妻が用意し、当たり前のように片付けてくれる。家族の健康と協力がなければ遠征も出来ないだろうし、もちろん自分自身も健康でなければここにはいない。など、なんというか当たり前の事のありがたみと言う事をひしひしと感じると同時に、感謝したい。
空手ついても同様で、日本には多くのすばらしい先生方が近くにいる。海外ではなかなかそうはいかない。日本から先生を招き、短期間でも技術向上のため、必死にものにしようとする姿勢がある。「いつでも教えてもらえる」という怠慢な精神はこのハングリー精神に打ち負かされるであろうと思う。私自身もそうだが、この事は指導者の立場から、生徒にも伝えておきたいポイントである。

15:00〜16:30 フィージーチーム、最後の練習。指定形から自由形まで一通りチェック。
質問も積極的にしてくる。特に呼吸法と脱力の重要性を再認識でき、目覚しく上達した。
この日、地元の新聞記者が訪れ、取材の依頼に対応した。 

16:30〜18:00 カエラ選手、チャタンヤラクーシャンクーの形の指導。手刀受けとリズムに重点を置く。
最後は一緒に参加した4名の選手とボブ先生に練習時のポイントを話した。
    フィージー代表チームと

ポイントはまずやる気。やる気が起きなければ行動しない。いい指導者がいてもやるのは自分である。強い情熱を燃やして行動する事を何度も話すには訳があった。南国に多い、時間に対してのルーズ的な感覚。このオセアニア地区も例外ではないようだ。そこからくる集中力、やる気意識の欠如は、これからの若い選手たちにとって重要な問題と感じたからだ。しかし互いに稽古を通じてサムライ精神は伝わっていると信じる。


      地元のスポーツ新聞に大きく掲載され、話題となった。

19:00 最後の夜、ママがチキンとニンジン、ブロッコリー、豆のゆでものを作ってくれた。胃にやさしくておいしかった。今夜はカエラも来てみんなと一緒に団欒を楽しむ。日本語の「どうも」の使い方について質問されたが、訳せず困った。ただ、「日本人と話す時によく使うと便利だよ!」と伝えてやった。漢字にも興味があるようでみんなの名前を漢字で書いてあげると、とても喜ばれた。

4月15日(木) 9:00起床。昨夜はスコールのような雨。朝にはカラッっと上がっていた。いよいよ最終日。今日は夕方のフライトの為、午前の練習のみ。

10:00〜12:00 カエラ選手、最終チェックを行った。
基本から移動の後、指定形から決勝形まで順を追っていった。ボブ先生もカエラ選手も真剣な目で一つ一つの技を吸収しようとする姿勢に強い気を感じる。指導した内容を修正し、確実にレベルアップできているようだ。
すべての練習が終わったあと、記念に私から長谷川スクールのTシャツをプレゼントした。
  ボブ先生、カエラと世界大会での再会を誓う!

昼食はトマト&チーズサンドのトーストと、カップ焼きそばを食べる。スーツケースに荷造りを終わらせ、1週間お世話になったボブ先生宅を出発。オークランド空港へ向かった。車中も感謝の言葉とお世話になったお礼の言葉を交わし、別れを惜しむ。
ボブ先生には丁寧に空港内まで見送りに来て頂き、最後に固い握手で世界大会での再会を約束した。
21:00 オークランド空港を出発。

遠征を終えて

今回、単独としては初めての海外先生であったが、私の下手な英語でも何とかやれるものだなあと自信がついた。中学校の単語レベルと積極的に気持ちを伝えるように会話をすると、相手も理解しようとする気持ちが生まれ,会話が成り立つものだ。ただもっと言葉を覚えてれば、もっと楽しめたははずだ。これからも英会話は是非学んでいきたい。
今回の指導な中でよく使った言葉ベスト3。
3位:Breath in ,out (息を吸う、吐く)
2位:Relax (リラックス・脱力)
1位:Soul to fight (闘う精神)
     カエラ選手のファミリーと
しかしよく考えると、日本での稽古の場合でも同じ事であった。当たり前の事ではあるが。
海外の選手たちは、日本のように多くのすばらしい先生に出会う機会が少ない分、少しでも技術を吸収しようとする意識が高かった。課題を出しておくと、翌日には必ず直してくる。この辺も日本の生徒にも見習うべきあると感じた。
近年、ヨーロッパを始め、海外のレベルが上がる中、日本もそれ以上に進化して世界をリードしていくという使命も痛感した。
また空手道を通じて、「国際親善の一助として少しでも役に立てれば」と思うと同時に、自身も終わりなき「心・技・体」の完成を目指し、精進していこうと窓の向こうにまぶしく輝くエメラルドグリーンの水平線を見て思うのだった。