1250℃〜ゼーゲルコーンの話〜
いつ頃からだっただろうか? 俺が意思を持ち始めたのは。
ここはパイオニア2工業エリア、窯業区域の窯場。もっともそれは人間達が発する音(会話というらしい)から得たものなので、俺にはその意味はわからない。俺の名は「ゼーゲルコーン」 この名で呼ばれるのは俺だけではない。俺の近くに並ぶ、俺と同じ形状をしたものは皆この名で呼ばれている。俺たちの役目は、窯の温度をみること。俺たちはある一定の温度に達すると曲がる。曲がったことで窯が一定の温度に達したことを見るための道具だ。(ちなみに番号によって曲がる温度が違い、俺は8番で1250℃で曲がる)俺の近くにいたやつらも、次々に窯に入れられていった。窯の中はどうなっているのかわからない。訊こうにも、人間にも窯に入れられたゼーゲルコーンにも訊く術を持たない。人間同士は会話でお互いの意思を伝え合うことができるようなのに、俺は仲間にも意思を伝えられない。だが、窯から出てきたゼーゲルコーンは、以前の姿は見る影もなく曲がり、その後は人間の手によって捨てられる。
俺はそんなことはまっぴらごめんだ。ここではない場所へ行けばその運命から逃れられるかもしれない。そう思った瞬間、ふっ、と俺の体が動いた。しかし次の瞬間にはもう動くこともできず、そのまま床にたたきつけられた。ちくしょう、もう1度動け! しかし再び動けることはなく、それでももがき続けているとまたふっ、と体が動いた。やった、と思ったがそれは俺の意思ではなかった。見知らぬ人間が俺を持ち上げ、奇妙な笑みを浮かべていた。
俺を持ち上げた人間は、俺を見知らぬ場所に連れてゆき、何やらヒモのようなものを何本も俺にくっつけていた。
「こいつ何をしているんだ?」
「お、成功したようだな。」
「何を……、…あ……!」
俺は驚いた。俺の思ったことが、人間の会話のような音として発せられていたからだ。
「びっくりしたようだね。」
「びっくりもなにも、なんで俺の思ったことが音になる? 何故人間と同じように会話できる?」
「うーん。ちゃんと説明すると難しくなるんだけど、君につけているコードからこの機械を通すと意識やそれに似たものであれば人間の言葉に変換されるんだよ。これで君との会話の可能だね。」
眼鏡を指で押し上げながら人間が言った。
「実は僕もびっくりしたんだよ。ゼーゲルコーンが突然動きだすものだからね。最初は船が揺れたのかと思ったけど、揺れは感じなかったし。で、もしやこいつも意思を持ったモノなのか? と思ってここに連れてきて会話できるようにしたというわけさ。」
「その言い方だと、モノが意思を持つことは珍しいのか?」
俺は疑問をぶつけた。
「どんなモノにも意思はあると思うよ。ただね、君の意思の持ち方はモノの意思というより、人間のそれに近いんだよ。だから珍しいんだ。実はね…」
人間が言いかけたところで、突然インターホンが鳴った。
「ああ。ちょっとごめんよ。」
人間は一言断るとインターホンごしに何やら話を始めた。しばらくしてインターホンのスイッチを切り、再び俺の方を向く。
「ちょうどいい来訪者だよ。君に是非会ってもらいたい者が来たんだ。」
「え? ついさっき会ったばかりの俺に会ってもらいたいって?」
俺がふいをつかれると、扉が開き、何者かが入ってきた。
白い大きな金属の体、アンドロイドだった。
アンドロイドは俺を見て、
「うわぁ! ゼーゲルコーンじゃんか! どなつかしい!」
興奮を隠せない様子で叫んだ。
「俺を知っているのか?」
「当り前だに。俺オルトンコーンだでね。」
「何!」
オルトンコーンなら俺も知っている。ゼーゲルコーンと同じ役割を担う道具だ。でもこいつはアンドロイド? オルトンコーンだと?
「いきなり自己紹介しても驚かれるだけだろう。ちゃんと順を追って説明しないと。」
人間が笑いをもらしながら言った。
「つまりね、このアンドロイドは元オルトンコーン、といった方がいいかな。君と同じように意思を持ったオルトンコーンだったんだ。」
「え? じゃあ俺と同じようなやつだったってことか?」
「そうだね。実は僕はこいつと出会ってことでモノが持つ意思の研究を始めたんだ。もっとも、まだこいつと君にしか出会えていないけどね。でも、研究を始めたのが、いつだったか、パイオニア2が出航する少し前だから2年とちょっとかな。こんな短期間にふたつもの事例に出会えたってことは、まだこの先君たちのような存在に出会うこともあるだろうね。」
「俺と同じようなやつだってことはわかった。でももうひとつ訊きたい。オルトンコーンが何故アンドロイドなんだ?」
「ああ、ドクターに体を作ってもらったんだに。これで自由にあちこち行けるし動けるし、人間とも話しができるもんだい、便利だに。」
アンドロイドは嬉しそうに言った。
「そこでだ。ゼーゲルコーン。君もアンドロイドになってみるかい?」
「え?」
「意思を持った君にその小さな動かない体は不自由だろう。アンドロイドになれば、さっきも言ったように自由に動くことができるし会話も可能だ。今まで知らなかった世界も開けることだろう。」
予想もしなかったことに、俺は呆然とした。しかし、これはきっと俺が望んでいたことだ。
『ここではない場所に行けばその運命から逃れられるかもしれない』
俺は窯で焼かれる運命から逃れることができるのだ。
「もちろんだ! アンドロイドにしてくれ!」
そして俺はアンドロイドとなった。人間(ドクターと呼ばれているらしい)はその代償として、ハンターズとなり、パイオニア2が着陸できないでいる移民先の惑星・ラグオルの調査をしてくるよう俺に命じた。調査をするためにはハンターズとならなければならないため、俺はアンドロイドハンター・ヒューキャストのボディをあてがわれた。ゼーゲルコーンであった時の白い体は捨てたかったのでボディカラーは黒にしてもらった。聞くところによると、ラグオルへはまだ一部の者しか行くことができないらしい。まだ未踏の地。新しい世界を開こうとする俺にはぴったりの場所ではないか。俺は新しい世界に思いを馳せた。
数日後、ボディを動かす練習、ハンターズへの登録などを終え、初めてラグオルに降りる日がやってきた。ひとりではまだ心配だということで、オルトンコーンも同行することになった。(オルトンコーンはアンドロイドレンジャー・レイキャストらしい)
「実はね、俺ひとりじゃ回復とかできんし、何かあったらこまるで、友達のフォースにいっしょに来てもらうよう頼んどいたでね。」
実は期待と同時に不安感もあった俺としてはありがたかった。
「あ、来た来た。おーい。」
オルトンコーンが手を振る向こうからふたりやってきた。
「わざわざ呼び出して悪かったのん。こいつが今日デビューのゼーゲルコーン。」
オルトンコーンはふたりに俺を紹介した。
「よろしく」
俺は軽く会釈をした。
「シエル=ルシエルです。よろしくね。」
小さなニューマンのフォース・フォニュエールは笑顔でそう言った。
「アクセス=ルシエルだ。よろしく頼む。」
人間のフォース・フォーマーの青年は無愛想気味にそう言った。
「ふたりともレベルけっこう高いでね。まかせとけば安心だに。さて、行くかのん。」
「おう!」
俺ははやる気持ちを押さえきれずラグオルへの転送装置に入った。
ラグオルに降りた。今まで俺がいた窯場よりも、ドクターの研究所よりも、何よりも広く遠くまで見渡せた。心地良い風が吹き、緑の木々を揺らす。さわさわと水の流れる音。鳥のさえずり。初めて経験するものばかりだ。
呆然となっていると、突如体から青と赤の光が発せられた。
「補助テクニックのシフタとデバンドだ。これで通常より攻撃力も防御力も高くなった。」
俺にウォンドをかざしながら言った。
「これでめったなことではダメージを受けないですからね。思う存分暴れてきてください。」
シエルがダブルセイバーを構えながら言った。
「そうそう。何かあってもちゃんとフォローするでね。」
オルトンコーンはライフルを構えた。
「ありがとう! そうさせてもらう!」
俺はセイバーを構え、ラグオルの地を走り出した。