第79話「生命判断」
マメに更新されていたホームページが突如更新されなくなり、何年も放置されるようになる事がある。 個人サイトの場合は、管理人がホームページの運営に飽きたからとかで頻繁にある事象なのだが、僕の知る限りだと、人気のあるサイトでも都市伝説を扱ったサイトサイトではこの現象が頻出している様に感じられる。扱っているテーマがテーマだけに、ここの管理人はどうなってしまったのだろうと、管理する人のいない掲示板に書き込みが増えたりするものなのだ。 そもそも、匿名性がインターネットの特性の1つであり、管理人との意思疎通手段も、電話や対面しての会話の様なリアルタイム性のある方法ではなく、メールや掲示板と言った非リアルタイムとなってしまう為、一旦管理人がホームページから姿を消すとメールの返事も来ず、掲示板にレスも付かず、今までホームページを見ていただけの人にとって、どこの誰だか分からない管理人の安否すら分からなくなってしまうのだ。ホームページが放置されている理由は、管理人が飽きたからなのか、もしかしたら不慮の事故で死亡したのか、知る術は無いのである。 さて、ここにも自分のホームページを放置している管理人がいる。まあ、僕の事なのだけどね。 幸い、特に人気のあるホームページを運営している訳ではないので、ちょっとやそっと更新しなくても、誰もメールや掲示板への書き込みで僕の安否を気遣ってくれないのだが、もしかしたらごく僅かな人は僕の安否を気遣っていてくれるのかも知れない。勝竜さん、死んではいませんか?と。 さて、当の勝竜は実際生きているのだろうか?僕はそんな疑惑を抱かずにはいられないのである。 その疑惑は、動物として生きている証の1つである、排泄を目的にトイレに入った時に浮上した。 人感センサーと言う物が有る。 部屋に入ると自動的に電気が灯いたり、換気扇が回ったりするシステムに使われている物で、人間の発する放射熱を感知して動作するセンサーなのだ。最近ではトイレにこのシステムが導入されている所が増えているのだが、ある日、いつも通り腹の調子が悪かった僕は出勤してすぐに会社のトイレに入った。会社のトイレは人感センサーによって僕を出迎え、辺りを明るく照らしてくれたのである。そんな当たり前の反応など僕は気にも留めず、便座に鎮座し排泄を開始した。腹の調子が悪い時は往々にしてトイレに滞在する時間が長くなる物なのだが、その時も例外なく長引いていた。そして時間は過ぎ、苦悶の表情が和らぎかけたその時、突如ぱっとトイレの中が闇に包まれたのである。人体が発する放射熱を感知して明かりを照らす人感センサーが、僕の存在を否定したのである。 つまりそれは、僕が熱を発していないと言う意味であり、「鼻が伸びちゃうよ」は更新が滞り、管理人は死んだのかも知れないと囁かれるのであった。いや、囁かれていないって。 [完] |