第72話「セーラー服を破らないで」


「勝俣君、もうこんな時間だぞ」

 

「そうですね、竜禅寺課長。さっきの商談が長引きすぎました。もう次のアポの時間まであまり有りませんよ」

 

「うむ、昼ご飯もまだ食べていないのに。今日は忙しいな」

 

「竜禅寺課長、ファーストフードで済ませますか?ハンバーガーショップがありますけど」

 

「ああ、私はそんなちゃらちゃらした食べ物は嫌いなのだが今日のところは仕方が無いな」

 

「では行きましょう」

 

 

 

「竜禅寺課長、いくらファーストフードに慣れないからって注文する時に”こいつと同じ物をくれ”はないでしょう」

 

「仕方ないではないか勝俣君。商品名を見ても何が何だか分からないのだから」

 

「はいはい。あー、しかしテスト中なんでしょうかね?学生が多いですねぇ」

 

「うむ、勝俣君、女子高が近くに有るのかな?セーラー服ばかりじゃないか」

 

「そうですね。まったく、マナーが悪いなあ」

 

「そうだな。そうだ、勝俣君、セーラー服を来たおじさんが悪い者を殴り倒すアニメを知っているか?」

 

「え?何ですか?その狂ったアニメは・・・」

 

「そうか知らないのか。ポパイというタイトルだったと思うのだが」

 

「ああ!セーラー服って、水兵の方ですか」

 

「当たり前じゃないか。元々セーラー服は水兵が着ていたのだぞ?」

 

「今時の人はそんな風には考えませんよ。あ、竜禅寺課長、娘さんも来年からはセーラー服ですか?」

 

「何を言うか勝俣君!き、君は何て破廉恥な事を言うのだ!」

 

「は、はあ?」

 

「いいか?そもそもセーラー服というものは、破って脱がす構造になっているんだ。そんな構造の服を娘に着せられるかあ!」

 

「は、はい。すみません。いや、どうしてそうなのか気になって仕方が無いですけど、課長、声が大きいですよ!場所を考えて下さい!」

 

「ん?あぁ、すまん。いいか?セーラー服の胸の部分のV字の切れ込みは何の為に有るか知っているか?」

 

「いえ、知りませんが」

 

「あれはな、海に落ちて溺れる水兵を救出するにあたって、手早く服を破る為にあんな切れ込みになっているのだ」

 

「・・・つまり」

 

「そう。元々セーラー服は破って脱がす事が前提となっているのだ。そんな服を娘に着せられると思うか?」

 

「はあ。話が突飛すぎる気もしますが・・・要するに娘さんの通われる予定の中学の制服は」

 

「当然、ブラジャーだ」

 

「うわ、破廉恥だ」

 

[完]


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