第63話「鰻マフラー」
わしはゴンだ。村ではイタズラ狐として名が通っとる。 2〜3日続いた雨が上がったで、久々に村に出たところだがね。
お、川でオンボロの黒い着物をたくし上げて魚を獲っとりゃーすのは兵十じゃなぁきゃ? どれ、ちょっとイタズラしたるかね。びくの中には鮒やキス、鰻まで入っとるがね。よし、こいつらを逃がしてまえ。 おっと、鰻の奴め、わしの首に巻き付いて来やがった。わしは苦しくなってもがいとったら、兵十に見付かってまった 「うわァぬすと狐め。」 兵十がどえりゃぁ形相で追いかけてきたで、わしは鰻を首に巻いたまま逃げたったがね。
数日後、何となく村に行ってみると、何やら葬式が行なわれとった。 誰ぞが死んでまったかと見ていると、それはどうやら兵十のおっかぁだったみたいだ。 思えば、兵十のおっかぁが床についていて「鰻が食べてぁ」と言ったに違いにゃぁ。 ほんだで兵十は一生懸命鰻を獲っとんだわな。 わしは柄にも無くちぃっと反省した。あんなイタズラせんけりゃぁ良かったがね。
それからわしはこっそりと兵十の家に、栗や松茸を届けてやる事にしたった。せめてもの罪滅ぼしのつもりだがね。 そんな日が何日も続いた後の月のええ晩、中山様のお城の下でぶらぶらしとったら、兵十と加助が歩いとらっせるのが見えた。 わしはこっそりと2人の会話に耳をすませた。 「そうそう、なあ加助。」 「ああん?」 「おれあ、このごろ、とても、ふしぎなことがあるんだ。」 「何が?」 「お母が死んでからは、誰だか知らんが、おれに栗やまつたけなんかを、まいにちまいにちくれるんだよ。」 「ふうん、だれが?」 「それがわからんのだよ。おれの知らんうちに、おいていくんだ。」 わしは2人の跡をつけてった。 「ほんとかい?」 「ほんとだとも。うそと思うなら、あしたみにこいよ。その栗をみせてやるよ」 「へえ、へんなこともあるもんだなァ。」 わしはずっと兵十と加助の会話を聞いとった。すると加助の奴、兵十に栗や松茸を置いてくのは神様の仕業だとか言いやがった。 わしが兵十のために頑張っとるだに、神様のせいにされたら、やっとれんがね。
それでもわしは次の日も兵十の家に栗を持って出掛けたった。 兵十は物置で縄をなってらした。わしはこっそりと兵十の家に入ったつもりだったけんども、兵十に気付かれてまったらしい。「ようし。」と声が聞こえたかと思うと、火縄銃の音と同時にわしの意識は少しずつ遠のき始め・・・ ・・・火縄銃を持った兵十が近付いてきて・・・ 「ふん、イタズラ狐め。神様がくださった栗を盗もうなんざ、ふてぶてしいにも程があるわい。」 ・・・・あれ?
[完] |