第62話「両刀使い」


 世の中景気が回復してきたと風の便りに聞くのだが、夏とか冬に貰える「ボーナス」とやらの存在を知らない僕にとっては、そんな事にわかに信じ難いのである。もう9月も目前なのだが、未だに就職活動を続けている新社会人の方も多いのではないだろうか。しかし、世の中不景気で就職難とは言え、何か資格や特技を持っていれば上手く行く場合もあるのである。例えば特技として「ボケとツッコミ両方出来る」と言うのはどうだろうか?

 

 僕が就職活動を開始した大学4年生の頃、身近な友人数名が結婚式場の採用試験を受けると言っていたので、僕もつられて何社か説明を聞きに行ったり試験を受けてみたりした。はっきり言って結婚式場の仕事には特に興味など無く、単に採用試験の場慣れが出来れば良いだろうと言った程度の受験でしかなかったのである。だから、試験の受け方もいい加減だった。いくつか受けた中でも地元ではかなり大手となるグループの採用1次試験で、試験と一緒に行なったアンケートの中の「弊社の各支店への通勤時間を書いてください」と言う質問に、「(  )分」となっている解答欄へ、「自転車で(40)分」と言った感じで、括弧の前に手書きを加えて訳が分からない回答をしておいた。しかし、試験を進めていく間に何故かその式場だけは最終試験まで辿り着く結果になってしまったのである。

 

 最終試験は、なんだか偉そうな人との面接である。

本命ではないにせよ、最終面接だけに緊張してしまっていたので、その時何を聞かれたかあまり覚えていないのだが、お約束の質問の1つである「あなたの長所を教えてください」に対して僕は自信満々で「はい、ボケとツッコミの両方が出来ます」と答えた事だけは克明に覚えている。そして最後の質問である「弊社の正式名称を言ってください」と言う質問に対しては何度も何度もかみながら、やっと言い切った事も覚えている。しかし3日後には採用を知らせる電話が掛かってきたのだからこれには度肝を抜かれた。更には、自分の意思で式場を希望して採用試験を受けた友人が誰も合格しなかったのだから皮肉である。

 

 未だに就職先が決まっていない就職活動中の諸君、結婚式場は自転車通勤とボケとツッコミを欲しているぞ!ってなんでやねん!

 

[完]


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