第60話「肉屋生き残り大作戦」


 自慢じゃないが、僕は焼肉に対してさほど興味が無い。

そもそもお前はカレーにしか興味が無いのだろうと言われてしまえばそこまでなのだが、カレーを抜きにした料理全般で見ても焼肉にはさほど興味が無い。正確には食べ飽きたと言うところが正しい。世の中がWindowsだのインターネットだのと騒いでいる、パソコン業界にとって大変景気の良かった時期にパソコンショップでアルバイトしていたものだから、こと有るごとに焼肉屋に連れて行って貰えた為、食傷してしまったのだ。カレーは何故食傷しないのかが疑問ではあるが、これはまた別のお話し。

 

さて、休日ともなると夕方の早い時間から行列の出来ている焼肉屋が有る。僕は休日にはその店の前をよく通るので見ているのだが、夕食時にもなるとその店(一応正式名称は避ける為、ここからは便宜的に「焼肉の都」と記す)は、店の外まで行列が出来ており、きっと美味い店なのだろうと窺える。しかし所詮焼肉である為、僕は我関せずと焼肉の都の前を通過するのである。しかしある時、焼肉の都の前を通過時に気になる物を発見してしまったのである。それは正社員及び、パート・アルバイト募集の看板であり、これだけ流行っている店ならば随時店員を募集していてもおかしくないと思うのだが、内容がちょっと凄いことになっているのである。

 

縦に長いその看板には、まず一番上に「募集」と大きく書かれ、その下に「正社員、パート・アルバイト」と書かれている。ここまでは良い。問題は応募資格である。資格として3つ挙げられており、それが以下である。

 

笑顔で接客出来る方

手の早い方

明るくヤル気のあるパートさん

 

 どうだろう。問題は2番目の「手の早い方」である。これは一体どういうことなのだろう。

一般的に手が早いとは、知り合ったばかりの女性とすぐに関係を持つ様な意味で使われている。という事は、だ。

「ではこれからアルバイト採用面接を始める」

「はじめまして。ヨシオです。よろしくお願い致します」

「うむ。あー、当店でアルバイトしようと思うのなら、募集要項を見たと思うのだが、君、笑顔で接客は出来るかね?」

「はい、もちろんです。得意です」

「そうかね。しかし当店はそれだけでは駄目だぞ。手の早さはどうだ?」

「はい、街に出れば少なくとも女を5人は連れてくる事で有名です」

「そうか、よし、採用だ。頼んだぞ」

「はい、頑張ります」

とか、そんな感じなのだろうか。そして採用されたヨシオはアルバイト初日から女性店員全員に声を掛け、更には女性客にも声をかけ、時には隣に座り、肩など組みながら肉の焼き方をレクチャーするのであった。これじゃぁホストクラブだ。

 

 そうか、もしかしたら焼肉の都が流行っているのは肉の美味さより、ホストクラブ的演出がウケているからなのだろうか。

成る程と素早く納得して本日は終了。しかしこうなると「ヤル気のあるパートさん」も別の意味に見えてくるなぁ。

 

[完]


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