第58話「田舎者都会へ行く」


フィリップ・K・ディックによる短編小説をスティーブン・スピルバーグが映画化した。主演はトム・クルーズ。

日本では一昨年公開の『マイノリティ・リポート』と言う映画だ。そこそこ大作で、そこそこヒットしたから、この映画の存在ぐらいは覚えている方も多いと思う。この映画の舞台は近未来のワシントンD.C.だ。町を歩けばそこはあらゆる方法を駆使した宣伝や広告が氾濫し、特定の場所では網膜をスキャンされプライバシーそっちのけでその個人向けの情報が強制的に流される。映画全体を通し皮肉を込めて描かれる情報化社会の様子が非常に印象的だった。

 

地元愛知県の県庁所在地である名古屋市を「大都会」などと掲示板に書き込んでから僕は東京に旅立ったのだけど、もし本当に名古屋が大都会なら、ここは『マイノリティ・リポート』の世界だと渋谷の駅から外に出て僕は思った。町中に溢れる情報量がハンパじゃない。そびえ立つビルの窓をスクリーン替わりに広告宣伝を垂れ流し、四方八方から様々な音が耳に飛び込んでくる。この情報量はとてもじゃないが処理しきれない。こりゃとんでもない場所に来たものだと田舎者の僕は思うのだった。

 

 さて、何故僕の様なビビリの田舎者が渋谷までのこのことやって来たのか?

ここ最近掲示板等で僕の動きをチェックされていた方ならご推察していただいていると思うのだが、インディーズ歌手である伊藤多賀之のワンマンライブが渋谷で行われたので、それを鑑賞する為におっかなびっくり渋谷まで足を運んだのである。

当サイトは伊藤多賀之ファンサイトではないので或いは気付きにくいかも知れないが、僕は伊藤君の熱狂的なファンなのである。そして今回、念願叶って初めて生でライブを鑑賞する事が出来、それが既に3日も前の事であるにも関らず未だに興奮冷めやらぬ状態でキーボードを叩いているのである。要するにライブが非常に良かったっすって事である。しかしこれでは一般の方には一体どの程度僕が良かったと感じているのか伝わらないと思うので、誰にでも分かる表現でどれ位良かったのかを表現したいと思う。

 

 夕食はカレーに違いないと思いながら帰宅したら、夕食が煮込まれた2日目のカレーだった。

 

 どうだろう。いかにライブが良かったかお分かりいただけるだろう。元々伊藤君のライブが非常に良い物であると期待していたのに、実際は期待以上に良かったのだから、この表現は非常に適当である。伊藤君のライブはこんなに良い物だなんて、これは1度観てみようと感じていただけただろうか?なんせ2日目のカレーと同等に良いのだから。え?例えが分かりにくい?そうか。では、僕が今までに行った事のある別のライブと比較してみよう。

 

 サザン・オールスターズの野外ライブ。伊藤君はこれよりも良い。

 

サザンのライブとなれば、行った事の無い人でも、その良さはおおよそ予想がつくだろう。実は去年のお盆、僕はサザン・オールスターズの野外ライブを観に行った。当日の入場者数は6万人で、数々のサザンの名曲に会場が一体となって大いに盛り上がった3時間だった。定番の花火も雨に負けずに打ち上がった。いやー、良かった良かったと満足して帰宅した。そして今年は伊藤君である。彼も偶然お盆にライブを行ったので、お盆繋がりとして2つのライブは非常に比較し易い。そして伊藤君のライブの方が断然良かったのである。そもそもお盆は関係無いのだが。

内容以外に、現実的な部分で比較をしたとしても、サザンのチケットは7500円だったのに対し、伊藤君は2800円。コストパフォーマンスにも優れている。7500円も出したのにサザンを見たのは前から123列目の席。ミクロマンのコンサートとしか思えなかったが、2800円の伊藤君は前から2〜3列目で毛穴まで見えそうな位置。これじゃぁサザンに勝ち目は無いのだ。

 

 どうだろう。これでいかに伊藤君が良かったかお分かりいただけただろうか。せっかくなので、もう少し駄目押しをしよう。

 

僕はCHAGE&ASUKAのコンサートにも付き合いで2度程行った事が有る。ライブやコンサートでは、観客にも特定のパフォーマンスを要求する曲が数多く有り、チャゲアスの場合、とある曲で観客は「やぁやぁやぁ」と言いながら拳を突き上げるのだが、僕は照れ屋なので、こんなパフォーマンスが出来ないのだ。周りが全員拳を突き上げているものだから、僕も申しわけ程度に拳を突き上げるのだが、「やぁやぁやぁって何だよ。ビートルズでもやって来るのか?拳を突き上げちゃって恥ずかしいなぁ。怪しい宗教かなぁ」と冷めているのである。が、伊藤君となると全然違う。拳を突き上げるどころか「柔突起!」やら「牛の内臓っ!」やら「あほぅ!」やら「ヘルメット!」と平気で叫ぶのである。「揉み揉み」などと、卑猥な響きのフレーズも平気で口にする。

 

伊藤君のライブはこんなにハマれるライブなのだ。本当に良かったと心から思う。

 

ハタから見ればこっちの方が断然怪しい宗教である事に一切気付かずに熱狂しましたよ。マジで。

 

[完]


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