第4話「目覚め」


 体がゆらされている・・・・・・そんな感覚で僕は目が覚めた。

どの位の間眠っていたのだろう。

そんな事を考えていたら、ふと肩のあたりに温かいものを感じた。

「えっ?」

思わず声に出して驚いてしまった。

僕の横で見知らぬ女性がぴったりと寄り添って眠っている。

何なんだ?この女は誰なのだ?何故僕に寄り添って眠っている?

僕は女性との付き合いが多い方ではないと思っている。

過去に会った事のある女性の顔を思い浮かべるが、この女性は誰なのか僕の頭の中からは引き出せなかった。

 よーく考えろ!この女性が起きるまでに思い出せ!

しかしどうだろう。考え始めると、僕はいつ眠りに就いたかさえ思い出せない事に気付いた。

落ち着け。考えるんだ。気分は悪くないから二日酔いではない。

飲みすぎて眠る前の記憶を飛ばしてしまった訳ではないと信じよう。

そうだ、もっと前の行動を思い出すのだ。

朝、いつも通り7時に起きてNHKのニュースを見ながら朝食を採った・・・うん、思い出せる。

そしてそうだ、僕は本当に何の一点の狂いも無くいつも通り家を出た。

そして駅へ行き電車に乗った。それから・・・・・・・それから・・・・・それからが思い出せない。

完璧にそこからの記憶が抜け落ちている。何ということだ。脂汗が滲み出る。

認めたくないが僕の頭の中は記憶喪失の四文字でいっぱいになっていった。



 隣の女性はまだ眠っている。僕の目が覚めてからどれ位の時間が経過したのだろう。

多分まだ3分にも満たないと思うのだが、記憶喪失と思われる初めての体験に頭が混乱してその3分が何時間以上にも感じられた。

窓がある。目が覚めた時には特に意識していなかったのだが、もちろんあれから外の景色も見てみた。

そして思った通り窓の外の景色には見覚えがなかった。僕は一体どうしてしまったというのだろう。

・・・・・とその時。

「まもなく〜、高蔵寺〜。高蔵寺に到着します〜」

僕の記憶は全て戻った。僕は、通勤する為に乗った電車で寝てしまい、下車すべき駅を寝過ごしたようだ。

隣の女性は知らなくて当然。僕と同じく電車で居眠りする単なる第三者だったのだ。

[完]

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