第37話「味とは」


例えばうまい棒を見ていただきたい。

うまい棒をご存知ない方がいらっしゃるかも知れないので、簡単に説明させていただくと、うまい棒とは駄菓子である。僕が小さい頃は10円で販売されており、そして今でもやっぱり10円だ。これで採算が合うのだろうかと疑問に思うのだが、今回の話題の趣旨とは違うのでまた別の機会に考察するかも知れない。

さて、この10円の駄菓子には実に様々な「味」があるのである。味といっても、趣があるとか風流であるといった意味ではない。うまい棒を鑑賞して「あら、今度のうまい棒はとても粋ですね」「そうかしら。ほほほ。たくの息子の自信作ですのよ」などとは言わないのである。最も、これは僕の知らない世界では行われているのかも知れないが。話しを戻そう。僕の知っている世界では、うまい棒には実に様々な味がある。チーズ味とかタコ焼き味だとかサラダ味だとか。サラダ味とはつまり何味なのだと突っ込みを入れたいが、ここでは抑えていただこう。これだけいろいろな味があるのだが、では普通のうまい棒は何味なのだ?という疑問が浮かんで来るかも知れない。答えは、普通のうまい棒など存在せず、〇〇味であってこそうまい棒なのだ。この様に、元の味が無い物に〇〇味とつけて発売するのはごく一般的な事であろう。

 

ここからが本題である。元の味が有っても〇〇味といって売り出す商品は幾つか思い付くと思う。

例えばポッキーなどのチョコ菓子はその代表例だと言える。ポッキー苺味とか。逆に、〇〇味として売り出していない商品を挙げよと言われたら、多分こちらの方がいろいろ簡単に挙がってくると思う。

はい、そこ、何か挙げてみなさい。ん?カレー?そうだね、苺味のカレーなんて無いよね。はい、次。ん?米?そうだな。カレー味の米があったらカレー屋が困るからな。はい、次。ん?味噌汁?はい、はずれー!君は何を言っているんだ。チョコ味の味噌汁が存在するではないか。

 

そう、以前名古屋駅前にあった全国的に有名なあのホテル(一応正式名称は避ける為、ここからは便宜的に「ホテル都」と記す)の地下の売店で売られていたのである。チョコ味の味噌汁が。僕が学生の頃で、まだホテル都がその場所にあった頃、名古屋駅の地下道はホテル都の地下と連絡していたので、その先の目的地へ行く時はよく利用させて頂いていたのである。ある時、ふと地下にあるホテル都の売店内を外から見てみると、でかでかと「大好きチョコ味」とポップに書かれているのに気付いた。一体何のチョコ味なのであろうかと、そのポップの下を見たところ僕は驚嘆した。そこにはインスタントのカップ入り味噌汁が置かれていたではないか。一体これはどういうことであろう。味噌の汁なのにチョコ味なのである。僕には縁のないこの全国的に有名は高級ホテルでは、チョコ味の味噌汁が売られているのである。おそらく多数の外国人のVIPも泊まりに来ていたであろう。そのVIPが腹を空かせて地下の売店に来た時、見てしまうのである。「チョコテイスト ミソ スープ!ワンダフル!」などと言ったかも知れない。これは実に恐ろしいことである。

 

え?え?・・・って言うかお前の家ではチョコ味の味噌汁を食わんのかって?え?それはお前の家が貧しいからであろうって?え?そうなの?もしかして世間ではチョコ味の味噌汁をすするんですか?もしかして。そうだよね。あの高級ホテルで売ってるんだもんね。

 

[完]


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