第16話「振り返れば、セーラー服おじさん」


 友達の友達は友達なのか?
この様な議論をした経験がある方は非常に多いだろう。あなたはどう思いますか?
この問いに対して、友達の友達はすなわち自分ではないか、と言う違った考え方をすると、自分では友達と思っている相手から自分は友達として見れているのだろうか?と言う議論をしなくてはならなくなるのだが、これをすると色々状況が悪くなるので止めた方が良いかも知れない。

 

「友達の友達が体験したらしいんだけどさ」
と話し出すのは都市伝説の常套句であり、マユツバ物である可能性が高い。本来なら友達の友達など、結構近い存在だと思うので話しが捻じ曲がる危険性は少ないと思われる。都市伝説は都市伝説なのだろう。

 

さて。 

セーラー服おじさんと呼ばれる人物をご存知だろうか。都市伝説ではない。実在する。

セーラー服おじさんとは、一般的には女子学生専用とされている制服を着ている年配の男性の事である。

実はセーラー服おじさんと言うのは、いろいろな地方に存在して、テレビに出たりする事もしばし有る様に思う。過去に名古屋地区でも噂になったセーラー服おじさんがいた。

 

僕がそのおじさんの存在を知ったのは中学生の頃だった。

同級生が、24時間テレビの募金に名古屋へ行ったらセーラー服着たおっさんがいたからサインを貰ってきたと話し、1枚の紙を見せてくれたのだ。何の変哲も無い紙に、色鉛筆でセーラー服を着た人物が描かれており(目、鼻と言った顔を形成するパーツは省略されていた)、その横に「あんほのか」と書かれていたのだ。あんほのか、と言うのがセーラー服おじさんの名前らしい。本名ではないだろう。うわ。変なのがいるなぁ。なんでそんなんにサイン貰ってるんだ?と言うのが僕の感想だった。

 

高校に進学したある時、駅で電車待ちをしていると、反対側のホームに停まっている電車に乗っている客の中に何故だか気になる存在が確認できた。何か違和感がある、と目を凝らしてみると、それはセーラー服を着たおじさんだったのだ。うわ!出た!と正直その時は思った。しかし中学生時代に、そういう人間がいると言う予備知識を仕入れていたので、怯える事無く(相手は線路を1本隔てた上、電車の中にいたと言う理由もあるが)、僕は片手を上げて挨拶のフリをしてみた。

するとセーラー服おじさんはこちらに気付き、何かの踊りを小さな動作で踊り出した。そして電車はそのまま行ってしまった。

また高校在学中の他の時、電車に乗っていると小学生の女の子が悲鳴の様な声を上げたのを聞いた。何事か?とそちらを見ると、いた、セーラー服おじさんだ。なんと遂には同じ車両に乗り合わせてしまったのだ。悲鳴をあげた小学生の女の子は電車を降りて逃げて行った。あぁ、かわいそうに。怖かったのね。

 

そんなセーラー服おじさんとは一体何者なのか。

実は名古屋市中区栄にあるテレビ塔の下でストリートライブをやっていた人物なのだ。セーラー服姿で。あんほのかの芸名で。自分で作詞作曲した歌を引っ下げて。歌は下手なアイドルソングのような感じ。女性が歌うべき内容だった。さすがセーラー服おじさんだ。そしてセーラー服おじさんはプロの歌手を目指して日夜歌っていたのだ。

その頃からセーラー服おじさんはテレビに登場するなど、地元ではすっかり有名になり、遂には地元テレビ局のローカル番組のオープニングテーマを提供する程にまでなった(自分で歌えないのがポイント)。曲名は「タンポポのマンボ」。その歌を歌っていたのが「金太の大冒険」で一世を風靡したつボイノリオ氏であった様に記憶している。

 

さて、実はつボイ氏は僕の中学校の先輩にあたる人物なのだ。

って事は、だ。僕の中学校の先輩の仕事の相手にはセーラー服おじさんがいる、と言う事になる。更に言うならば、元音楽教師であるセーラー服おじさんの経歴からして、僕の姉と同じ大学出身だった可能性が高い。すると、僕の姉の大学の先輩はセーラー服おじさんと言う事になる。

 

セーラー服おじさんは案外身近にいるぞ。皆さんも探してみていただきたい。

 

[完]


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