立喰師列伝
映画好きを自称していると、よく聞かれる上に聞かれると困る質問があります。
それは「今までで一番面白かった映画は何?」という質問です。
面白かった映画は確かに沢山あるのですが、その面白かった映画の中でどれが1番かというと、その中でも一長一短、一概には決められません。
そして、その逆の質問もあります。「今までで一番つまらなかった映画は何?」です。 これも面白かった映画同様の理由で、なかなか決められません。
しかし先日、遂に自分の中で「一番つまらなかった映画」の地位を決定付ける映画に出会いました。
それがこの押井守監督の『立喰師列伝』なのです。
戦後の日本、立ち食い蕎麦屋に現れる「立喰師」と呼ばれる人達。彼らは如何にして1度の食事を得て、如何にしてお代を払わずに店から立ち去るのか。そして高度成長を遂げる日本に於いて彼らは如何に変化を遂げていくのか。戦後から現代に於ける「立喰師」の変遷にスポットを当てたドキュメント映画。それがこの映画なのです。
が、そもそも「立喰師」というものなど存在せず、つまりは偽ドキュメント映画なのです。
内容が嘘なのは構いません。物語を見せる映画はそれ自体が嘘な訳ですし、嘘を表現する方法として、今回のような偽ドキュメンタリーを作る事は何も悪くないでしょう。しかし、それが面白いかどうかとなると、話しは別なのです。
この映画、一応アニメという位置づけなのですが、絵が動くというものではありません。
人物の写真を何枚も撮影して、それを連続して見せて動画にしているのです。映像表現は斬新に感じられますが、すぐに飽きますし、実は静止画で済ませてしまうシーンが物凄く多いのです。そんな観ていて退屈してしまう映像に加えて、虚像のドキュメンタリーを一本調子な上にやたらと難しい言葉の羅列で見せられるとどうなるでしょうか?
「あー、面白くなかった」という感想が出てくるのです。恐らく監督も狙っていると思います。だからこそ、大手を振って僕はこの映画を「今までで最もつまらない映画」と呼びたいと思いました。
この「観たい人だけ観るが良い的な作品」ですが、世界的に名の通った監督ともなると、こういう作品を生み出すことが許されてしまうんですかね。興業的に絶対に成功はしないと思うのです。業界が違えど、「作り手」としては僕も同じ立場にいるので、僕もこの監督の様に偉大になって何作っても許される「作り手」にならなくてはと思いました。
と、会社の朝礼で話そうと思うのでした。
2006年4月16日鑑賞