総義歯製作から見えてくる技工士の未来
                                                 s・sano                              
 始めに
 本格的に、総義歯作りに取り組んだのは8〜10年位前からです。技工歴は専門学校からでは30年を超えて、ボツボツ、リタイヤの年代ですが、今だに納得のいく総義歯は作れていません。
これは何でしょう?他の仕事でもそんな未消化な状態に多くベテランの人々でも、なるのでしょうか?
物作りの原点は、その物を使ってくれる最終消費者の、心の反応や気持ちをフィールドバックしてより高品質の物作りへと進化、発展していくのでしょう。
それがたとえ高価格でも適正ならば、需要と供給の市場経済が正常に働き、多くの人びとは納得して受け入れられ、又、製作者もインセンティブを持ち得るのです。

 歯科技工士は、医療専門職です。これは紛れも無い事実です。医療専門学校で2年間教育を受け、国家試験を受験して合格し、厚生大臣の歯科技工士免許証を交付されているのです。
研修科でもう1年勉強している人もいます。
 他の医療専門職も、ほぼ同じです。(医科系のコ・メディカルスタッフはほとんど3年制です) 私達も、あたり前のことですが医療の一翼を担い身体の一部である人工の歯、咀嚼装置、矯正装置、顔面補綴、等の一部あるいは全部を製作する仕事であるわけですので、同等の社会的責任と、位置付けがあっても当然でしょう。
 しかし、歯科技工士だけは他の医療専門職と大きく違っている所があります。
それは、直接患者さんに処置や、装置の調整をすることができないのです。
厚生大臣の免許がある医療専門職の中で、患者さんと対面医療行為ができないのは多分私達だけです。何か変だと思いませんか。
 一例を上げれば、臨床義肢装具士という医療職があります。身体の一部を人工的に、義肢を製作し、患者さんの欠損している部位に義肢や義足を「合わせて機能の回復」してもらうための仕事です。
某新聞に載っていた、臨床義肢装具士のコメントです、「装具も靴も作りっぱなしでは責任が持てません。リハビリにもきちんと通っていただけるなら・・・」という言葉がありました、正に義肢装具士の当り前の言葉でしょう。
 製作して終わりというのではないのです、むしろ装着してから機能回復するまで、責任をもっている臨床義肢装具士職種として、当然の医療職の仕事です。
義肢、義足だけを作って、納品したらそのあとは手も足も、口も出さず、整形外科医がすべて調整し、装着しリハビリまでしていますか。(もっと言えば、眼科医がメガネのレンズの調整や、フレームの適合まで診ますか、もっともっと言えば、耳鼻科医がオーダーメイドの補聴器のために印象を採りますか)
ドクターの指示、管理のもとで直接に患者さんの心の反応や気持ちを受け止めながら、仕事をするのが国家資格を与えられた医療専門職でしょう。
臨床義肢装具士も、歯科技工士も同じであるべきです。
 場合いによっては理学療法士や、作業療法士も患者さんにかかわることもあるでしょう。
一人の患者さんが病気で苦しんでいる時、医療者はもっとも良い状態に回復するようそれぞれの専門性を生かして、適切な医療行為で患者さんを相手に「チーム医療」として、施術する流れに現代医療はなっているのです。
 話を歯科に戻しますが、今、歯科医院では、技工士を雇用して、歯科医師, 歯科衛生士、歯科技工士でのチーム医療を行っている所はかなり少なくなってきています。
やはり変です、医科診療はチーム医療の方に向かっているのに,歯科だけが逆行していることは何か大きな問題が起きるような気がします。
 たとえば、私見ですが、今の状態を「良し」としたらいずれ従来型の、個人歯科診療所は衰退していき、「特化」に成功した診療所と、フランチャイズで「チーム歯科診療」に成功した所だけが国民の支持を得られるのでしょう
 歯科診療所も患者さんを、「選ぶ時代」から、完全に、「選ばれる時代」に変わってきています。
歯科関係者なら誰でも認識しているでしょう。認識していながら、何か、「いままでのシステムでもいい」と思う保守的で安易な精神が台頭し、痛みを伴う変革の方向に舵をとらなければいけないのに、ただ動けなくなってしまったのです。
 しかし患者さんは正直です、誰でもが納得する方向ヘ、必ず動きます、いったん動き出してからでは、遅いのです。先手必勝は医療の予防と一諸です。
これからも、歯科診療所は増える一方ですし、他方、患者さんのデンタルIQは高くなり、予防の方向に向うことは間違いありませんし、インフォームド・コンセントも解りやすく、パソコンなどの画面でビジュアル的に説明する時代は、もうそこまで来ているのです。
歯科医師は、主訴の緩和処置と全体の治療計画と、具体的な施術を。歯科衛生士は予防のアドバイスと処置を。歯科技工士は、入れ歯や差し歯の機能性や、審美性を患者さんから直接聴き取り、補綴物製作に生かして最適な人工の歯を提供する。
そんな時代に変わって来ているのです。もちろん一番良く知っているのは、患者さん自身です。
むしろ当事者で歯科業界の真中の、又、「その中」にいる、医療専門職の人々が、周りの意識の変化を感じないで、現状維持でも末永く悠々といけると、鈍感になってしまっているのだとしたら、非常に悲しいことです。
国民医療の中の医科であり歯科なのです
繰り返します。医療は、「チーム医療」の方向に大きく舵をきって流れを変へています。
歯科はどうするのでしょう。

 私案 <<<<臨床歯科技工士>>>>

 歯科技工士を歯科診療所のチェアーサイドで歯科医師の指示のもとで、歯科技工士の製作した、人工の歯や、装置を患者さんの状態を、診ながら調整する。又は,修理する。その代わり、製造物に対して責任を持たせる。
 その為には、現状の教育制度をあまり変えないシステムで行くなら、歯科衛生士学校で2年、その後、歯科技工士学校2年、計4年(大学化も当然必要でしょう)修学し「臨床歯科技工士」の、国家試験を受ける資格を与える。     以上です。

 いつまでも顔の見えない技工士ではなく、従来のラボに従事して、模型上で製作する(歯科技工士)と、歯科医師の指示のもと、対面医療行為のできる(臨床歯科技工士)を育てることによって、国民の歯科医療に対する本来の「信頼」を回復させる、最っとも有益な方法でしょう。
具体的な必須行動は法を変える(国政の場に発言者を送ることが最短でしょう)ことしかないのです。