議長!技工士に発言を!

 始めに、歯科技工士の仕事の内容を説明します。私たちの仕事は、歯科医院等において患者さんの歯や粘膜を型取りした石膏模型上で、歯科医師の指示に従って歯の削られた部分や、抜かれた部分に金属や、セラミック、プラスチック等を精密加工して患者さんの口の中にピッタリ適合する人工の歯や、装置を製作する仕事です。
 審美的にも、機能的にも元あった患者さん自身の歯の様に、あるいはそれ以上に再構築するため特殊な技術や、設備、材料をフルに活用し、模型上にミクロの単位で人工の歯を回復させます。
歯科医学的に裏付けられたテクニックと理論で人工臓器を日常的に製作しています。
繰り返しますが、1人、1人の多様な患者さんの要求にピッタリ合う人工の歯を提供するため、多額の設備投資と、日進月歩の学術を研鑚し、歯科医師や患者さんの希望に答えられるよう日々努力しています。
 故に、歯科医療にはなくてはならない必要不可欠な職業です。
最近、注目を集めている「全身と、噛み合わせ」で患者さんの身体のバランスを直し、生き生きとしたクオリティーの高い健康生活を送ってもらうために医療人として一翼を荷なって、ベストを尽くせる素晴らしい職業だとチョット誇りに思っています。
ここまでは皆さんに納得してもらえると思います。

 さて、ではこれから今現在、社会的に置かれている歯科技工士の労働環境の現状を報告します。
まず、信じられないことと思いますが大多数の技工士は週休2日制が未だにでき上がって
いません。1日8時間労働も夢の又夢で、平均10〜12時間、人によっては徹夜も稀ではありません。(日曜日も労働している人もいます。)
社会保障制度も不備で安心して勤務できる会社は極端に少ないのです。
仕事場も、自宅やアパートの1室を改造して内職の延長上にあるような所がかなりあります。
 一般常識的に言っても、口の中の模型(細菌やウイルスに感染している可能性がある)を殺菌処理もせず家庭内に入って来るなど考えられません。
 本来、歯科医院から持ち出される模型等はすべて殺菌処理をしなくてはいけないと思うのは、私一人でしょうか?

 以上のような歯科技工士の労働環境の最悪な状態は、どこに問題があるのかといいますと、国民皆健康保険制度にあります。
日本の健康保険制度は世界的にみても素晴らしい制度と高く評価されています、確かに私もそう思います。
 しかし良い所ばかりではありません、そんな制度にも欠点があるのです、それが歯科技工料金で、加工技術に見合った支払いがなされていないのです。
  
 一例を上げて、理容店の整髪料金と比較してみましょう。
時間的に歯科技工士の製作している冠(奥歯の歯の全体を銀色の金属でかぶせる冠)が約1時間(受注―製作―納品)で、整髪時間と技工製作時間がほぼ同じです。では、金額はどうでしょうか、理髪料の支払いは4000円前後です、冠を製作する技工料はいくらでしょう。
 なんと2000円前後です。(20年前はほぼ一緒の料金でした)
半値です、もうこれではどう見ても6時には店閉じまいはできません、2倍労働しないと同じ生活はできない金額です。
 その人、その人に合わせて手作業で時間をかけて、手抜きはできません、又現状ではコンピューターや機械では作れませんので、身体の一部をハンドワークで加工作業していくのです。よく似ていると思います。
ではなぜ、患者さんの口の中にスムースに冠が入っていくのでしょうか、もうお分かりですね、歯科技工士の長時間労働のたまものです。時間と肉体を犠牲にして、技術提供しているからなのです。

 それほど働いても年収は500万円位と言われています。(平均的サラリーマン家庭の年収は750万円位ではないでしょうか)なんとも悲惨な状態です。
このような状態が長く続くと、歯科技工士はわかっていますが、医療におけるもっとも避けなければならない「質の低下」が起きる危険があります。
今はまだ何とか私たちの自己犠牲で高品質を保っていますが、ある一点を過ぎると何かが「切れる」様に粗悪の冠が出回り、患者さんの口の中にスムースに入っていかなくなる恐れが多分にあります。
 
 では、そうならない様に打つ手はないのでしょうか。
あります。ただ一つ、それは歯科技工士の製作技工料を倍増すればよいのです。
理想的には、患者さんがその冠の価値を納得のうえで、歯科技工士に直接支払うようなシステムになるのが一番だと思うのですがいかがでしょうか。

 本来、昔、歯科技工は歯科医師の仕事でした、昼間に診療し夜、患者さんの顔を思い浮かべながら、上手く合ってくれればいいと思いめぐらして技工をしていたのです
医療は時代と共に変化し、細分化されそれぞれの専門性を求めてより高度で良質の人工臓器を製作する様になるはずなのです。
しかし、今、歯科技工所で患者さんの顔が診えない石膏模型を相手に夜なべして、製作しているものが良質といえるでしょうか。
せめて患者さんを診据えた上で模型をその分身として、又、適正価格で仕事をすれば、日本の歯科技工士の技術レベルは世界に通用すると私は信じています。

 もう一度言います。
歯科技工士の技術評価額は、あまりにも低い。
そのため労働環境の改善が進まない。
転業、廃業が増えいずれ人手不足になる。
粗製濫造になり、質が低下する。
患者さんの顔を診ないため、固有の人工臓器製作に限界がある。故に、真の「物作りの究極」である人工臓器製作にはなりえない。まことに残念です。

 最後に。
歯科技工士は物作りが好きな人達です、ましてや顔貌の審美や、摂食の機能回復に微力を尽くして、人工であるにしても口元に笑顔が戻るとしたら、その顔を見てこの上ない至福を感じることができるのです。

                         S,SANO