具合のいい入れ歯で歯無しにならない小話 本文へジャンプ
噺家・入歯亭亀太

とうとう俺の歯も1本も無くなってしまったなー。
若い時から時々痛くなってはしかたがなく歯医者に行っては治療を受けていたが、痛みが取れちまうと、すぐ不精しては、ほっておいてな・・・
ついに食い物が噛めなくなってほとほと困ってやっとのことで、また治療を受けたが手の施しようがない状態で歯を全部抜くはめになり、結局総入れ歯になっちまったー・・・
しかしなんだなー、歯医者に行くのはどうも気が進まないね・・
昔っから歯を削られたり抜かれたりするのが本当に嫌でこのありさま、でも歯無しでは話にもならねーから総入れ歯を作ってもらったがどうも具合が悪い、何とか使いこなそうとしたがうまくいかない、自分で削ったりしたがぜんぜん駄目・・・・・
でも、仕事が仕事なんで、活舌も悪くなったし、ほんと小話もするのもつらいよ・・・」
も悪くなってしまったし、ほんと小話もするのもつらいよ・・・
またなー、歳も歳なので老後の楽しみは旨いもの喰ったり、仲間と世間話をしたりするのが1番の楽しみだと思うと、具合のいい入れ歯を作り直したいなー・・・

そうだ!!、ここの横丁のご隠居は知恵達者だから歯無しになった話をして、なにかいい方法や、どうして具合のいい入れ歯が手に入るか教えてもらうことにしよう。
こんちわー、ご隠居は居るかい!
「おーおー、どうした?亀さん」、
へえ〜、実は、折り入ってご隠居に相談したいことがあって・・
チョット上げさせてもらいますよ。
「よう来たなー、さあーさあー、ずーずーと奥へ。」
奥ったって1間しかないのに!
「まあーまあーいいじゃないか、そこへ座って、丁度よかった今美味しい沢庵とお茶を入れて一服しようと思っていたところだよ、一緒にどうだい?」
へえ〜、こりゃどうもありがとうございます。
それじゃ、まず、お茶を頂きまーす、よう、これはいいお茶だ、静岡の川根茶ですね。
「ほう、お前さんもお茶の味が解るようになったかね?伊達に歳はとっていないねー。
さあ、こちらの沢庵もたっぷり食べておくれ、遠慮することはないよ。」
ご隠居!このお茶は本当に旨い、しかし・・・この・・・タクワン・・・
「どうした?,食べもしないまえから変な顔して、嫌なやつだねー、昨日少し食べてみたが実に味はいいし、歯ごたえもある、「美味しいお茶に旨い沢庵漬け」日本人に生まれて良かったと思う時だなー。これは一つの食文化というもんだな。うんうん。」
へえ、!?旨そうな沢庵ですねえ・・・・でも・・・
「さあ、遠慮することはないよ」。
遠慮している訳ではないんですが・・・・・・・・・・・
「おかしなやつだね、どうしたんだい?」
へえ、実は食べられないんです・・・・
「なに?身体の具合でも悪いのかい、それとも宗教上に問題かい、でもお前さんのことだからそんなことは無いと思が。」
へえ、そんなたいそうなことではないんですが・・・・
「じゃあ、いいだろう、さ、お食べ。」
・・・・・・・・
「どうした?」
実は、それで相談にきた訳です。
「それでというと?」
へえ、その沢庵が噛めないんです。
「噛めない?どうして?」
噛むと痛いし、動いてしまうし、外れそうになるし、そのうえ噛み切れないないから細かくならない、細かくならないから飲み込めない、悲惨なカタチで吐き出してしまう、もう、どうにもならない・・
だから、食べたくても食べられない・・!!
「お前さん、入れ歯かい?」
へえ、上も下も総入れ歯、噺家が「歯無し」になっちゃー小話にもなりません・・
「でも、口の中には一応入れ歯らしく!!??歯があるではないかい。見た目には入れ歯のようでそれなりに格好ついているのになー。」
そう、ジロジロ見ないでくださいよ、歯無しでは,あまりにも格好悪いし、高座にも上がれませんから仕方なく入れているという代物で食べ物が噛み切れないんですよ。
「ほおー、それは可哀想に、それで、わしを羨ましそうに見ていたのかい。」
へえ、そうなんです、アレー、ご隠居急に背中を向けちゃってどうしたんですか?それじゃあ話になりませんよ、こっちを向いてくださいよ。
ど、どど、どうしたんです、その顔は!皺くちゃの梅干じじーになっちゃたーあ、あ、あ、歯が無い!!
「フュニャ、フュニャ フカフカ」
それじゃあ、話になりませんよ、早く入れ歯を入れてください。あう、驚いたあ!
「ハ、ハ、ハ、そう、実はわしも総入れ歯なんじゃよ。」
ほんと、驚きましたよ、ご隠居のその歯も総入れ歯だったんですねー
「ああ、そうだよ、もう何年も前から具合よく使っているし、たいがいの食べ物も食べられるし、誰が見ても入れ歯なんて思う人はいないよ。」
いやー、俺もご隠居が総入れ歯だったなんて思っていませんでしたよ、何でも食べるし、元気だし。
「そうだろー、それがわしの自慢でもあり、生きている楽しみを増大している訳だ。」
ご隠居!自分で入れ歯を上手く使っているなら話は早い、どうしたらご隠居のように自分の身体の一部として具合よくできるのか教えてくださいよ。
「そりゃーいいとも、でもチョット、わしは総入れ歯にはうるさいよ、よく聞かないといけないよ。」
へえ〜
「まず、総入れ歯の得意な先生を探すことが一番だな。」
それは解っていますが、どの先生でも総入れ歯は入れてもらえるんでしょう?
「うん、それはそうだが差し歯や冠と違って「どて」しかないのだから、その辺の違いがよく分かっている先生がいい。
人間の自然の歯は実に良くできていて「どて」と「ねち」の中にしっかり植わっていてガッシリしているから大抵の食べ物は噛み潰すことができる。
しかし,歯が抜けた後「どて」だけで、その上に入れ歯を入れて食べ物を噛むとなると、根無しでは噛む力はかなり弱くなってしまうし、「どて」を守るためにもガッチリ噛み込んでいたり、ガタガタしたり、小さすぎると「どて」に負担が多くなり過ぎて良くない、解るかね?」
ええ なんとか、要するに差し歯や冠の型取りと、「どて」の型取りとでは違うので入れ歯の評判のいい先生がいるということと、自分の歯は根っこがあってすばらしいこと、「どて」になってしまった場合「どて」の保護を充分考えた噛み合わせや、大きさが必要ということ、こんなところかなー
「そうだな、「どて」の部分を覆って口の中に調和した大きさで、安定していなければいけない訳だ。」
じゃあ、俺の入れ歯は口には入れやすいがどうも隙間やガタツキがあって、小さすぎるということですかねー
「どう、見せてごらん、うん、これは小さいな、わしのは、ほれこんなに大きい、しかし口の中に入れても異物感がない、ということは上手く合っているということだよ。」
へえ、そこまでは大体わかりました、ほかに奥歯の人工の歯の噛む位置はどうなんです?
どうも噛めないのはその辺にあるような気がするなー。
「それはいい質問だな、上と下の総入れ歯はデンチャースペースというところに上手く納まっていて、噛み切る時やすり潰すとき、そして飲み込む時、人工の歯が左右バランスよく噛み合わさっていないと大きく動かされてしまう、これが最も重要なことだな。」
はあ、なんです?そのデンチャーナントカは?
「デンチャーは「入れ歯」のことで、スペースは「空間」だな、ようは元あった歯やどてを回復するために具合のいいお前さん固有の入れ歯の納まりどころだよ。」
それはどうやって決めるのですか?
「それは、先生が咬合平面板いう器具や、ピンクの色をしたローソクのローのような塊で、顎の関節を「生理的下顎安静位」という位置を探して決めていくらしい。
詳しくいうとな、「どて」の型を取ったらその陰型に石膏を流してお前さんの「どて」の型(石膏模型)を作る、そして、それに1層のプラスチック製の総入れ歯の土台を作りその上にローの塊で、仮の高さや、人工の歯を並べる位置を作る、それを口の中に入れる訳だ。
そして、まず上の総入れ歯の歯を並べる位置を決める、この時上口唇と前歯の関係を診る、奥歯は鼻の下の縁と耳の穴を結んだ線と平行になるよう合わせるらしい。
下の総入れ歯の噛む位置は、ローの塊をやわらかくして丁度いいところで止める、今使っている入れ歯の高さや、医学的な顎の関節の安静位や、お前さんも噛んでみてこの辺なら具合がよさそうだというところで止めてもらうといい。」
へえ、あまりよくわかりませんが?
「まあ、先生に任せておけば大丈夫だ。」
へえ、ところで、ご隠居、「どて」の型取りの時、チュウインガムのような塊で採ってもらいましたが、アレも大切なんでしょうねー
「もちろんそうだよ、まあ総入れ歯の型採りは、いろいろあるらしいが、問題は「どて」や口の中の入れ歯が入る空間の型を採るのだから差し歯や、冠とは、随分違うし施術的にも高度な理論が要求されるらしい。
特に総義歯は、食べる時多少の動きが出る、そのとき「どて」に当たって痛みがでてしまう、その兼ね合いを診ながら採るので、難しいと言っていたね、先生が。」
へえ、そういうもんですか。
「それも、先生に任せておけばよろしい。」
へえ、わかりました、その型に石膏を流して、俺の「どて」そっくりの石膏模型を作ってもらうんですよね。
「そうだよ、そして、無歯顎模型を診て、総入れ歯を作るための診査や診断するらしい、型を採る前にも当然「どて」やそのまわりの舌、頬粘膜、筋、ぶよぶよして病的な問題があったり、顎の関節に異常があったりすることもある、人はそれぞれ違うからよく診断してもらい、まず、「どて」や口の中や顎の関節を健康な状態にしてもらわなければ話は始まらないわけだ。」
へえ、今は、顎の痛みはありませんが、どうも、変な悪い噛み癖があるような気がするなー、「どて」や口の中はまあまあだと思いますが、「どて」の大きさでも総入れ歯の出来は違うんですか?
「いや、「どて」だけの問題ではなく、今言ったように総入れ歯を包む口の中や、顎の関節との調和が大切だと言ってたな。」
はあ?!
「まあ、なかなか上手くいかない難症例の場合や、ジックリ納得いくまでクオリティーの高い人工臓器を手に入れたいなら、本物の総入れ歯の前に仮の治療用の総入れ歯を入れて診査や診断をし、治療してもらう訳だが、これらは先生に任せてお前さんの顎の動きと総入れ歯が上手く調和してもらえるように最良の治療をお願いすることだな。」
解りました、口の中や、石膏模型や、仮の入れ歯での診査や診断が大切なんですねー。
「そうだよ、よく考えてごらん、柔らかい口の中の粘膜に、硬い金属やプラスチックや、セラミックが複合加工されて造作されているのだから、少しでも合わないと痛みが出ても当たり前だな。」
ほんとですねー、柔らかい口の中に硬い入れ歯を入れてそれで食べ物を噛むんですからね、へえ、よく解りました、
ところで今入れている入れ歯の前歯が自分の顔に合っていなくて不自然なんですよ、昔あった自分の歯よりだいぶ出っ歯になっちゃて・・・
せめて見てくれだけでも、すぐ直したいなー・・・
「どれどれ、チョット不自然だな、いかにも入れ歯でございます、と、いってるような感じだ、ローで作った土台に人工の歯を並べたら、一度口の中に入れて鏡を見てお前さんの顔にマッチしているか、思っていた位置に歯が並んでいるか見せてもらうといい。」
あ、そうですよね、ローに並べてあれば簡単に位置を変えることできるんですよねー。
「そうだよ、だから出来上がる前に注文をつけておいたほうが製作するほうもいいわけだ、そのとき、「つば」を飲み込んで、数回噛み合わせてみる」。
へえ?どうしてつばを飲み込んで噛んでみるんですか。
「そりゃ、そうだろう食べ物を噛み砕いて飲み込む人工臓器でなければ意味が無い。」
そーですよね。
「それから、発音や、舌の動き、笑った時の歯茎の出具合、頬っぺたの張り具合も気のしておいたほうがいい。」
そーですか、出来上がる前によく見ておかないといけないんですねー。
「そうだよ、総入れ歯の人工の歯は、何種類もあるというから適切なのを選んでいくことができるということだよ。」
えーえーそうですよねー、なんたって自分の歯が1本も無いんですから・・
ところで、どのようにして俺に合った人工の歯を並べていくんですか?
「うん、それはな、さっき言ったお前さんの、上と下の「どて」の石膏模型に、かみ合わせを採るためのローの塊の土台に、プラスチックでピッタリの基礎床と言うものを作る、それでそのローの塊を口に中に入れ口唇や、頬の具合、噛む位置など上下の「どて」のバランスを診て決めてあるので、それを基準に人工の歯を並べていく、これがとても難しいので大変大事な事なんだな、具体的に言うと、そのローの上下の塊をピッタリ合わせ、その位置をしっかり止めて、開閉できる機械に取り付ける、これは「咬合器」と言う機械で顎の関節の動きを再現できるものらしい、何種類もあり、又、調整したりすることができるもので、お前さんの顎の動きに合った咬合器を使ってもらうといい、この時、上下、左右、前後が少しでも狂っていたら、咬合器上で再現できないからかなり注意が必要と技工士が言っていた。」
へえ、あまりよく解りませんが?
「この辺は、歯科技工士の造作がうまくいっていれば心配することはない。」
へええ、ところで、人工の歯はさっきいろいろあるとおしゃいましたがどういうもんですか?
「そうだな、それもいい質問だな、なんでも自然の歯の形をしていればいいということではない、神様がくれた自然の歯は、しっかり植わっていて見える部分は、3分の1位で、根の部分の、3分の2位は「どて」と「ねち」の中にあって、あの形がある訳で、自分の歯が抜けた後のお前さんの「どて」で噛む総入れ歯は、水に浮いた船のようなもので、少しでもガタガタしていたら「どて」に変な圧力がかかり、痛みが出てきたりして「どて」を保護しなくなってしまう、わかるかねー」
へえ、まあ、昔あった自分の歯と、総入れ歯の奥歯の形は違っていてもいいと言うこと、ガタツキがあると「どて」によくないということ、「どて」を守る事が、一番というこうとかなー。
「まあ、その位でいいだろう、ようするに、前歯はお前さんの顔にマッチする、自然感のある形を選んでもらい、奥歯は、最小の噛む力で、最大の噛み潰す力が出るようにし「どて」になるたけ負担がかからない噛みあわせにしてもらうことが大切だ。」
へえ、まな板の上で食べ物を包丁で切り刻むような発想ですか?
「そこまでいくと危なくてしかたがない、まあ、乳鉢とすりこぎ、あるいは杵と臼、これくらいが丁度いい具合にすり潰すことができる。」
なるほど、そりゃー理にかなっていますねー。
「そうだろうー。」
なかなか、そこまでは総入れ歯を見ても素人にはわかりませんね。
「いやー、使ってみれば結構噛めることがわかるもんだよ。」
へえー、そういうもんですか、なんだか、だんだん新しい入れ歯を入れるのが楽しみになってきたなー、でも、新しい入れ歯が出来上がってからも、何度も通いなさいと言われると疲れるなー。
「うん、しかし、ここからが、一番大切なんじゃよ。」
そーですか?完成すれば、もうピッタリいくような気がしますが・・
随分、時間をかけて、丁寧な治療と、丁寧な造作をしてもらえるようですから。
「いやいや、新しくできた総入れ歯は、「咬合器」という機械のシステムで、歯科技工士の手によって精密に造作され、最近では精度の高い総入れ歯が出来るようになってきているのだが、あくまでも、それは機械的人工の総入れ歯で、一人、一人の噛み合わせは調整してもらわなければならないのだよ。」
へええ、それでは、俺らの顎の動きに合うよう、少しづづ微調整してもらうことが一番重要なんですねー。
「そうだよ、そのとうり、それをしなかったら具合のいい入れ歯は手に入らない、諦めてはだめだ、ちゃんと先生の言うことを聞いて、素直にならなくちゃーな。」
へへえーすいません・・
「長く使って身体の一部になるのだから、そんなに簡単に出来る訳がないだろう、うーん、総入れ歯治療というのは、機能回復というリハビリなんだから、お前さんの「俺は具合のいい入れ歯を入れるんだー」という意志をしっかり持ったほうがいい。」
そうですか、そうですよねー、俺も参加して頑張らなくちゃー。
「そう、そういう気持ちが先生に伝わり、先生の方も力が入るというものだよ。」
俺の気持ちの持ちようも大切なんですねー。
「そうだよ、だから、適正な入れ歯を入れてしばらくすると、口の中も新しい入れ歯にピッタリ合ってくるといわれている、身体の順応性が、適正なものなら受け入れてくれる訳だな。」
へええ、そういうもんですか。
「わしも、実感している。」
よーくわかりました、ついでに、総入れ歯の手入れも教えてください、お願いします。
「おお、随分、素直になったではないかい、その素直な気持ちで、辛抱強く通って、ゆっくり造作してもらうこと、これも大切なことの一つだな、総入れ歯の手入れか、これはその入れ歯の材料の性質をある程度知っておいたほうが、長く良い状態で使える訳だ。」
俺ら、入れ歯がどんな物で出来ているのか知りませんよー。
「そーだな!総入れ歯に使ってある材料にもよるが、わしの方法を言うよ。」
それで、結構です。
「まず、いつも清潔にしておくことだな、何より身体の一部なんだから。」
そりゃ、そうですね。
「食後は水洗い、柔らかめの歯ブラシで食べカスを丁寧に落とす、その時、総入れ歯は滑りやすいので、水を張ったボールか、タオルをひいておいたほうがいい。」
はい。
「夜は、出来るだけ外して、水の中に入れておく、時々、入れ歯洗浄剤も入れて使う。」
はい。
「長く使っている間に、頑固な汚れや、歯石が着いてしまうこともある、その時は先生のところに行って取ってもらう、わかったかね。」
はい。
「あ!、そうだこれも大事だ、亀さん、顔は毎日洗うかい。」
そりゃ、当たり前ですよ、目クソ、鼻クソ、よだれも出るし、毎朝洗いますよ。
「汚いねー。」
仕事がら、人前でに出て顔を売るのも芸にうちですから、時々、マッサージまでしてますよ。
「それは、なかなか仕事熱心だな、ところで、口に中はどうだい?」
口の中って?。
「そうだよ、口の中だよ。」
だって、自分の歯は無いし、総入れ歯が入っているんで・・・そのままですよ。
「それはいけないなー、顔と同じで「どて」も柔らか目の歯ブラシでマッサージをして、軽く刺激を与えて引き締めてやったほうがいい。なんたって総入れ歯の土台になっているんだから。」
なるほど、顔と、入れ歯を洗う時、いっしょに「どて」もマッサージですか!
「そのとうり、毎日しっかりやっとくれ、まあ、この程度で充分だろう、長く使っている間には、歳とともに「どて」が縮んでくる場合もあるし、もちろん、病気になった時だって「どて」に変化がある、総入れ歯が緩くなったり、痛みが出たりして、使いづらくなることもある。」
その時は、どうするんです?
「自分で削ったり、入れ歯安定剤を使ったりしないで、先生のところに行って調整してもらったり、裏打ちしてもらうといい。」
はい。
「定期的に入れ歯の具合を診てもらうのが手っ取り早いな。」
はい、よーくわかりました、あ!そうだ、最後に俺にとって大切こと聞くのを忘れるとこだった。
「なんだい?」
これ。
「なに?親指と人差し指で、輪を作って、ああ、そうか、お金のことだな!」
ピンポーン!そうなんです、これを聞かなくちゃ、落ち着いて総入れ歯作りに通えません。
「お金か、これも大事なことだな、具合のいい総入れ歯に、どの程度の価値があるかだ、人それぞれ入れ歯に対する価値観は違う訳で、お前さんが納得して、満足できれば、それ相当の金額は当たり前だな。」
はい、そうですね、俺のための特別注文なんですから。
「まあ、先生の腕前や、技工士の腕前、入れ歯を作るための材料やそのシステムでかなりの違いがあると言ってたな、ケースバイケースのようなので、わしの経験と価値観で言うと、「1回の食事が1,000円とする、その時の入れ歯の使用価値が50円とする、と、10年使うと50万円位になる、たとえは悪いが、軽4輪自動車の新車はこの金額では買えないな、もっと長く使えると50万〜100万円の価値がある。」
なるほど。
「1000円の食事でその消費税が今は5%で50円だ、これは国に納めているわけだが実体があまりよくわからない、ところが、総入れ歯は50円でそのたびにその価値がわかるし、その上美味しく楽しい食事ができる。」
そーですね、そう考えると、実に安い。
「わしも、充分満足している。」
よくわかりました、50円位で具合のいい総入れ歯を使って何でもたべられて、楽しい会話や、美味しい食事ができる、こんなことめったにありませんよねー。
「うん」
本当に良くわかりました、ご隠居様、先生、大先生!
「おい、おい、よしとくれ、わしの浅知恵を言ったまでだ、保険でも総入れ歯はでき
るから先生とよく相談して、納得した上で、総入れ歯を作ってもらいなさい。」
いや、いや、本日はいろいろご教授下すって、なんとお礼申し上げたら。
「そんな、礼なんて、具合のいい総入れ歯が入るの楽しみのしているよ」
お礼になにか持ってきやしょう。
「そんな、気を使わんでくれ、わしの体験を言ったまでだから・・・そうか、そんなに言うなら・・
ぞうぞ、なんなりと、言って下さい。
「そうか!それなら、アワビの刺身が喰いたい!!」
ア!ア!アワビの刺身!、それなら俺らも食べたい、が・・今の入れ歯じゃ無理だから、具合のいい総入れ歯が入ったら、一杯やりながら、アワビの刺身を喰いましょう。
「いや、冗談だよ、それより、少しは参考になったかい?」
はい、もう、今まで俺の意識も低かったなー、そのせいで、歯切れの悪い、奥歯に物が挟まったような説明しか受けてこなかったので、歯がゆかったですが、本日は噛み砕いたお話と、歯に衣着せぬお答えで、なにか喉に詰まっていた物がスーと落ちたような気がしました。
お後がよろしいようで。