「○月×日、晴れ。 今日からいよいよ正規軍籍ということで、ディアッカ、ラスティと共に、朝一番
で入営手続きをすませる。配属先が同じ隊であるにも関らず、ニコルとアスランの二人は昨日付
けでさっさと手続きを済ませてしまったらしい。
発令日前からダラダラと無駄な時間を過ごしたくないと、俺達が最終日に入営する予定で話を進
めていたのを知りながら、相談もなしにこれだ。どうせ言い出したのはアスランの方だろう。もうア
カデミーの訓練生ではないのだから、いつまでも協調性にかける態度では困りものだ。
ニコルはニコルで、いわれるまま引きずられていくあの性格は問題ありだろう。ともあれ、これから
転属命令が下りるまでのしばらくの間、俺たち五人は同じ隊長の旗下に配属された同僚というこ
とになる。「赤」を纏う者の誇りと責任を肝に銘じて、その名に恥じない働きをしなければ…」
「同日、正午 勝手のわからない兵営内で、俺達を案内してくれたのは、俺達の二期上だとい
う気さくそうな先輩だった。おそらく、ディアッカあたりと気が合うタイプではないだろうか。
ミゲル=アイマンと名乗った、闊達とした人柄を思わせるその先輩は、限られた短い時間の間に
実によく話し、そして敷地内を実によく動き回った。
初対面から適応力のない奴だと思われるのが癪で、一度の説明で内部の構造を理解しようと内
心必死でその後を付いて歩いたが、時折思わせぶりな含み笑いで俺達を振り返ってきたから、
多分あれは俺達の反応を見るために故意に仕掛けてきたのだろう。
それでも上官、先輩の命令が絶対の軍隊に入ったからには、こういったことにも慣れていかなけ
ればならない。そもそも、癇に障るといえば先輩よりも上官よりも、もっと切実に無視できない存在
が同僚の中にいるわけだから、この程度の洗礼など歯牙にかける程でもないのだ。
…それにしても、同じように訓練場や宿舎も兼ね備えた施設だというのに、アカデミーとはなんと
いう違いだろう。ここに来た以上、もう自分はプロの軍人なのだと思い知らされたようで、敷地内
を歩きながら思わず背筋が伸びた」
「同日、午後 敷地内の一通りの説明を終えたミゲル先輩は、俺達に食事を取るよう言い置い
て、いったん自分の仕事へと戻っていった。俺達新卒の指導役といっても、そればかりが彼の任
ではないのだろう。一年先、二年先には俺達も同じような立場になるのだろうが、そこに生じて当
たり前の「差」を見せ付けられたようで、何とはなしに浮き足立ってしまった。
―――ところで、別れ際にミゲル先輩が言い残していった言葉は、一体どういうことだろう。
彼はそれは面白そうに、俺がアスランと仲がいいかどうか、そう聞いたのだ。
…なんだそれは。俺達のアカデミーでの素行や交友関係まで、軍部に入ってもついて回るのか?
まさか仲がいいですとも答えられずに黙り込んだ俺の横で、調子に乗ったディアッカが、良くはな
いよなと茶々をいれた。ラスティはニヤニヤ笑いながらも、黙って成り行きを見守ることにしたらしい。
そして、ディアッカの茶々と、その後結局俺が黙っていたことで、それが答えなのだと察した先輩
は、何故か腹を抱えて爆笑した。
いわく、「おんなじことを言ってやがる」と。
……おい。それはどういう意味だ。今日入営したばかりの俺達の関係が明るいだとか暗いだとか、
なぜこの先輩に知られている挙句に、俺はこうして笑われているんだ?
あいつらか?…いや、この場合ニコルか?あいつがわざわざ、この先輩にそんなことを吹き込んだ
のか?
―――ゲラゲラと声をあげて笑いながら、まあここにいる間はせいぜい仲良くしろよと俺の肩を叩く
先輩に、俺は返す言葉もなく、ただ黙って頷くことしかできなかった。
……やはり、俺とあいつらの相性は最悪だ…アカデミー入学以来、幾度となく自分に言い聞かせ
てきたその言葉をしみじみとかみ締めつつ、着任早々この新天地での先行きを、俺は危ぶまずに
はいられなかった……」