confession4





 「悟天の主観で聞いた話も入っているから、本当のところは僕の思ってい
  る事とは違うのかもしれない。僕が、勝手に偏った方向へ想像している
  のかもしれません。でも、お母さんが自分の手で悟天を鍛えていたとい
  うのは、そういうことなんだと思うんです」

 もしも、お父さんが生きていたら―――

 それは仮定の形をとってさえ、青年の中で、ずっと口にすることを憚って
きた言葉だったのだろう。続けられた悟飯の吐露は、人並み外れた聴覚をも
つピッコロだからこそ聞き取れた、囁きのように頼りないものだった。

 「……きっと、お母さんは悟天にも、修行なんてさせなかった。家にはお
  父さんがいるんだから……それこそライフワークみたいに、強い相手と
  戦う事に夢中になってしまうお父さんがいるんだから、そういうことは
  お父さんに任せておけばいいんだって……っ」
 「悟飯」

 両手で押し包んだままの茶碗をグッと掴み、大きく呼吸を繰り返す。そう
やってギリギリのところで自分を抑えているのであろう青年の姿を、ピッコ
ロはかける言葉を探しあぐねたまま見遣っていた。


 こんな悟飯の姿を、ピッコロは、かつても目にしたことがあった。
 その頃、悟飯はまだまだ発育途中にある少年であり、今よりもずっと頼り
なく、自分の手でできることも限られた子供だった。

 そんな幼い子供が戦いの中父親を亡くし、残された母親と生まれたばかり
の弟を支えるために、惣領息子としての責任を背負わなければならなくなっ
た。その行状が、父親の死と密接に関わりあっていたことも追い打ちとなっ
て、多くの雑事に追われる中、悟飯はどこにも吐き出すことのできない衝動
を、身の内に抱え込む事になったのだ。

 当時、既にこの神殿に居住の場を移していたピッコロは、折に触れ、そん
な弟子の様子を気にかけていた。悟飯自身の精神状態と……物心もついてい
なかった悟天はさておき、母親と二人、互いを気遣いすぎて身動きの取れな
い状況に陥りかねない母子の動向が、ともに気がかりだったのだ。

 ややもすると、依存状態に膠着しそうな二人に距離をとらせるため、口実
をつけて悟飯をこの神殿に招いたこともある。そうして、少年が胸の内に押
し込めてきたものを吐き出させて、足元を見失ってしまっている自身の姿を
彼に客観視させるのは、口下手な自分には骨の折れる作業だった。

 今の悟飯は、あの少年の頃の、冷静な判断能力すら危ぶまれた悟飯と似て
いる。
 どう言葉を返せば、青年のこの衝動に収めどころを与えてやれるのか……
装った鉄面皮の下で、ピッコロは逡巡した。

 反して、それきり絶句してしまった青年は、聞き役となった師に何らかの
反応を求めることもなく、乱れた呼吸を抑えるように、その双肩を何度も上
下させる事を繰り返す。
 そして、二人がそんな風に向き合ったまま、たっぷり百は数え終える頃……
ようやく、悟飯はそれまで伏せていた顔を上げた。


 「……諦めたのなら……諦められたのなら、きっと、その方がいいんです。
  もうお父さんはここにはいない。界王様のところで、これからもずっと
  見守ってくれるだろうけど、だけど、傍にいて僕達を守ってくれる訳じゃ
  ない。だから、残された僕達がしっかりしないといけないんだって……
  僕だって、ずっとそう思っていました。だから、お母さんが、お父さん
  のいない孫家の将来を考えて、お父さん抜きであの家を守る事を本気で
  考えて……もう一人の男子である悟天を鍛えるのは、いい事なんです。
  いい事に決まっているんです…っ」
 「悟飯?」
 「だけど……っ」


 刹那―――視線はまっすぐにピッコロを見据たまま、きつく噛みしめられた
青年の口角が、不自然な震えを帯びた。
 戦慄く唇をそのままに、それでもそれ以上の動揺は晒すまいとしたのだろ
う。相手を射抜くようなきつい眼差しがピッコロへと向けられ……しかし、
ほどなくして、その強張った容色がくしゃりと歪められた。

 耐えかねたように、伏せられた半顔が広げた両の手の中に埋まり―――時を
同じくして、悟飯の喉奥から、苦鳴にも似た唸り声が漏れた。


 「だけど……!!お父さんは帰ってくるんです!たった一日だけ!!」

 またすぐに、いなくなってしまうのに―――!!


 くぐもった叫びの後半は、嗚咽に紛れて明確な言葉にはならなかった。そ
れきり、神殿の凛と澄んだ夜気に、青年の荒い呼吸の音が浸透する。
 
 それは、まだ成長過程にあった少年が、自らの失態が引き金となって父親
を亡くした瞬間に居合わせて以来、ピッコロもついぞ目にする事のなくなっ
ていた、悟飯の腹の底からの慟哭だった。



                             TO BE CONTINUED...

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