safety valve・24







  
 寝台の上に突き倒された青年の体が、傍目にも解るほどの強張りを見せる。
「夜」の冷気に支配された寝室の空気は青年の緊張が伝播したかのように研
ぎ澄まされ、閨事を髣髴とさせるような甘やかさは微塵も感じられなかった。

 そんな相手の様子を敢えて気遣うことなく再び寝台へと身を乗り上げれば、
中途半端に上体を起こしかけた体勢のまま身を固くしていた青年の双眸がき
つく閉ざされる。言いつけに従って自分に全てを委ねる覚悟なのか、そのまま
寝台へと完全に押し倒されても、悟飯は一切の抵抗を示さなかった。
 先刻までのように、単純に、己の中に蟠った熱を抜くだけでは済まないのだ
という事は承知しているのだろう。その総身は、誤魔化しようもないほど小刻
みに震えを帯びていた。

 「……悟飯」

 反って逆効果かと危ぶみながらも、その名を呼んで、楽にしていろと言外に
促してやる。案の定青年のこわばりが解ける事はなかったが、ここで手を引い
てしまえば反って彼を追い詰めてしまうだけだ。ピッコロは自らを後押しするか
のように、組み敷いた体へとその手を伸ばした。
 途端に、仰臥した体が弾かれた様に跳ね上がる。どれ程の恐怖に耐えてこ
の場に居残っているのか、青年の覚悟の程を否応なしに思い知らされながら、
せめて僅かでもこわばりが解けるようにと、適度に筋肉の乗った上体を撫で
下ろした。
 と、刹那―――

 「…っ!」

 初めから直情的な刺激を受けるのは辛いだろうと、遠まわしに触れた指先が
脇腹を掠める。途端、組み敷いた体がビクリと竦んだ。
 痛みや恐怖を覚えさせるほど、強い刺激は与えていないはずだ。だが、相手
の様子を確かめるように再度同じ所作を繰り返せば、やはり青年は過剰なま
での反応を示す。
 自分とは異なる生態系に生まれた青年の感覚機能に、確証を以て結論付け
る事は出来ない。それでもおそらくは、自分の所作によって、彼が緊張の中か
らそれまでとは別種の感覚を拾い上げたのだろう事が、ピッコロにもおぼろげ
に理解できた。

 この行為の最終目的である、性交渉に挿げ替えた破壊衝動の発散。その呼
び水となるにはあまりにも覚束ない感覚ではあったが……おそらくは、こそば
ゆいと、でも言い表されるような状態なのだろう。その感覚が、組み敷いた青
年の触覚を、確かに刺激しているように感じられた。   
 目算の裏打ちを得るべく、青年の様相を観察してみれば……苦行に耐える
かのように固く目を閉ざし背けられていたその容色に、疑いようもないほど血
の気が上っているのが、はっきりと見て取れる。

 官能につながるような、直情的な刺激にはまだ遠いのだろう。今はまだ、羞
恥の思いが勝っているのかもしれない。
 だが、外部からの刺激に敏感であるという事は、その身に与えられた刺激を、
それだけ拾い上げやすいという事だ。少なくとも、頑なに身を強張らせていた
青年の「隙」に付け込むには、この変化は申し分のない糸口となった。
  
 与えられる刺激から逃れようとするかのように上体を捩って自分から離れよ
うとする青年を抑え込み、執拗に同じ所作を繰り返す。果たして、意図した刺
激を送り続けた総身からは、程なくして、こそばゆさに身悶えているには大仰
なほどの反応が返りはじめた。 
 一旦は小康状態を見せていた青年の性衝動に、再び種火が灯ったのだと
……そう察するには、その様相は十分過ぎた。

 図らずして、青年の衝動を煽り立てる転換点を探り当てたという事か。受け
身に回った悟飯にとっては不本意な事だろうが、どのような経緯であれ行為
を全うしない事には彼を解放してやれない以上、少しでも肉体的な苦痛を軽
減してやれるのであれば、それに越したことはなかった。

 慎重に力加減を図りながら、脇腹を中心に腹部から上体へと触れた手を這
わせていく。弱点と呼んでもいいのであろう、過敏な反応を示す箇所を重点的
に撫で擦れば、強張りを見せていた青年の総身から目に見えて力が抜けてい
くのが解った。
 この様子ならば、極力苦痛を与えることなく、身の内に蟠る衝動を解放してや
ることができそうだと安堵する。果たして、脱力した体に新たな刺激を送り込め
ば、青年は明らかに欲情していると思しき反応を見せた。

 せめて声だけは漏らすまいと思ったのか、持ち上げた掌に口元を覆われた
青年の表情は定かには解らない。それでも、忙しなく上下する裸の胸元を見
れば、その呼吸を荒げるほどに青年が昂ぶっている事は瞭然だった。

 今更のように、組み敷いた体躯を眺めやる。それまで意図することのなかっ
た目線で見改めると、雌雄に分かれた生命体である青年と卵生である自分
の身体的特徴の差異が、ひどく際立っているようにピッコロには感じられた。
 まだ性徴の兆しもない幼子の時分から、寝食すら共に過ごしてきた相手だ。
かつて地球の神と融合を果たしたことで手に入れた、膨大なまでの叡智に
頼るまでもない。青年の体は、いつしかすっかり成熟した成人のものへと発
育していた。

 つがいを必要としない自分には縁がないであろう、あからさまに「雄」である
事を強調する体格、肉付き。そして自身の真っ当な交配能力を誇示するかの
ように、その全身から惜しげもなく放たれる、凄味すら感じさせるほどの色香。
 それらの全てが、この青年が、既に自らの血脈を繋ぐに足る、雄として十分
な機能を備えていることを物語っていた。
 一度は死に別れた父親との再会に尻込む彼を、深みに嵌まり込んでいた自
虐の堂々巡りから強制的に引きずり出そうと仕掛けた時……ハイスクールに
通う年頃だった青年の体は、男性体として一応の完成形を見せてはいたが、
体のそこここから、発育途中を思わせる未成熟さが感じられた。
 あれからまだ、四年しか経ってはいない。その時間は、地球系人類よりも遥
かに長命な存在であるピッコロにとって、あまりにも短いものだった。

 だが、そんな目まぐるしく過ぎ去った時間の中で、未熟だった青年の体は、
こうして見る者の目に生々しく「雄」を意識させる風貌へと変化した。今の悟飯
から、誰かと性的な関わりを持つ事に対する違和感は感じられない。それは
彼が属する種の特性を鑑みても、そぐわしい機宜を迎えたのだと思わせるもの
だった。
 もしも、その成長期に戦いを強いられることなく、日常を送るには大きすぎる
潜在能力を身の内に眠らせたまま、健全な発育を遂げていたとしたら……彼
はごく自然な成り行きで、望む相手と関係を持っていたのだろうか。そう考える
と、こうして試練か何かのように、本心から望んだわけでもない行為にその身
を擲とうとしている悟飯が哀れだと思った。

 せめて、青年の中で後々まで尾を引くような、深刻な心の傷にならぬように
と胸の内で祈る。その為にも、委ねられた自分が手立てを誤る訳にはいかな
かった。
 悟飯の覚悟に少しでも報いるためにも、ここは強引にでも事を推し進めなけ
ればならない。余計な余地を与えれば、その分「物理的に拒めたものを敢えて
拒まなかった」という問責の種を彼に残してしまうだけだ。
 まず、望んだのは悟飯であったかもしれない。だが、その後の強引な自分の
やり口に、彼は抵抗の術を失ったのだ。例え途中から難色を示したとしても、
抗う事の出来なかった彼には、どうする事もできなかった。
 そうした釈明の余地を残しておいてやることが、今の彼には必要だった。


 「……っ」

 煮え切らない自らを後押しするように、「凌辱」の手を青年の胸元へと伸ば
す。これまで意図して触れることのなかったその頂を指先で押しつぶすように
刺激すれば、組み敷いた体が身をのけ反らせるようにして反応を示した。
 嫌悪による反射的な反応であったのか、それとも新たな官能の種を拾い上
げようとしている事への戸惑いからか、青年が首を捻って寝台に顔を伏せる。
口元を覆う掌にも隠されて、僅かに頬桁からおとがいにかけての輪郭を晒す
のみとなったその面差しに、それでも隠しようのない朱の色が上っているのが
見て取れた。 

 「悟飯……」
 「…っ…っふ…っ」

 芯を持って立ち上がったものに追い打ちをかけるように、更に刺激を送り込
む。断続的に同じ動きを繰り返せば、耐えきれないと言わんばかりに、青年が
総身を跳ね上がらせた。
 「熱」を抜くだけが目的であるなら、敢えて触れる必要のない場所だ。それだ
けに、こうして青年の反応を引き出す事で、自分達は紛れもなく性交渉に及ん
でいるのだという現実を、突き付けられた心地になった。
 ともすれば躊躇いに手を引いてしまいたくなる自身の弱腰を胸の内で叱責し、
身を捩って刺激から逃れようとする体を抑え込む。胸の頂を弄ぶ片手はその
ままに、伸ばしたもう片方の手で、ピッコロはのたうつ青年の脇腹を掴み支え
た。

 「…っひ…っ!」

 刹那、喉奥から悲鳴のような吐息を漏らし、青年の体がビクリと竦む。そうい
えば先刻も過剰な反応が返った場所だと確かめるように掴みなおせば、硬直
した青年があからさまに艶の混ざった悲鳴を上げた。
 ふと視線を下げれば、それまで触れることのなかった青年の下肢が、もどか
しげに寝台の上をうろついている。先刻までの様子見のような状態とは違い、
与えられた刺激に青年が欲情したことは明らかだった。

 決定的な抵抗がないのをいい事に、腰元に沿えた手はそのままに、胸の頂
を嬲っていた手を下肢へと移動させる。堪えるかのように閉じかけられた足の
間に強引に体を割り込ませると、組み敷いた体が再び過剰な反応を示した。
 隠す物がなくなり割り広げられた下肢の間で、青年の性を表すものが、誤魔
化しようもないほどに兆している。ここまでは先刻までの「ガス抜き」と何ら変わ
らないと、ピッコロは熱を持ったそれを躊躇うことなく掌に収めた。

 「…ぅあ…っ」

 途端に総身を跳ね上がらせて悲鳴を上げる青年の様子に頓着することなく、
緩く握りこんだものを手心もなく刺激する。程なくして、あからさまに芯をもって
勃ち上がったそれが手の中で脈打つ動きが伝わってきたが、構わず、ピッコロ
は手にしたそれに更なる刺激を送りこんだ。
 
 「…っひ…!んぅ…っ」

 もとより、一度強引に熱を抜かれたばかりの体だ。その感覚を再び拾い上げ
るのも容易いのだろう。悟飯は総身をのたうたせる様にしながらも与えられる
悦楽に身を委ね、今にも埒を上げようとしているようにピッコロの目には映った。
 だが……ただ熱を抜くだけでは済まない事は、双方共に承知の上だ。そして、
ここで熱を吐き出させたところで、青年の身を焼く衝動は、根本からは治まらな
い。
 バネをしならせる力が強いほど、より遠くに物を飛ばせるように―――身の
内に蟠る衝動を強く抑えれば抑えるほど、反動で発散できる効果も大きくなる。
この性交渉は、悟飯の中に膨れ上がる破壊衝動を性欲に置き換える事で発散
させる目的のもとに、合意したのだ。ならば、より効果的な発散の方法を狙わな
ければ、青年に行為を強いる意味がなかった。

 この程度の刺激では、到底足りない。もっと限界まで追い詰められて、己の理
性を飛ばしかねない程の劣情に身を任せなければ、青年は再び身の内で芽を
もたげる自身の衝動に囚われてしまう。
 もっと決定的な、それこそ彼が我を忘れるほどの「発散」をさせなければ……

 「ん、ふ…っは…ぁ…っ…っひ…っ!?」 

 限界が近い事が目に見えて解る程に熱を持った悟飯自身に断続的な刺激を
送り込みながら、しかし、手の中で脈打つその根元を意図した力加減で戒める。
悦楽を煽られながら同時に逐情を阻まれた青年が、身を捩らせて解放を訴え
たが、ピッコロは取り合わなかった。
 程よく筋肉の乗った腹部が、断続的に痙攣する様子が何とも生々しいと思う。
視線を上げれば、悟飯は上がる呼吸に大きく胸を波立たせながら、持ち上げた
手でもどかしげに己の頭髪を掻き乱しており、彼がもう余裕のないところまで追
い詰められていることは瞭然だった。
 
 「ぅ…あぁ…っひ…っ!ピッコロさ…も…っ嫌だ…っ」
 「堪えろ」
 「うぁ…っ!?」

 解放を求めてのたうつ体に半ば乗り上げるようにしてその抵抗を抑え込みな
がら、それまで脇腹を押さえていた手で青年の下肢を更に暴く。己のとらされ
た体勢に気付いた青年が暴れる隙を与えず、ピッコロはあられもなく割り広げ
られたその下肢の間に凌辱の手を伸ばした。
 同時に、己の指先に意識を集中させる。生態組織再生の要領でそこに己の
波動を集めれば、鋭く伸ばされていた爪が消失し、あとには社会通念上常識
的と評されるであろう形をしたそれが表れた。
 そうして、相手を傷つける懸念を払拭した指先で目的とする場所を探り当て
れば―――組み敷いた青年の体が、激しい抵抗を示す様に跳ねあがった。

 「ピッコロさん!っや…いや、だ…っ」
 「暴れるな。余計な傷を負う羽目になるぞ」
 「ひ…!?んぅ…っ」

 脅すように一声言い置いて、予備動作もなく探り当てたそこに指先を潜り込
ませる。途端に硬直し、抵抗の術を取り上げられた青年の様子に敢えて頓着
することなく、ピッコロは差し入れた己の指で、青年の内部を慎重に探った。

 「…っ…ふ…っぁ…っぐ…っ」

 本来、異物を受け入れる機能など持たない場所だ。元来の用途を無視した
やり方で強引に押し開かれて、嫌悪を覚えないはずがない。総身を強張らせ
た悟飯の容色からは、先刻までの切羽詰まった衝動が成りを潜めたかのよ
うに、目に見えて血の気が引いていった。    
 身の内に膨れあがる破壊衝動を性行為に挿げ替えて発散させるために、
この先どのような恥辱に耐えなければならないのか……悟飯にも、始めから
その覚悟はあるはずだった。だからこそ、口先の止めだてを繰り返すばかり
で、彼は実力行使で自分を制止しようとはしていない。
 だが、それまで今にも爆ぜようとしていた青年の性の証は明らかにその勢
いを失い、彼がいま、どれほどの衝撃に耐えているのかを察することは容易
かった。
 改めて青年の面差しを見やれば、青ざめた容色をしたその口元を、小刻み
に震えながら持ち上げられた掌が塞いでいる。血の気を失うほどに力を込め、
そうすることで辛うじて耐えているのだろう。それこそ掴みよせるかのような勢
いで口元を覆っているその白い指先が、彼が味わわされた衝動の程を物語っ
ていた。
 それでも、ここで自分が手を引く訳にはいかない。これは、青年の身の内で
膨れ上がり箍を外そうと荒れ狂う衝動をを治めるために、避けては通れない
手立てだった。
 情に呑まれて準備を怠れば、結局そのツケは悟飯が我が身で以て払う事
になるのだ。只でさえ望まぬ行為を受け入れようとしている青年に、これ以上
の重荷は背負わせられなかった。

 「悟飯、息を詰めるな。きついだろうができるだけ力を抜いていろ」
 「っは…っ…ぁ、あぅ…っ」
 「息を吐け、腹に力を入れるな。余計な苦痛が増すだけだ」

 きつく収縮する内壁の締め付けに阻まれて、体内に潜り込ませた指はいくら
もその先へ進むことができなかった。青年の緊張を煽らないように、焦れるよう
な動きで緩やかに後肛を探りながら、楽にしていろと繰り返し声をかける。
 全身を固く強張らせながらも、ピッコロの声は一応耳に届いているのだろう。
青ざめた容色を晒しながら、 悟飯は懸命に浅い呼吸を繰り返し、その言いつ
けに従って体の力を抜こうと努めているようだった。だがそれでも、体を内側か
ら開かれる感覚に対する本能的な恐怖と抵抗は如何ともしがたいのだろう。彼
は、ほんの一瞬脱力しては再び全身を強張らせることを空しく繰り返した。

 これでは埒が明かないと、胸の内で苛立ちを募らせながら、せめてこれ以上
青年を委縮させまいと伸ばした手でその体を撫で下ろす。と、ふと思い立った
ように、その手が力を失った青年のものに触れた。
 芯を残してはいるもののあからさまに萎えてしまったものに指を絡め、ゆっく
りとした動きで刺激を送り込む。味わわされた衝撃が勝るのか、青年の反応は
乏しいものだったが、根気強く同じ動作を繰り返している内に、ピッコロの手の
中で、それが再び頭をもたげ始めた。
 時を同じくして、体内に潜り込んだ指の締め付けが、幾分緩やかなものとなる。
頃合いを逃すことなく、その機に乗じてピッコロは一息に青年の内部を穿った。

 「っひ…っぃ…っ!」

 跳ね上がる体を抑え込み、手にしたものを扱きあげて強制的に青年を脱力さ
せる。そうして青年の体内を強引に割り開いていく内に、呑みこませた指先が、
それまでとは幾分感触の異なる部分を探り当てた。  
 属する生形態のメカニズムが異なっても、それが何を意味するものなのかは
過たず理解できる。指先にあたるしこりのような場所を確証を得て押し上げれ
ば、組み敷いた青年の腹部が、はっきりとそれと分かるほどにビクリと震えた。

 これなら先に進められそうだと、胸の内に安堵の思いを飲み下す。再び勃ち
あがった青年のものから溢れだすぬめりも借りながら、ピッコロは青年の体内
にもう一本指を潜り込ませた。

 「…っふ…んぅ…っは…っ」
  
 懸命に力を逃そうとしているのだろう、青年の総身が小刻みに震えを帯びて
いる。体内を穿たれる衝撃によるものばかりではないのだろうと、探り当てた
箇所を二本の指で挟み込むように刺激すれば、その体が打てば返るよな反
応を示した。 
  
 「ひ…っ!ぁ、や…っぅあ…っ!」

 首を打ち振り、開かされた両足をバタつかせ、体の自由を許された部位の
全てを使うようにして、味わわされた衝動の大きさを青年が訴える。こちらの
狙いを阻まない限りは好きにさせようと、構わず同じ所作を繰り返せば、悟
飯は上体をのけ反らせるようにしながら、切羽詰まった悲鳴を上げた。
 熱を持ったものが今にも弾けそうに脈打つのを、絡めた指で再び戒める。
同時に、耐えられないと言わんばかりに埋め込んだ指を食い占めてくる内壁
の動きに抗って更にもう一本指を押しこみ、ピッコロは青年の劣情を煽った。

 「ぁやっ…あぁ…っ!」

 組み敷いた体がいよいよ限界を訴えるかのように、断続的に跳ね上がる。 
箍が外れたように泣き濡れた喘ぎを放ち、形振り構わずに伸ばされた青年の
手が、自身をきつく戒めるピッコロの手に加減のない力で爪を立てた。それで
気が紛れるならと皮膚に食い込む痛みを敢えて振り払うことなく、しかし追い
立てる動きに手心は加えない。
 程なくして……ピッコロの指を呑みこんだ青年の内壁が、その動きを阻むほ
どに激しい収縮を見せた。

 「んあぁ…っも、も…っむり…っひ…っ!」
 「悟飯」
 「ピッコロさ…っんぅ…っピッコロさん…っ!」

 堪えるように幾度となく頭を振る青年の眦から、籍を切って溢れだしたもの
が伝い落ちてこめかみを濡らす。身も世もなく嗚咽を上げながら、彼はピッコ
ロの名を呼び、苦しい、助けてと繰り返した。

 こんな悟飯の顔を……自分は以前にも、見たことがある。
 天下一武道会を目前に控え、七年という時間を死に別れた父親との再会を
恐れて自家中毒に陥りかけていた彼から、無理やりにその鬱屈の原因を聞き
だした時だ。
 あの時も、自分は悟飯の雄の本能を逆手にとって、彼の底意を引き出した。
考えつく手立ての中で最も確実で早道だと思ったからこそ、少なからず悟飯を
傷つける事が解っていても、敢えてそうしたのだ。
 今も、その覚悟に変わりはなかった。やむを得ない経緯によるものであれ、
その結果責任から逃れようとは思わない。

 だが……四年前のあの時を振り返ってみると、自分の中で当時とは形を変
えてしまったものも、そこには確かにあった。 


 「っひ…ぃ…っ!あぁ…っぅ…っ!」

 限界を訴え、泣きながら解放を求める青年の、朱の色に染まった容貌。健全
な発育を物語る、均整のとれた体躯。どれも、四年前とさして遜色のないもの
だ。そんな彼に、望まない苦痛を強いているのだという悔悟の念も、変わる事
はない。
 だが、それでも……成体としてはまだ不完全であったかつての彼を責め苛ん
だ時には覚えることのなかった、不可解な衝動がピッコロの胸襟に蟠っていた。

 年甲斐もなく、身も世もなく泣き濡れたその面差し。もはや堪える事を放棄し
てしまったかのように、その喉から断続的に上がる嬌声交じりの苦鳴。どれも、
青年の陥った窮地を慮って余りあるものだった。
 それを承知しながらも、なお、胸の内に広がる疼きが消えない。こんな衝動
を、自分は今まで知らなかった。

 こうしている間にも、抑え込んだ体はがくがくと震えを帯び、もう耐えきれない
と全身で訴えている。効果的な発散を狙っての目論みとはいえ、青年を解放す
る時宜と追い打ちの匙加減を、見誤る訳にはいかなかった。自分は最後まで、
客観的な視点で悟飯の様相を見届けなければならないのだ。
 それでも、青年を責め苛んでいるという自虐の念とは別のところで、胸襟にこ
びりついて離れない鬱屈がある。

 …と、刹那―――

 『好意でも、悪意でもな。それがそいつから見て万人向けの度合いを過ぎりゃ
  あ、懸想じゃよ』 
 「…っ」

 そんな自分自身を内心でもてあましながら、せめて悟飯を解放する時宜だけ
は確実に見極めようと、湧き上がる懊悩を振り払おうとしていたピッコロの耳朶
に……不意に、かつて界王神界で下された老神の神託が蘇った。
  
 地球という、この辺境惑星に根差したナメック星人は、母星に暮らす同胞達と
比べて随分と生臭くなったものだと言われた。そうであってこそ、自分はこの青
年を苛む破壊衝動から彼を解放するための助けになれるだろう、とも。 
 絶対神の詔はつまびらかだ。その場では的を射ていないただの戯言に思え
ても、後から振り返れば、そこには必ず、あれはああいう事であったのかと得
心できるだけの訴求力があった。
 色事に対する関心が並々ならぬ好色老神だからと、色眼鏡で捉えて片付け
るには、下された神託はあまりにも重すぎる。彼が口にしたからには、悟飯に
対する自分のこの鬱屈には、必ず何らかの理由づけがあるのだ。

 だが……何故、今この時に、自分はそんな事を思い返しているのか――― 

 そんな場合ではないだろうと、胸の内で己の煮え切らなさを一蹴する。今、
何よりも肝要なのは、この瞬間にも限界を訴えて垂泣している青年を、過たず
その苦痛から解放してやることだ。それを仕掛ける自分の内情など、現状には
一切関わりのない事だった。
 腹の底に力を込め、せめて浮き足立って状況に流されることはするまいと、
自らに喝を入れる。そうして改めて覚悟を固めながら、ピッコロは、組み敷いた
青年の体に、新たな刺激を送り込んだ。

 「っあ…っひ…ぅあぁ…っ!」
 「悟飯……」


 もはや哀願の言葉も口にする余裕がないのか、総身を跳ね上がらせながら、
悟飯が嗚咽の合間を縫うようにして、泣き濡れた喘ぎを漏らす。そんな青年を、
言外によく耐え抜いたと労いながら、ピッコロは、彼がずっと待ち望んでいた引
導を渡した。
 執拗に逐情を戒めていたものを解放し、後肛に呑みこませた指で、悦楽を呼
び起こす核を抉る。追い打ちのつもりで兆し切ったものの先端をきつく刺激す
れば、青年は、弾かれた様にその総身を硬直させた。

 「っひっ!ぁや…っあぁっ――――!!」

 長く尾を引いて上がる悲鳴を追いかけるように、限界を迎えた体が二度、三
度と痙攣する。時を同じくして、無防備に仰け反らされた青年の胸を腹を、堪え
に堪えた逐情の証が、白く汚していた。






                                   TO BE CONTINUED...



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