safety valve・21






  「っ嫌だ…っ!ピッコロさん!嫌だ…っ!」



 恐慌状態に陥った悟飯の抵抗は、猛然たるものだった。


 理性を失い、抑え込まれた体勢からがむしゃらになされた抵抗など、本
来、戦闘行為において青年の抱える弱みを知り尽くしているピッコロにとっ
ては、到底効果的な手向かいになどなり得なかった。それほどに、理知
的な駆け引きを放棄した青年が見せた反撃は単調すぎる。

 だが、そのあまりの形振り構わない渾身の抵抗は、単純な力押しという
一面においては、青年が元来保有する資質も相まって、おいそれとは侮
れないものだった。

 「…っ」

 雄の性を逆手に取られたかつての詰問を、まざまざと思い返しでもした
のだろう。傍目には滑稽なほどに、死に物狂いの形相を見せた青年は加
減のない力でピッコロを押し戻し、僅かに生じた隙を見逃さずにその拘束
から逃れると、寝台の片隅までいざるようにして後じさった。

 あくまでも付け焼刃の抵抗であり、このまま自分の無体から逃れられる
と思っての行動ではないのだろう。それでも、血の気の引いた面差しを晒
しながら、少しでも自分から逃れようと寝台の端で慄いている青年の姿を
前に、ピッコロは、あまりにも過剰に思えるその反応に、釈然としないもの
を覚えていた。

 「……悟飯」

 己の矜持を踏みにじられ、望まない性行為を強要されようとしているの
だ。心理的な抵抗を覚えた青年が相応の反撃に出る事は想定の範疇で
はあったが……
 それにしても、行為そのものに対する嫌悪に起因する反応と捉えるには、
この怯え振りはあまりにも不自然であるように、ピッコロには思えた。


 身の内に溜まって暴走しかねない、種の衝動を性欲の形で発散させる
だけの事だ。己の命運全てを擲つような、死活問題などなりようはずがな
い。この閉鎖された空間で人知れず処置を行い、下界での生活に耐えら
れるレベルまでその内気を安定させれば事済む話であろうに……何故、
青年はこうも怯んで見せるのか。

 名の通った有識者になるのだろう。世界から認められる形で、これまで
の自分の奮励振りを知らしめようとしているのだろう。そんな大一番を前
に、こんな「ガス抜き」に委縮していてどうするのだ。
 「雄」である以上、いずれは娶う事になるかもしれない、生涯の伴侶との
間で浮き彫りになるであろう命題なのだ。種の当然の摂理に対してこうも
及び腰になるようでは、きっと将来、この一件で彼が困窮する羽目に――― 
 
 「…っ」
 

 と、刹那―――
 ああ、そういうことなのかと……不意に、ピッコロは得心がいったような
心地になった。



 強制された形であれ、成人した「雄」であれば自己管理の一環であると
すら言えるのであろう、必然的な性行為を……ここまで青年が拒絶する
理由の一端が、おぼろげに解ったような気がする。

 
 身の内に巣食う種の衝動を、性衝動にすり替えて人知れず発散する事
は不承不承に受け入れられても、それを自分以外の存在から強要される
事に、過剰な拒否反応を示した悟飯。
 おそらくは、そうして強制的に発散させられる衝動に、自分自身の理性
が引きずられるような、本能的な恐怖があるのだろう。己でも制御できな
い種としての破壊衝動そのものが、身の内から引きずり出されてしまうの
ではないかと、そんな風に、悟飯が委縮しているように、ピッコロの目には
映った。

 余人の目にどう映ろうが、悟飯がこの先も己自身を保ち続けていくため
に、これは必要な処置だ。そうした「ガス抜き」の結果、彼の理性が束の
間「飛んで」しまったとしても、致し方のない事だろう。幸いにも彼の暴走
は、理性を飛ばした直後には鳴りを潜める程度のものであったし、その際
に、周囲に余計な瑕疵を残さずに済ませられるだけの環境が、ここには整っ
ている。 
 この空間に籠る前、現実世界で青年の乱射した気弾に腕を弾き飛ばさ
れた事実がある以上、加害者である青年がある程度萎縮するのは致し方
がないとして……直接相手を傷つける恐れのある手合わせを強要されて
いるわけでもないのに、青年の拒絶の程は、羞恥の思いがあるにしても、
度が過ぎているように思えた。


 だが……視点を変えて悟飯の現状を見改めてみると、また別の見解が
浮かび上がってくる。


 かつて、サイヤ人としての破壊衝動に負けた悟飯がその理性を失ってし
まった時は、何を置いても自分が彼を止めると、そんな誓約を交わしたこ
とがあった。
 もはや彼の父親以外には、この地上で他に類を見ない破壊力の持ち主
へと成長してしまった彼を、自分如きが正面から止められるとは思えない。
だからこそ、有事の際に自分が彼に言質を与えてやれたのは、彼を道連
れに「心中」することで、その暴走を清算してやる事だけだった。
 
 もちろん、それは最悪の事態を示唆しての保険であり、自分としても、こ
こまで苦楽を共にするようにして生きてきた愛弟子を、おいそれと失うつも
りはなかった。
 それでも、自分が彼に与えてやれる「安心」というのは所詮はその程度
のものであり―――突き詰めれば、今の悟飯には、自分の言質を拠り所
にして「危険」を冒すことに、心理的な抵抗が表れてきたという事なのだろ
う。

 それは―――言い換えるならば、悟飯の「欲」だ。

 
 誓約とも呼べないような、杜撰な言質を青年に与えた当時、世界は魔人
の猛攻に晒されて、その命運は麻の様に乱れていた。
 だが、地上に生きる人間達の「天敵」も消滅し、以来一人の自活した人
間としての生を歩き始めた悟飯にとって、あの言質はきっと、彼が思う以
上に重い枷となっているのだろう。
  
 有事の際は自分の手に掛り、その暴走を清算する……それを拠り所と
して己の半生を歩むには、彼は、あまりに多くの未練を背負い過ぎたの
だ。

 この空間を出れば、もはや目前に迫った博士課程の口頭試問。その
難関を突破すれば、彼はいよいよ、学者としての人生を歩み出すことに
なる。
 目の前に開けた道が大きければ大きいほど、「生」に対して貪欲にな
るのは当然というものだろう。そうした彼自身の社会的立場や心境の変
化が、時としてその歩みを臆病にさせるのは、致し方のない事だった。

 市井の中で、自らの特性を活かした職業に従事しながら生きていく。そ
んな生き方を望む青年が、自らの暴走によって必要に迫られるかもしれ
ない「清算」を、無意識に恐れることは、ごく自然な心の動きなのだろう。
 それでも、言質を与えた自分の手前、きっと、悟飯はそんな自らの「欲」
に恥じ入り、委縮している。そんな自身の内面を、暴かれたくないとも思っ
ているだろう。

 そうした屈託の積み重ねが、自らの内面をもっとも曝け出す結果にも繋
がるのであろう、性衝動という形を取った「発散」に対する嫌悪となって表
れているのかもしれない。そんな風に、ピッコロは思った。


 生あるものに当然認められた、命を繋ぐ行為にまで尻込みしてどうする
のだと、ひどくもどかしく苛立たしい気持ちになる。そして同時に、当然に認
められた権限にさえ自分から手を伸ばすことができずにいる青年の境地が、
哀れだと思った。
 
 物心つくかつかぬかの時分から、特異な出自故に背負った己の命運と戦
い続け、ようやく手の届く場所まで手繰り寄せた未来だ。誰憚ることなく、そ
の手に掴み取ればいい。自分の中に貪欲に抱き込んで、それを、けして他
人に譲らなければいい。世界に対してそう主張できるだけの代償を、既に
彼は、この十有余年という時間の中で払っていた。

 だが……
 世の中から当然に認められてきたはずの、そんな自分本位な生き様を―――
彼から取り上げてきたのは、ほかならぬ自分達だ。
 長い年月、望む事さえ禁じられた生き方を、どうやってその手に掴めとい
うのだろう。言葉であれ行動であれ、何らかの手段を以て周囲から働きか
けられなければ、青年は、それを学ぶ機会にすら巡り合えないのだ。

 己の未来に対して貪欲である事は、生あるものにとって当然の権利であ
り決して恥ずべきものではないのだと、この青年は、心底から納得して受け
入れていない。それこそが、幼い彼を親元から引き離し、ひどく偏った生き
方を強いてきた自分の蹉跌であり責任だった。
 長い年月をかけて作り上げられた、思い込みによる心的障壁を取り除い
てやらない限り、悟飯はこの雁字搦めの状態から抜け出せない。その為に
も、ここで自分が手を引いたら事態は膠着するだけなのだと、ピッコロは、
作り上げた鉄面皮の下で覚悟を新たにした。
   
 できうる限り己の望んだ形の道程を歩み、続く未来へとその命を繋ぐ為に、
生ある者はつがいを求め、自らの種を分け与えた後継を育てようとする。こ
の先悟飯がどのような人生を歩んでいく事になるのか、それはピッコロにも
解らなかったが……少なくとも、その為に必要とされる生殖行為において、
青年が抱いているであろう心理的な抵抗を、払拭しておかなければならな
かった。

 その為にも、現在悟飯が直面しているこの現状を見過ごすことはできな
かったし、また、この契機を利用しない手はないと、ピッコロは思った。

 今こうしている間にも、青年の身の内から絶えず湧き上がってくる、常軌
を逸した破壊衝動。それを「挿げ替え」、「発散」する最も効率的な手立て
は、生物を本能的に支配する欲の一つ、生殖行為であると聞いた。
 その手立てを悟飯が忌避すればするほど、ここで自分が強引に事を押し
進めれば、巻き込まれる形となった彼は、その「効能」を否が応にも思い
知らされる事になる。きっと不本意極まりないであろうそうした現実を、彼
は、不承不承にであれ、受け入れざるを得なくなるのだ。

 頑なに目を背けてきた己の暗部を、こうして白日の下に曝け出そうとして
いる自分の仕打ちを……悟飯はきっと、恨むだろう。長い年月をかけて築
き上げてきた、互いの信頼関係を瓦解させようとする自分の裏切りに、彼
は絶望するかもしれない。それだけの非道を、自分は敢行しようとしていた。

 だが―――それでも、自分が引くことは、できなかった。

 今、自分が重きを置くべきは、既に過ぎてしまった過去の記憶ではな
い。時が移ろうほどに美化されがちな、かつての相関を未練に思うあま
り二の足を踏んでいては、自分に、悟飯は救えない。
 かつて、ほんの稚いばかりの幼子であった彼の生き様を歪めてしまっ
た責任において……自分がこの手で、現状を打破しなければならなかっ
た。 
 
 文字通り、互いの圧倒的な力量差が、容易く相手の命を奪いかねない
という事を身を以て思い知らされたばかりの青年は、どれ程の拒絶感を
覚えようとも、渾身での抵抗など示せないだろう。つい先日、腕一本を代
償にしてその力量差を立証する羽目になった自分が相手であれば、尚
の事だ。
 相手の「弱み」に付け込むのに、これ程適した采配はない。

 もはやどう言葉を言い繕ってみたところで、これから自分がしでかす行
為が、この青年を深く傷つける事に変わりはない。ならば、余計な抵抗
を受けて事態を膠着化させる前に事を推し進められるのは、幸いという
ものだった。

 後は―――それを最後まで敢行するだけの、自分の覚悟が整ってい
るかどうかだけだ。



 「―――悟飯」

 先刻青年が見せた渾身の抵抗によって、彼と正面から向き合っていた
上肢のそこここに、細かな擦傷ができている。それらの一つ一つはすぐ
に塞がり跡も残らないような些細なものでしかなかったが、ピッコロは、
その胸元に細かな筋を描いた己の体液を、悟飯の眼前で見せつけるよ
うに拭い取った。

 「お前の意に沿わないと思うなら……気の済むまで抵抗しろ。その程
  度の事で、俺の体はどうこうなりはしない」
 「…っ」
 「―――例え、腕の一本や二本、千切られようがな」


 その瞬間―――この空間に予め仕組まれた作為的な制約によるもの
ではなく、室内の体感温度が一気に下がったような心地を、ピッコロは
味わった。

 先刻までの、どうにかしてこの現状に抗おうとしていた青年の決死の
形相が、瞬時に強張り、そして剥落していく。そうして青年が絶句する
様を、敢えて言葉を挟むことなく、ピッコロは一部始終眺めやった。
 自ら意図して仕掛けたからこそ肌で感じる。これは、逃げ場もなく自分
の言葉を正面から受け止めさせられた、悟飯の衝動だ。  
 それまで、この事態に委縮しながらも、自分への抵抗を諦めようとはし
ていなかった悟飯の矜持。彼をこれまで支えていたであろうその拠り所
を、敢えて古傷を抉る自分の一言が、形骸化してしまったのだ。

 これで、悟飯は自分に対し、満足な抵抗すらできなくなるだろう。文字
通り、その本気の抵抗が仕掛けた自分の命をも脅かしかねない事を、
彼は突きつけられた追憶と共に、まざまざと思い知らされたのだから。  
 そうして理不尽な枷を科した自分の事を、己自身に向けられた遣り切
れなさまで積み増しして恨めばいい。胸の内でそう願いながら、ピッコ
ロは改めて悟飯へと向き直った。

 
 「っ…ピッコロさん…っ!」
    
 一息に互いの距離を詰め、再び捕えた青年の体を、そのまま寝台に沈
める。寝台に乗り上げた半身で負荷をかけ、組み敷いた体から更に抵抗
を奪った。
 衝撃と、恐らくは自分への恐怖に身を固くした青年の喉奥から息を呑む
ような鋭い悲鳴が上がったが、ピッコロは、頓着することなく更なる屈辱
を彼に与えた。    

 抑え込まれた上体の自由を取り戻そうと、懸命にもがく青年の隙を突
いて完全に寝台の上に乗り上げる。間髪入れず、己の体を使って組み
敷いたその下肢を割り広げれば、半ば恐慌状態にある青年は、それだ
けで完全に身動きが取れなくなった。
 
 互いに肌の触れ合った個所を通じて、早鐘を打つような青年の鼓動
が伝わってくる。そのいつにない焦燥ぶりに、内心で気後れしかける自
らを叱咤しながら、ピッコロは、ひとまとめに掴み取った青年の両手首
をその頭上に押さえつけると、空いた片手を、改めて悟飯自身へと伸ば
した。

 「……っ!」

 ピッコロの自重によって抑え込まれ、更に両腕の動きを封じられた不
自由な体勢からでは、手向かうために身じろぐ事もままならないのだろ
う。悟飯は半ば仰け反らされた姿勢のまま更に総身を強張らせ、せめ
てもの抵抗を示す為なのか、己の両腕に行動範囲を阻まれた限られた
空間の中、懸命に首を捻ってその顔をピッコロから背けた。

 立て続けに突きつけられた衝撃によって、なかば血の気を失っていた
容色が、羞恥の為か悔恨の情によるものか、再び紅潮していく様が、
頑なに背けられた面差しからでもはっきりと見て取れる。健やかな発育
を思わせる柔らかな曲線を描いた頬桁や、きつく結ばれた口元は傍目
に解るほど震えを帯び、ピッコロの目には、悟飯が今にも泣きだしそうに
見えた。

 それでも、総身で抵抗の意志を示しながらも、青年は、ピッコロを制止
しなかった。

 突きつけられた、理不尽な制約によるものばかりではなく……悟飯に
も、このまま現状にしがみついていても何の解決にもならないことが、
解っているのだろう。身の内に燻る破壊衝動を諌めるには、こうして別
種の衝動に挿げ替えて、それを発散してしまうしかない。そうすることが、
自分を取り巻く環境に余計な瑕疵を与えずに済むもっとも手軽で確実
な方法なのだと、きっと、彼も腹の底では納得していた。

 だが、それを行動に移すには、彼には、あまりにも心理的な障壁が多
すぎる。それをやむを得ない代替行為だと表向きに認めてしまうには、悟
飯は、あまりにも世慣れていないのだ。

 だからこそ、こうして外部からの強引な、意に沿わない介入が必要とな
る。それを内心では了知しているからこそ、彼は名分を求める自らに恥じ
入り、そんな自分自身を持て余しているのだ。
 ならば―――そんな不毛な衝動ごと、全て自分にぶつけてしまえばいい。
己自身に向けたがる後ろ向きな感情ごと全てまとめて、ここに、余計な重
荷は捨ててしまえばいいのだ。
 その為に必要だというのなら、この先、この青年からどれ程の物恨を買
おうと構いはしない。そうして自己否定にすら繋がりかねない衝動の治め
どころをすり替えてでも、彼には誰憚ることなく、望む生き様を貫いて欲し
かった。

 その為にも……より効果的に、よりあからさまな形で、自分はここで、己
を雁字搦めにすることを知りながら悟飯が懸命にしがみつこうとしている
彼自身の矜持を、砕いてしまわなければならなかった。


 組み敷いた青年は、それが最後の意地であるかのように頑なに顔を背
け、その面差しを僅かでもピッコロの視線から隠そうとでもしているようだっ
た。
 不自由な拘束を受け、更に己の視野を遮るようなこの体勢からでは、自
分がどんな仕打ちを受けるのかその目で見定める事もできず、余計な緊
張でますます雁字搦めになるだけだろうに、青年はきつく唇を引き結んだ
まま動かない。
 それが悟飯の抱く覚悟の表れなのだろうと、ピッコロも、いまだに二の足
を踏みたがる己の怯弱さを胸の内で叱咤した。


 「…っひ!」

 明確な意思を持った動きで手の中に収めたものを煽れば、不自由な体勢
から仰け反らされた青年の喉奥から、堪えきれなかったのだろう悲鳴が上
がる。それでも拘束を緩めず、兆し始めた情欲の証に断続的な刺激を送り
込むにつれ、組み敷いた体が次第に熱を帯びていく様子が、ピッコロにも伝
わってきた。

 「…っ…ふ…っ」

 己が強制的に欲情させられている事を、それでもできうる限り素振りに表
したくないと抑制しているのだろう。時折息を弾ませながら、それでも頑なに
ピッコロから視線を背けたまま、悟飯は制止の声を上げる事もなく、与えら
れる悦楽を耐え忍んでいるようだった。

 自分が仕掛ける前から、既に一度火がついていた体だ。多忙に追われ、
ここしばらくは己を慰める余裕などなかったであろう若い肉体を陥落させる
には、その火種を煽ってやるだけで十分だった。
 熱を持ち、存在を主張するものの先端を爪先で掠めるように刺激すれば、
抑え込まれたままの総身が跳ね上がる。そうして執拗に手にしたものを嬲
り続けている内に、青年は、いよいよ自分を取り繕ってはいられなくなったよ
うだった。

 「…っく……ふ…ぅ…っ…ピッコロ、さん…っ」

 その頭上に一まとめにしたままの両腕も、割り込ませた体でこじ開け、己
の意志で閉じる事も叶わなくなった両足も、小刻みに戦慄いているのが触
れあった体躯を通して伝わってくる。それがこの空間に人為的に設けられ
た、極端な寒暖差によるものではない事は瞭然だった。
  
 総身を戦慄かせる青年の抜き差しならない状態を物語るように、掌に捉
えた情欲の証がドクリと跳ねる。その自制があと僅かも持たないであろうこ
とは、地球系生物の生態に精通しているとは言えないピッコロの目にも、容
易く見て取れた。
 やせ我慢をするなという言外の促しを込めて、捉えたそれをさらに煽り立
てる。と同時に、組み敷いた青年の喉奥から、いよいよ誤魔化し切れなく
なった嬌声があがった。

 「ぅあ…っ!っひ…っ…ピ、ピッコロさん…っピッコロさん!」
   
 こじ開けられた膝頭で、割り込まれた体躯を挟み込むようにして身を捩ら
せながら、切羽詰まった口調で青年がピッコロを呼ばわる。解放を許さない
まま、それでも耳を貸す余地はあるのだという意思表示にその紅潮した面
差しを覗き込めば、悟飯は、それまで頑なに背けていた目線をピッコロへと
向けた。

 「……どうした」
 「っは…んぅ…っ…あ…っ…て…手を…っ」

 ようやく自分へと向けられた漆黒の双眸が、今にも溢れ落ちそうな雫を
湛えて濡れている。追い詰められた青年が、身を焼く悦楽を振り払おうと
でもするかのように頭を打ち振った動きによって、それは、あっさりと決壊
して彼のこめかみを伝い落ちていった。 

 「あぅ…っ…も、にげ、ません…から…っ」
 「悟飯?」
 「て…手を…っ手を、離…っください…っ」
 
 逃げないという言葉を信じるなら、青年が解放を訴えているのは、ずっ
とその頭上で一括りにされたままの手枷の方なのだろう。確かに、今にも
臨界を迎えかねない悦楽を持て余した体には、身じろぎもままならないこ
の体勢はきついだろうとピッコロは思った。
 ここまで追い上げられてしまえば、手枷一つを外したところで、青年はも
う抗えはしないだろう。限界を訴えて泣き濡れた青年の容色は年不相応
なまでに頼りなく、見る者に憐憫の情すら覚えさせるものがあった。

 だが……


 「―――断る」
 「…っ」

 息がかかるほど互いの顔を近づけたまま、意図して作り上げた冷笑を見
せつける。反射的な行動だったのか、身動きを許された僅かばかりの距離
を逃れようとする青年の素振りを許さず、ピッコロは、捉えたままの両手首
をぐいと寝台に押し付けると、もう片方の手に収めた欲情に引導を渡すべ
く、爪立てるようにしてきつく煽り立てた。

 「ひ…っ!ぁ…あぅ…っ!ピッコロさ…やめ…っ」

 より拘束を強められたことで、青年は、悦楽に泣き濡れたその容色を己の
腕で隠すこともできず、堪えきれずに喉を突く嬌声ごと、自身の痴態の全て
をピッコロの前に曝け出した。
 既に成人し、社会的な立場を構築しつつある自立した青年にとって、これ
以上の恥辱はないだろう。己の内で膨れ上がる破壊衝動を発散させるため
の已む無い手段だと理性では納得できても、せめてその瞬間ばかりは隠匿
したいと、彼は切望していたはずだ。

 だが―――それでは、彼がしがみつき、同時に彼自身を雁字搦めにして
いる矜持は、砕けない。
 文字通り、己を丸裸にするだけの腹構えを持てなければ、悟飯をそこから
脱却させる事は出来なかった。


 「もう限界だろう。四の五の取り繕わずに、さっさと楽になってしまえ」
 「…っ!ぅあっ!や…いやだ…っ!」

 せめて声だけでも塞ぎたいと、残された理性で思ったのだろう。僅かでも上
肢の自由を取り戻そうとしたのか、悟飯はきつく頭を打ち振って渾身の抵抗
を見せた。僅か指二本分程度広がった隙間を逃すまいと、首を捻って己の
上腕で口許を塞ぐ。

 だが、その瞬間を狙い澄ましたかのように、ピッコロは、拘束していた青年
の両手首を寝台の上部へとさらに引き上げた。
 同時に、捉えた手の中で限界に打ち震えるものに、これが最後とばかりに
刺激を送る。
 吐精を促すように青年の名を呼ばわれば、ピッコロの体の下で、組み敷い
た体が硬直した気配があった。

 
 「―――堪えるな」
 「ぁあ…!っひ…っ!?」

 次の刹那―――組み敷かれ、両腕の自由を奪われた不自由な体勢のまま、
その総身を大きく跳ね上がらせるようにして、悟飯はピッコロの手の中に、限
界まで煽られた己の性を解き放っていた。

       




                                TO BE CONTINUED...


  
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