confession 2





 案の定、まだ体術の基本の動きをなぞったに過ぎない組手を一通り終えた頃に
は、既に悟飯の息は上がっていた。

 それこそ日のある内は一切の泣き言を許さず、ひたすらに鍛錬に打ち込ませた
少年の日の悟飯相手であれば、鍛え方がなっていないと怒鳴りつけていたことだ
ろう。だが……

 これが、今の悟飯の現実なのだ。それを幼い日の悟飯から取り上げたという負
い目をいまだに胸の内に抱えるピッコロにしてみれば、こうして本来そうあるべ
きであった「なまくら」になっていく青年の姿は、望みこそすれ、落胆を覚える
ようなものではなかった。

 鍛錬不足は日々の調整で直に取り戻せるだろうし、そもそも、どんな腕自慢が
挙って出場するにせよ、所詮はただのイベントに過ぎない武道会への参加のみを
目的とするなら、かつてのような常軌を逸した鍛錬を課す必要などない。出場す
るからには優勝を、という意気込みがあるにせよ、どのみち障害となるのはかつ
ての盟友達だ。

 命のやり取りを必要としない対峙の場なら、それは彼らにとって、格好のコミュ
ニケーションの場に過ぎない。過激な戦いを好むベジータにしろ人造人間18号
にしろ、今となっては御同様だ。つられる様に参加を決めた自分も含め、ある意
味、一行の和やかな親睦の場となるのであろう武道会で、悟飯にかつての覚悟を
思い出させなければならない理由などどこにもなかった。


 「―――この辺にしておこう。もう日も落ちる」

 だから……日暮れを口実に、ピッコロは鍛錬を打ち切った。
 今の自分の状態が、これでよく解ったはずだと言外に匂わせて、しかし、指摘
されるまでもなく自分を理解できているはずの青年に、敢えて言葉で追い打ちを
かけるようなことはしない。まだ息を弾ませている悟飯に少し休んでいけと声を
かけると、そんなピッコロの采配に謝意を表すように、彼は言葉少なにお世話を
かけますと頭を下げた。


 ひとまずは、汗だくになった青年のために、ミスター・ポポを呼んで浴室の手
配を頼む。勝手知ったる神殿内の施設を好きに使えと言い置いて、ピッコロは思
い出したように言葉を付け加えた。

 「今日ここに来ることは、母親に伝えてあるのか?多少長居して構わないなら、
  飯でも食っていけ」

 年の離れた弟も生まれ、ハイスクールに就学させるほどに成長しても、孫家の
長子である悟飯に対する、チチの溺愛ぶりは健在だ。戦い以外の事象についても、
大抵のことは一人で対処できるようになったとはいえ、やはりその素行について、
逐一気にかかってしまうのが、母親というものなのだろう。
 かつてのように、蛇蝎のごとく目の敵にされることはなくなったが、ピッコロ
にとって、チチは今でも、無駄に波風を立てて絡まれたくはない存在だった。

 そして、その母親が承知しての外遊であるなら、食事を口実に、ピッコロは悟
飯を今しばらくこの神殿に留め置く心づもりだった。
 悟飯がここにやってきた時に感じた違和感。修行をつけてくれと申し出た、そ
の言葉の裏に見え隠れしていた青年の他意を、まだ自分は明らかにしていない。


 果たして―――一瞬虚を突かれた表情を見せた悟飯は、次の瞬間、明らかに安堵
したような恐縮顔になった。


 「すみません、突然押しかけておいて」
 「構わん。家の方が問題ないのなら、ゆっくりしていけ。ここ最近、こんな機会
  も減ってきたからな」

 

 言い置いて、青年の言葉を待たずに神殿の奥へと踵を返す。
 何かあったのかと水を向けたところで、素直になんでも打ち明けるような気性
の弟子ではないことは解っている。大らかなようでいて、そのくせ肝心なところ
で口を噤み心に壁を作り、頑なに一人で内に抱え込みたがる癖は、幼い頃から変
わっていなかった。
 彼の年の離れた弟のように、年相応の成長過程を辿れなかった弊害は、こんな
ところにも不意に顔を出す。時代という不可抗力を言い訳にしようとも、そんな
風に幼少期を送らせてしまった責任の一端が自分にあることを、否定することは
できなかった。

 必要不可欠な「育成」であったことは否みようのない事実であり、もしあんな
切羽詰まった時代背景がなかったらと、仮定するのも無意味なことだ。だから、
ただ二人荒野で過ごしたあの一年間を、愚にもつかない悔悟の念で振り返ろうと
も思わない。

 ただ……あの閉ざされた時間の中に少年を放り込んだ存在として、その父親の
命を一度はこの手で奪った元凶として。そして、何よりもそんな彼から師と呼ば
れる唯一の存在として。
 本人の望むと望まざるとに関わらず、自分に向け発されたものがあるのなら、
その身に染みついた習い性を引き剥がしてでも、自分が受け皿となって、吐き出
させてやりたいと思う。

 今日、悟飯は明らかに、修行を口実にして自分に会いに来たのだ。悟飯の抱え
る屈託の正体が解らない以上、自分に何かしてやれることがあるのかすら、解ら
なかったが……ただ漫然と受け流すことだけは、避けたかった。

 「早く中に入って、汗を流してこい。ただでさえ体がなまっているんだ、こん
  なことで体調でも崩されたらかなわん」

 まだどこか萎縮した態で所在無さそうに佇んでいる青年を、意図的に突き放し
た語調で、神殿内部へと促す。
 駄目押しのようにその名を呼びながら、先に立つピッコロは、敢えて悟飯を振
り返らなかった。


                              TO BE CONTINUED...


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