confession 11






  
 嫌だ。言えない。それだけはできない―――


 譫言のように同じ言葉を繰り返す悟飯の泣き濡れ顔を、ピッコロは、内心の戸惑い
を押し隠しながらただ凝視した。
 科した戒めはそのままに、しかしもうそれ以上言葉を重ねて促すことはせず、組み
敷いた青年が示すこれほどの拒絶の意味を、思案する。

 肉体の切羽詰まった欲求に煽られながら、それでもしがみ付かなければならない柵
とは、一体何なのか。その根幹を成すものを見極めようとするかのように極力主観を
押し殺した視点で、ピッコロは青年の様子を観察した。


 これほどに固く強張らせてしまった「覚悟」なら、何故だという問いかけすら、今
の悟飯にはきっと届かないだろう。
 与えられた環境が問題な訳でもない。向き合った相手が他の誰かであればその胸襟
を開けるという事でもない。
 頑として口を割ろうとしない青年の拒絶は、もはや意地を通り越した執着のような
ものだ。どんな場所で、誰を相手にしても自身の胸の内に抱えるものを吐き出せない
というなら、外野がどれほど道理を説いたところで、その心を動かすことはできない
だろう。

 と、無表情に思案を巡らせていたピッコロの意識を、ふと過った違和感が逆撫でし
た。
 執着というよりは……これは、妄執とでも言い表した方が妥当な感情だろうか。

 血を分けた肉親との再会に二の足を踏む自らの躊躇いを、認めるのは抵抗のいる行
為だろう。特に、悟空と生きる世界を隔てられてしまった当時、悟飯はまだ成長過程
にある未分化な子供だった。突然の別離に、それでもどうにかそれなりの折り合いを
つけられた周囲の大人達とは、身を置く環境がまるで異なっていたのだ。

 もう二度と会えないと思った相手だからこそ、子供なりの諦めも折り合いもつけら
れた。否。周囲の大人が、つけさせた。少年だった悟飯がこれから生きていかなけれ
ばならない長い半生を思って、そうさせたのだ。

 だが……
 あの当時、孫悟空との別離の要因の一つとなった自身の「失態」を、深い悔悟の記
憶として悟飯の中に生涯残させないこと……その事ばかりに、自分達は囚われすぎて
はいなかっただろうか。その「失態」を忘れさせること、切り捨てさせることばかり
を目的にして、悟飯と向き合ってはいなかっただろうか。
 自らを「親殺し」と責め苛むような自虐の連鎖にだけは陥れさせまいと、なりふり
構わず立ち回ったあの当時の自分の判断が、間違っていたとはピッコロは思わない。
 だが、もしも……もしもあの当時、こうして悟飯の前に、再び悟空が戻ってくる事
態を想定していたら……自分はあの時、ただ闇雲に、悟飯の抱える負の記憶を払拭さ
せようとしただろうか。

 今考えても詮無いことだ。まだ幼く、自分の力だけでは生きていく事もできない少
年の無防備な心を、あの時、自分は様々な外因に傷つけられぬよう守ってやらなけれ
ばならなかった。自らを守り癒せるよう、その心を鍛えてやる余裕などありはしなかっ
た。
 それでも、あの当時敢えて見過ごし続けてきたものが、今になって形を変え、再び
悟飯を苛んでいる。それは、承知の上でこの命題を棚上げしてきた自分が払わなけれ
ばいけない、ツケだった。  
 だから、悟飯が自ら囚われたこの妄執を瓦解する為の綻びは、何としても自分が見
つけ、引き出してやらなければならない。
 しかし…… 



 このままでは、埒が明かない―――
 そうピッコロに思わせた要因の最たるものは、幼い頃からその気性をよく知る青年
が、こうと決めたら頑として自分を曲げない強情さを持っているのだと知る者ゆえの
諦観だったのか。あるいは、限界まで追い立てられながらそれでも意地を通そうとす
る青年の泣き濡れ顔に音を上げた、仕掛けたピッコロ自身の心弱さだったのか。

 ともあれ、我の張り合いのような膠着状態をこれ以上維持できず、先に行動を起こ
したのは、ピッコロの方だった。

 「―――悟飯」
 「あぅ…っ!」

 それまで追い上げる事を目的に煽り立ててきた、手の中のものに意図した力で負荷
をかける。全身で反応を示した悟飯の切迫した様子に頓着することなく、ピッコロは、
追い上げるだけ追い上げた青年の情欲の捌け口を、きつく堰き止めた。
 途端に総身を跳ねあがらせた青年の抵抗を難なく抑え込み、行き場を失った熱を煽
るように、戒めた悟飯自身に追い打ちの刺激を送り込む。

 「っひ…ぃっ…や、ぁや…だ……っ!」
 「悟飯、苦しいか」
 「んぅ…っ!ぁも、はな…っ」

 あからさまに欲情した顔を赤く染めながら、身動きの限られた寝台の上で、悟飯は
箍が外れたように暴れた。
 半ば組み敷かれ、仕掛け人を押し戻すこともできない上体で。拘束を解かれてもも
はや明確な反撃など及ぶべくもない、体の芯を支配する悦楽に脱力してしまった下肢
で。まだ辛うじて意思の伝達手段を残された、その頤で。
 不自由な体勢からかき集めた力の全てで、その未成熟な体は逐情への解放を訴えて
いた。
 
 それでも尚、ピッコロの科した戒めは外れない。のみならず、抑制された情欲を更
に煽られるという二律背反する責め苦に苛まれ、青年の反らされた喉から切羽詰まっ
た悲鳴が上がった。

 「あ…ぁ…ッ!や、だ…やだっピッコロさんっ!っひ…ッ」

 雄の性を逆手に取られ、さぞや苦しいだろうと思う。何とかして解放を阻む戒めか
ら逃れようと、もはやなりふりかまわず伸ばされた手が、自身を戒める枷を外そうと
ピッコロの手に爪を立てた。
 食い込む爪の痛みが、今青年が味わわされている、狂気と紙一重の悦楽と苦痛を伝
えてくる。それでも、ピッコロは悟飯を追い詰めることをやめなかった。

 握りこんだ情欲の先端に指先を宛がい、しとどに溢れた先走りを塗りこめるように 
刺激する。弾かれる様に跳ねあがった悟飯の上体が、しかしそんな自らの所作に追い
打ちをかけられたように、悲鳴を上げながら再び寝台に沈んだ。

 「あ、あぅ…っ、ぁや…っ!」
 「悟飯、何度も繰り返させるな。お前が言うべき言葉は、一つだけだ」
 「ッひ…っピッコロさんっピッコロさんっ!」

 制約を受け不自由な体全てで暴れながら、逐情の瞬間を取り上げた相手の名を許し
を請うように連呼する。それでも解放を許さずに再度自白を強要すれば、朱に染まっ
た泣き濡れ顔が、新たな情動の色に歪んだ。

 ひたすらに劣情を煽り立てられ、荒く息を弾ませる悟飯の喉奥から、唸りにも似た
嗚咽が漏れる。それら全てを飲み下そうとするかのように青年はきつく歯を食いしば
り……そして、諦めたように頭を振った。 

 「……っ…え、…い…」
 「悟飯?」
 「あ、えない……っ」

 地球人の基準をもってすれば、規格外に聴覚の発達したピッコロだからこそ聞き逃
さなかったであろう、吐息にも似た短い呟き。
 それもまた、この数日悟飯が抱え続けてきた屈託の一因であることは、間違いない
だろう。自らの「失言」にあれほど狼狽していた青年からこの言葉を引き出せただけ
でも、大きな収穫だった。  
 だが……


 「―――違う」
 「っひぃ…ッ!」

 だが、ピッコロは、その手に捉えたままの青年の情欲を、解放しなかった。
 のみならず、それまで駆け引きのように緩急をつけて煽り続けてきたものの先端に、
意図した動きで爪を立てる。
 たまらず悲鳴を上げた悟飯が総身をのけ反らせて苦痛を訴えても、ピッコロの責め
苦は止まらなかった。

 「っひ…い、いた…っあぁ…っ」
 「言ったはずだ。答えは諾か否かの、どちらかだけだ」
 「ぅあ…ッやだ…っいやだぁ…っ!」
 「悟飯」

 駄目押しのように、もっとも過敏で耐性をつけようもないその箇所を、断続的に刺
激する。その度に激しく頭を振って吐精の衝動から逃れようとする悟飯の名を呼びな
がら、ピッコロはその抵抗に力負けしないように、捉えた情欲の根幹を更にきつく戒
めた。

 「あっあぁ…ッ!」
 「悟飯」
 「っひ!あ!…ぁ…っくぅ…!」

 限界を越えて雄としての本能を堰き止められ、泣きながら許しを請う悟飯の顔は、
数年来の交流の中でついぞピッコロが目にしたことのないものだった。それだけに、
ただ一人の弟子と思い定めてきた青年にどれほどの無体を強いているのか、否応なし
に思い知らされた心地になる。
 だが、それでもここで、自分が引くにはいかなかった。

 心身共に鍛え上げた悟飯が自家中毒を引き起こしかねるほどに、頑なに向き合う事
を避け続けている自らの底意。この膠着状態を抜け出すためには、悟飯自身が達観で
きるまでこの命題とつきあわせ、これが自分の偽らざる思いなのだと、自ら認め受け
入れさせるしかなかった。
 そのためには、表層意識の底まで懸命に押し込もうとしている彼自身の「暗部」を、
どんな形であれ、悟飯自身の口から語らせなければならない。

 ―――孫悟空との再会を目前にして、彼が飲み込もうとしている偽らざる本心を。

 そのためには、「会えない」などという抽象的な言い回しではだめなのだ。周囲か
らどうとでも解釈される、有態に言ってしまえば、逃げ道を用意した告白など、何の
意味もなさない。
 「会いたい」のか、「会いたくない」のか……その一言すら口にできないうちは、
悟飯はこのまま堂々巡りを繰り返すだけだ。そうして自らの心に蓋をし続けているう
ちに、彼自身も気づかないほど緩やかに、悟飯という人間の将来は歪められてしまう。

 そんなことは、決して許してはならなかった。当の悟飯本人を責め苛む荒療治にな
ろうとも、どうあってもその口を割らせなければならない。
 そのために、この先一生、悟飯からの恨みを買うことになろうとも。

 「あ!んぁ…ッはっや…っあぁ…ッ!」
 「悟飯、もう一度だけ聞く。お前は孫に、会いたいのか。会いたくないのか」
 「…っ…ひう…っ…く…ぁ…っ」
 「言え」

 再び問答の原点に返った問いかけに、青年は目に見えて総身を強張らせた。それこ
そが彼の紛れのない底意なのだと、観念したような泣き濡れ顔が、言葉ほどに雄弁に
物語る。 
 だがそれでも、ピッコロは悟飯を解放しなかった。
 傍目にも明らかな「事実」に変わりはなくとも……その引導を渡してやるためには、
他でもない悟飯自身の口から、その「事実」を語らせて、彼に思い知らせなければな
らないのだ。
 亡父との再会が、どれほどに、今の自身の枷となっているのかを―――


 とうに限界を訴え打ち震えている情欲の証に、煽る事を目的とした刺激を送り込む。
そうして、逐情を求めて気も狂わんばかりに追い詰められた悟飯の境地を承知の上で、
ピッコロは、手の中に捉えたものの根幹から、ほんのわずか、束縛の力を緩めた。

 「ッひぃっ!ああッ!」

 堪えに堪えさせられた熱を解き放つには及ばない、しかし、わずかに逐情への余地
を与えられた情欲が、それを与えた手の中で意思を持ったように跳ねる。それでもい
まだ半端な戒めを科せられた悟飯は激しく身悶え、ついに本格的な嗚咽を漏らし始め
た。
 辛い、嫌だ、許して……頭を打ち振り、泣きながら訴える悟飯の頤を、伸ばした指
先で拘束する。そうして強引に顔を上げさせながら、ピッコロは、欲情に翻弄される
青年の耳に過たず伝わるよう、意図した声音で応えの言葉を促した。

 そして―――


 「…っ…っ!…っい…っ」
 「悟飯」
 「…っく…な、い…っ」

 我の張り合いのような時間を、どれほど重ねた頃だろうか。ようやく、悟飯は荒く
弾む息の間から、降伏を宣言した。
 これでやっと解放してやれるという安堵と、これではまだ足りないという焦燥が、
同時に仕掛け人の胸襟を焼く。束の間の逡巡の末、ピッコロは、二律背反する思いの
より強い方へ、従うことにした。

 「……もう一度だ」
 「ぅあ…っひ…ッ!」
 「悟飯、もう一度言ってみろ」 

 科せられた戒めを、焦れるほどの力加減で緩められた青年の喉奥から、外聞をかな
ぐり捨てた悲鳴が上がる。言えなければこのままだと思い知らせるように手にしたも
のを煽り立てると、ないまぜになった衝動でくしゃりと歪められた容色のまま、悟飯
はそれこそ命乞いでもするかのような余裕のなさで、懸命に同じ言葉捲し立てた。

 「…っくない…っあい、たくない…っ」
 「悟飯」
 「ッ!会いたくない…っ!」

 ようやく、聞き出せた―――あからさまな安堵の念が胸の内を浸していくのを感じな
がら、ピッコロは、それまで頑なに戒め続けてきた青年の情欲から、その手を離した。
 途端に大きく脈動したその先端を、引導を渡すように爪弾いてやる。


 「…ッ!」

 次の刹那……
 総身を跳ねあがらせ、長く尾を引く悲鳴を上げながら―――悟飯はようやく解放を許
されたもので、申し訳程度に纏っていた自身の夜着を、白く汚していた。
  



                                   TO BE CONTINUED...



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