機動戦士ガンダムSEED−D #24傍話

      Dies illa -act.2

               


 足を失ったパイロットが、その任を解かれ、現状に最も適すると思われる部署に移される
……戦火を掻い 潜りながら、ギリギリの境界で命のやり取りをするこ とばかりが功ではな
いが、その人事は降格や左遷と同 様だと、当事者達は思うだろう。
 そしてハイネもまた、そういった「前線暮らし」に なじんだパイロットの一人だった。
 その意味するところは、つまり―――

  「そんな…!そんなはずないですよ!」

 重苦しい沈黙が帳を下ろす中、真っ先に反駁の口火を切ったのは、シンだった。

  「そんなのは、ヤキンドゥーエの頃の話でしょう!?今のほうが医療技術だって進んで
  るんだし、いくら大怪我をしたからって、その…リハビリを続ければ  MSにだってまた…」

 たとえ両足が義足になっても、とは流石に続けられ ず、シンの反駁が尻窄みに小さくなる。
そんな後輩の、らしくもない気遣いを、ハイネはことさらに軽い口調 でまぜっかえした。

  「おーい無理言うなよ。どんなに性能のいい義足だって、生身の神経とまでは接合できな
  いんだぜ?そんな足で、どうやってMSやMAの七面倒くさい操縦をこなせって言うの。
  だいたい、後続のパイロットは、どんどん育ってくるんだ。できもしない古株の復帰を待つ
  より、その間に一人でも多くの後続に経験つませてやった方が、よっぽど効率がいいだ
  ろ?」

 それは、ザフトが誇るエースパイロットとして、押し も押されもしない確固たる立ち位置を
築き上げてきた男 の、自らの命運を受け入れた諦観の言葉だった。
 取り戻しの付かない失態を、当人以上に無念に思える 者はいない。そして、そのハイネ当
人がこれ以上気兼ね するなと言外に告げている以上、アスラン以下後進のパ イロット達には、
もうハイネにかける言葉を見つけるこ とができなかった。

 だが……言葉ほどには諦観し切れていない青年のわだ かまりが、続く言葉をやりきれなさ
に震わせる。

  「……なんてな。理屈で解っているったって、それで心底納得して転属に従えるなら、苦
  労はないよな」

 言って、抑えきれなかった激情にその頬がわずか歪 んだのを、語尾まで待てずにその喉元
が不自然に震え たのを……後進達は、見て見ぬ振りをするより他なかっ た。

 見ない振りをするしかない。気付かない振りを続け るしかない。彼の抱える鬱積に正面から
向き合ったと ころで、その心身の苦痛を取り除いてやることができ ない以上、何の救いにも気
休めにもなりはしない。
 そうやって、いたずらに傷口に触れる方が残酷なのだ。

 ハイネ自身がはっきりと言葉で告げた通り……彼 が現役のパイロットとして現場に復帰する
機会は、 もう二度と訪れはしないのだから。



 言葉の接ぎ穂も見つけられず、息詰まるような沈 黙を互いに凌いだ時間はどれほどのもので
あったのか。

 誰からともなく押し黙り、いたたまれなさから足 元へと落とされた彼らの視線を再び上げさせ
たのは ―――重苦しい空気を作り出す要因となった、その人の声だった。

  「お前らは、同じミスはするなよ」

 弾かれたように一斉に居住まいを正した彼らの目線の先で……憔悴と焦燥に苛まれ続けた
であろうか つての英雄が、それでも力強く言の葉を紡ぐ。

  「ぶっちゃけた話、いきなり割り込んできて戦場を かき乱した、あのMSにも戦艦にも、腹が
  立つさ。 もしあのタイミングで奴らが乱入してこなけりゃ、 俺もこうはならなかったかもしれ
  ない。
   ……でも、一番腹が立ったのは、こんな間の抜けた 俺自身だ」

 俺が、間抜けだったってだけの話だ―――続けら れた言葉は、確かに自戒の意味合いを宿
していたと いうのに……そこに自嘲の響きは感じ取れない。
  そんな相手の気丈さが、尚のこと聴衆の背筋を正さ せた。

  「…間抜けな話だよな。昨日今日戦場にでた新米で もあるまいに、頭に血が上って状況を見
  失って…… ほんの一瞬の油断で、このざまだ」
  「ハイネ、それは……」
  「だからこそだ。……いいか?だからこそ、こんな 間抜けた奴がいたって事を、その結果を、
  頭の隅に でも残しておけ。そして絶対に、お前らは同じミス をするな」



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