faith2





 「……ロロ…」


 それまでぼんやりと空を眺めやっていたルルーシュの双眸からは、平時の
ような彼の強い意志の力は 感じられない。そのらしからぬ姿が、彼の味わわ
された衝動を物語っていた。

 記憶の戻ったルルーシュと、他人の視点で初めて向き合った時、自分達の
立ち位置は紛れもない敵同士だった。だからこそ、情の欠片も伺わせないよう
な刺すような彼の視線は自分に向けられてしかるべき もので。

 一瞥のもとに他者を切り捨てられるようなその双眸を、心底恐ろしいと思った。
過剰なまでにこの男の監 視を強いた軍の意向もさもありなんと、そう考えてし
まった時点で、同じようにギアスを有する存在であり ながら、その発する威圧
感に、自分はきっと飲まれていた。


 それでも、その底知れなさに戦慄しながらも、世界に抗う彼が発する苛烈な
までの覇気に、自分は及び 腰に魅かれてもいたのだ。
 それなのに……



 と、その時。歩を踏み出したロロの靴先で、金属音を思わせる硬質な音が鳴っ
た。


 反射的に二人して音の方向を探った目線が、同時に足元の一点へと向けられ
る。それは、先刻カレンの 手でルルーシュからむしり取られたまま放置されてい
た、注入機だった。

 地面に転がったままのそれ一を瞥し……戻した視線を眼前のルルーシュへと
据えた時、「兄」と同じ色彩 を宿す虹彩が、もの言いたげに眇められた。


 「……リフレイン?」
 「……っ」
 「カレン・シュタットフェルトの母親は、リフレイン中毒患者だったよね。記録で読
  んだだけだけど、僕でも知っていることだよ。…彼女の前で、リフレインを使った
  の?……使おうと、したの?」


 必要を感じた時には一切の譲歩も酌量も認めないという激しい気性をしてはいる
が、ルルーシュは基本的に人の機微には敏感だった。そして、意図的に利用する
ような場合を除いて、他人のそういった「傷」に、 不用意に触れないだけの配慮を心
得ている人物でもある。

 リフレイン特有の幻覚症状は出ていないようだから、結果的にはルルーシュは件
の麻薬を服用した訳で はないのだろう。
 だが、会話の全てを耳で拾えた訳ではないが、カレンとの喧騒の様子を見る限り、
ルルーシュは少 なくとも、一度はリフレインに縋ろうとしたのだ。

 あの、自分に厳しい人が。日本人の弱みに付け込んだ忌まわしい麻薬を、ゼロとし
て根絶しようとした記録さえ残した彼が。
 当時からの同胞として、ともに暗躍したのであろう彼女の前で、彼女の抱く傷を知り
ながら、それでも。



 縋りたかったのか、あの麻薬に。
 何もかもを忘れて、ゼロとしての記憶も捨てて……妹と二人きりで育んだ、優しく温
かい、そして閉ざさ れた世界へと、彼は還ろうとしたのか。


 ナナリーとの間に穿たれた隔たりは、それほどまでに、彼を絶望させ打ちのめした
のか。
 ナナリーという最後の血縁者とのある種の決裂は、彼の構築する世界をそれだけ
で瓦解してしまうほど に、大きな楔となったというのか。


 黒の騎士団は健在だ。団員達にとって絶対的なカリスマであり、そして今やイレブ
ンの救世主でもある 「ゼロ」に対する、世界の注目と支持は高い。
 総督奪還という大一番には敗れても、彼の頭の中には、事態の打開を狙う策が何
通りも組み立てられ れていたはずだ。先刻カレンが叫んでいたように、これで騎士団
の命運が潰えたわけではない。

 だがそれでも……それらの全てを、あっさりと投げ出してしまえるほどに……




 彼の中で……彼の世界は、終わってしまったというのか……




                              TO BE CONTINUED...


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