季節外れの花火の音が、人気の耐えた学園の屋上に響き渡る。
断続的に続く軽快なその音を聞くと話に聞きながら、ロロは屋上へと向かう
連絡階段との扉の蔭で、兄の帰りを待っていた。
それまで、どこか隠れ蓑的な存在として捉えていた生徒会の面々が、自分
も大切な仲間だと認めてくれていたことは、正直に嬉しい。だが、思いがけず
直面したその事実が面映ゆくて、何食わぬ顔で皆の前に顔を出すことが憚ら
れたのだ。
学園祭の余りだという残り物の花火は、さしたる時間をかけずにその全て
を打ち上げてしまったらしい。頃合いかと考えていると、ほどなくして、扉の向
こう側からルルーシュが戻ってきた。
吹っ切れた顔つきになった、と思う。あの隠れ屋で抱え込んでいた感情を
全て吐き出したというのもあるのだろうが、やはりこの場所は兄にとって特
別な思い入れがあるのだと、ロロは改めて認識した。
全く寂くないと言えば、嘘になるかもしれない。それでも、自分の入り込め
なかった扉の向こうの世界で新たな絆のようなものを再構築した、兄とその
仲間達の姿に、もう嫉妬の念は覚えなかった。
そんなロロの心中を知ってか知らずか、お前も来ればよかったのに、と、気
安い口調でルルーシュが口にする。苦笑交じりに首を振ると、そうか、と同じ
ように苦笑しながら、ルルーシュの手がロロの頭に置かれた。
二、三度弾みをつけるように頭をはたかれて、ロロも気安く兄の行動に文
句をつける。
と、刹那――――向い合った二人の視線が、それまでとは幾分色合いを
変えながら、空でかち合った。
幾許かの、沈黙。
「…………決めたの?」
「ああ。決めた」
何を、とはロロは尋ねなかった。応えるルルーシュもまた、その差し示すと
ころは口にしない。
それでも――――不確かな問答の中、二人は確かに、その思いを共有し
ていた。
「もう、後戻りはできないぞ、ロロ」
後ろ暗い物言いでありながら、それでもどこかさばさばとした語調でルルー
シュが水を向ける。
それまでの、どこかで逃げ腰を感じさせていた容色を一転させ、彼は向き
合った弟にまっすぐにその目線を据えた。
「俺と共に行けば、この先の安寧は一切保証できない。否応なしに、お前
は俺の戦いに巻き込まれることになる。……それでも、ついてくるか?」
断られるとは微塵も思っていない、ある種の自信に裏打ちされたようなル
ルーシュの言葉に、ロロは再び苦笑する。
そうだ。ルルーシュ・ランぺルージという人物は、元来こういう為人をして
いた。
この二日というもの、様々な側面を見続けてきたことで、自分の中にあっ
た彼に対する思いも、その都度形を変えていったけれど……
やはり、このルルーシュがいいと思う。
壁にぶつかり、打ちのめされた時には自分がこの手を差し伸べる。自ら
立ち直るまで、何度でも、取り乱せばいい。そんなことで、自分はこの手を
引き戻したりはしない。
だが……ひとたび自身を立ちなおせたなら、やはり、こうして自信過剰な
までに前を見据えるルルーシュであってほしかった。
そんなルルーシュに……きっと、自分は人間として最初の興味を抱いた
のだから。
「……ついていくよ、兄さん」
向けられた水向けと同じく、淀みない語調で諾と応える。そんなロロの
姿に満たされたような笑みを見せると、ルルーシュは伸ばした手で再び
ロロの頭を引き寄せた。
互いの身長差から、ルルーシュの肩口に無理やり重心を預けられた形
となったロロが口先だけで抗議する。
それでも結局はその不安定な体勢を維持したまま―――二人は、校舎
へと続く連絡階段を下りて行った。
この日……互いを利用し合うことで始まった二人の相関に、一つの転機
が訪れた。
それは、互いに情緒の安定を得ていない二人にとって、ひどく危うい精
神の支柱であったのかもしれない。
互い以外に、互いに譲れないものを残したルルーシュとロロの「共依存」
は、おそらくは契機の一つで容易く形を変えてしまう、不確定なものだっ
た。
だが、それでも。そんな内包する不安要素を互いに承知の上で……
それでも、二人は互いの手をつかんだことで、満ち足りた。それまで渇
望していたものを、互いの手から、つかみ取った。
それだけは……確かだった。
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