faith13




 深い泥のような眠りから現実へと意識を引き戻されたとき―――自分がどこに
いるのか、ルルーシュには咄嗟に判断ができなかった。

 無機質な印象を受ける天井も、室内に置かれた簡素な家具も……それ以前に、
今自分が横になっているこの寝台自体が、自分にとっては馴染みのないものだっ
た。

 ここはどこなのかと、寝台から上体を起こしかけ―――ふと視野をよぎったもの
に、意識を奪われる。それは、タオル地と思しき幅広の袖口から伸びた自分の腕
だった。
 違和感を覚え、改めて自分の姿を眺めやれば、自分が見覚えのないバスロー
ブを纏っていた事に気づく。
 なぜこんなものを、と一瞬自問しかけ……ようやく現状に合点が行った途端、そ
れまで半覚醒の状態で白濁としていた意識が一気に浮上した。




 そうだ……自分は確か…
 となると、「後始末」がてら自分の身支度を整えたのも、ロロということになる。

 自分達の、この半端な関係の均衡を崩したいとは、確かに思った。その最初の
一石を自ら投じたのも自分だ。今になってそんな自分を否定するつもりもなかっ
たが、どうにも居たたまれない心地になるのは否めなかった。

 起き上ったことで、それまで背中に張り付いていたらしいタオルケットが寝台に
落ちる。それを施したのもきっとロロで、つまりは所謂そういう「環境」のまま、自
分は意識を飛ばしてしまったということで……この状況証拠から容易く推測でき
たロロのかいがいしさに、ルルーシュは反って頭を抱えたくなった。


 どういった意味合いにせよ、先に水を向けたのは自分だった。関係を持ったこと
を、なかった事にしたいなどとは思わない。
 ただ……たまらなく、居たたまれないだけだ。

 自分が寝入っている間に所用でも片付けに行っているのか、ロロの姿は室内に
見当たらなかったが……どんな顔をして彼と向き合えばいいのか、見当もつかな
い。
 自分が動揺すれば、自分以上に居たたまれなさを味わうのはロロだ。自分の方
が先に立ち直っておかなければ、とは思うが……



 まるで進展を見せず、一所を堂々巡りするばかりの自問を繰り返していた時間
は、果たしてどれ程のものだったのか。

 思いのほか自身の奥深くまで向き合っていたルルーシュは、部屋の外から聞
こえてきた物音が次第に近づいてくる事に、全く気付いていなかった。
 故に、唐突に知覚する事になった、外から扉が開けられた重苦しい機械音に、
ルルーシュの体が反射的に竦み上がる。
 時を同じくして室内に顔をのぞかせたロロと、狼狽したルルーシュの視線が空で
かち合い―――二人は、何とも形容しがたい一瞬の沈黙を共有した。





 「…あれ、起きてたんだ」

 開くドアの隙間から身を割り込ませるようにして室内に入ってきたロロは、一瞬
意外そうな顔を見せたものの、平時と変わらぬ様子でルルーシュに笑いかけた。

 「ごめんね、眠っているうちに済ませちゃうつもりだったんだけど、買い忘れを買
  い足しに出直したから」

 言いながら、ロロはそれまで手に提げていた袋の中から買い忘れと思しき品物
を取りだすと、手早く冷蔵庫や備え付けの収納に買い物を整理していく。その姿
をどこか気気まずい思いで眺めながら、ルルーシュは会話のきっかけを探そうと、
せわしなく働くその後ろ姿に及び腰に声をかけた。



 「……今、何時だ?」
 「11時半。兄さん、そんなに寝てないよ。やっぱり寝心地が悪かった?今度は
  ちゃんとベッド整えるから、シャワー浴びてから寝なおすといいよ」
 「いや…とてもよく眠れた……気がする」


 自分の為にこの隠れ屋を提供してくれた、ロロを気遣っての口先ばかりの言葉
ではなかった。
 寝起きの瞬間に直面させられた衝動にすっかり意識を奪われていたが、改め
て自身の体調に思い至れば、脈動と同時に覚えていた酩酊感が消え、頭が軽
くなっている。
 今の時刻を考えれば、確かにロロの言葉通り睡眠時間そのものは十分である
とは言えなかったが、久しぶりに、深く眠れたような気がした。


 「そう?それなら良かった。じゃあ、先に腹ごしらえしちゃった方がいいかもね。
  兄さんみたいに手作りはできないけど、色々買ってきたから」

 言いながら、簡易キッチンから顔をのぞかせたロロが嬉しそうにその口元をた
わませる。一旦キッチンの奥へ引っ込んだ彼は、程無くしてその両手に色々抱
えながらルルーシュの元に戻ってきた。

 一人暮らしの上に、使用頻度の低いこの部屋には、適当な盆代りになるもの
がなかったのだろう。手盆で二つのマグカップを運びつつ、手首に提げた袋を
運んできたロロは、室内に置かれた小振りなテーブルの上にそれらを手早く並
べた。



 テーブルに置かれたマグカップからは、カフェオレと思しきその中身が、盛大
に湯気を立てている。鼻腔をくすぐるその芳香を知覚した途端、ルルーシュは
胃が引き攣れるような衝動を覚えた。
 同時に、不快感を感じるほどに空腹を覚えていた自分に、遅まきながら思い
至る。

 そんなルルーシュの様子を特に取り沙汰するでもなく、ロロは気安い調子で、
テーブルに広げられた物をルルーシュに勧めて見せた。

 「一眠りした後だから、まだ頭もぼんやりしてるだろうけど……食べられそう
  なら、食べて?」



 食べられる?と差し出されたパンは、何の変哲もない市販の量産品だった。
 自分が寝入っていたわずかな時間に、取り急ぎ買い揃えてきたものなのだろ
う。近場の小売店と思しきロゴの印刷された袋に詰められていたそれは、日常
見なれた商品ではあったが、挟み込んだホイップクリームや総菜などで大仰な
味付けのされていない、至極簡素な作りのものだった。

 この二日、ろくろく食事などとっていなかった。学園を出てからはそれこそ何も
口にしていない。そんな自分の体調を慮ったロロが、少しでも胃に負担をかけ
ないものをと選んできた品なのだろう。

 暗殺者として裏社会を渡り歩いてきたという生い立ちもあり、そういった気遣に
は正直縁遠いと思っていたロロの意外な一面に触れたようで、差し出されたそ
れを受け取りながら、ルルーシュはなんとはなしに面映ゆい気持ちになった。


 同時に、鼻腔を刺激した食べ物の匂いに、再びルルーシュの胃が攣れるよう
に空腹を主張する。世間的な水準と照らし合わせれば発育に難ありと評されそ
うな脆弱な体でも、それでも世代的に育ち盛りである事に変わりはない。丸一日
近い絶食は、予想以上にルルーシュの体を飢えさせていた。

 食べ物の匂いに後押しされたルルーシュの手が、一瞬のためらいの後に差
し出されたパンを受け取った。それでも、体の訴えのままにかぶりつくには抵抗
があったのか、気まり悪そうに辺りに視線を泳がせた後、及び腰に手にしたそれ
を口に運ぶ。

 一口大に千切ったパンを嚥下するには大仰すぎるほどの時間が過ぎ―――
やがて、再びパンを千切ろうと伸ばされたルルーシュの手が、つとその動きを
止めた。


 戸惑いの色を覗かせた若紫色の双眸が千切ったパンの断面を見つめ、それ
を自分に差し出したロロの顔を見つめ、最後にその視線が自らの足元へと落と
される。

 それきり、押し黙ってしまったルルーシュに向かって、それまで同じように無
言を守っていたロロは、そろそろ頃合いかと声をかけた。


 「急いで買ってきたから……口に合わなかった?」

 他に食べられそうなものがあれば、すぐ買ってくるよ―――言って、早くも腰
を上げようとするロロに、我に返ったかのようにルルーシュが慌てる。

 「いや、いい。そうじゃないんだ……むしろ、全然抵抗なく喉を通ったから……」


 それ以上は口にすることが何とはなしに憚られて、口の中で語尾を飲み込み
ながら、「つまり、美味かったから……」と滑舌悪くルルーシュは続けた。




 それは、わざわざ自分の為に食料を揃えてくれた、ロロの労苦を慮ったが故
の、口先だけの追従ではなかった。


 飢えと呼べるほどの空腹状態にあった事も手伝ったのだろうが、嚥下したパ
ンは、本当に美味いと思ったのだ。
 何の変哲もない市販品のそれが、アッシュフォード家の後ろ盾に守られた生
活を送る自分にとって、感動するほど洗練されたものであるはずもなかったが
……それでも、口腔を満たした味と芳香は、ルルーシュの胃をじわりと満たし
た。


 最後に食事を取ったのは、昨日の朝だった。それこそ砂を噛むように味も匂い
も知覚できない、それは最低限の活動エネルギーを補給するためだけの「作
業」でしかなかったというのに……

 不覚にも―――鼻の奥が、込み上げてくるものにツンと痛んだ。




 胸襟をせり上がってくるものを何とかやり過ごそうと、さり気無い仕草で眼前
のロロから顔を背けながら、瞼を瞬かせて情動の残滓を振り払う。気を取り直
すように再びパンを口に運び、カフェオレを一口嚥下すると、それまで自分の給
仕に徹していたロロも、ようやくテーブルに置かれた物へとその手を伸ばした。

 特別に会話らしい会話もないまま、二人して出来合いの食事に没頭する。

 それぞれ二つ目のパンを平らげ、ようやく人心地がついた頃―――カフェオレ
のお代わりはいるかとルルーシュに水を向けながら、ロロは、ふとその表情を
改めると居住まいを正した。




 「……兄さん。落ち着いた?」

 それまでの屈託ない笑みを納めて自分に向き直ったロロに、つられるように
してルルーシュの表情もわずか緊張する。そんな兄の目を真正面から見据え
ながら、ロロは一呼吸ほどの間をおいて、続く言葉を口にした。


 「ねえ、兄さん……話題にしても、いい?」
 「……何をだ?」
 「ナナリーの、事」


 その途端、ルルーシュの手にしたマグカップがテーブルの縁にぶつかって耳
障りな音を立てる。その衝撃に飛び出したカップの中身がテーブルを濡らした
ことにも頓着できないほど、ルルーシュの動揺は顕著だった。
 だが、傍目に解るほどにその表情を強張らせながらも、ルルーシュはやめろ
とは言わなかった。
 その沈黙に後押しされるように、ロロが言葉を繋ぐ。


 「総督就任の挨拶を見ていてわかった。……ナナリーは、強制されて総督に
  なったわけじゃないんだね。ナナリー自身の意志で、彼女は今、あそこにい
  るんだよね?」

 応とも否とも、答えは返らなかった。それでも向けられたロロの視線から顔を
逸らしたルルーシュの素振りが、言葉以上に明確な答えになる。
 そう、と一言相槌を打つと、自ら仕掛けた衝動に重くなった室内の空気を振り
払おうとでもするかのように、ロロは大きく息を吐いた。


 自分事で、悪いんだけど―――そう前置きして、一瞬の躊躇いをのぞかせた
若紫色の双眸が、それでもまっすぐにルルーシュへと据えられる。


 「僕は、ナナリーがすごく怖かった。記憶のない貴方の口からナナリーの名
  前が出たら、それは僕達の兄弟関係が終わって、貴方を殺す為の合図だっ
  たから。何かあれば貴方を始末するために、あの学園に送り込まれてきた
  筈なのに……いつの頃からか、僕は余計なことばかり考えるようになって
  ……最後の頃は、そのキーワードが貴方の口から今日出るか、明日出る
  かって……そう思っては、脅えてた」
 「ロロ……」
 「だから、憎むとかそういう感情じゃなかったけど、正直、ナナリーのことを恨
  んだよ。ナナリーは本国にいて、僕にとっては接触する機会もないくらい
  遠い存在だったはずなのに、なんでこんなに振り回されなきゃならないん
  だって。会った事もない彼女の為に、なんでこんな訳の解らない思いを抱
  えなくちゃならないんだって」



 問わず語りの独白を思わせるロロの言葉に、虚を突かれたようにルルーシュ
の双眸が見開かれた。

 兄弟として生活を共にしてきたこの一年余りの擬態が解け、互いに別種の相
関を、共有するようになってから……思えば今日まで、ロロがナナリーの話題
を口にしたことはなかった。
 それはロロのある意味未成熟な精神面を危惧したルルーシュが、その地雷
ともなりかねない実妹の話題を敢えて避けてきたためでもあったし、そんな自
分の意向を肌で感じ取ったのであろうロロが、腫れ物に触るようにその核心か
ら自身を遠ざけてきたためでもある。

 以来、ナナリーの名は二人の間で暗黙の了解として、封印されてきた。
 自分の元に送り込まれてきた経緯からもその経歴からも、そこにけして好感
情などあるまいとは思っていたが……ロロの口から初めて語られた実妹への
心象を物語る言葉は、ルルーシュが予想していたよりもずっと穏やかで、冷静
だった。


 意外の念に押し黙るルルーシュを前に、それまでとは幾分語調を変えたロ
ロの続く言葉が、室内の静寂にポツリと落ちる。


 
 「ナナリーは……強いね」
 「……っ」
 「僕には、できないから」

 まるで自らに言い聞かせているかのように、ルルーシュを通り越して遠くを眺
めやったまま、ロロは、自分にはできないと、繰り返した。

 
 「僕には、できない。今まで自分の育ってきた場所を、拠り所を自分で手放す
  なんて。そんな事をしたら、自分で自分のこれまでを否定してしまうみたい
  で、すごく怖い―――でも、ナナリ―はそれをやったんだね……目が見えな
  くて、足も不自由で……なのに、自分の意志で、彼女は新しい居場所を作ろ
  うとしているんだね」


 ねえ、ルルーシュ―――改まった呼ばわりの言葉と共に、それまでテーブル
越しに向い合っていたロロの小柄な体が、ルルーシュの腰掛ける寝台の前へと
移動する。

 「僕が今いるこの居場所は、あなたが僕に、与えてくれた。僕が自分で、選
  びとったわけでも勝ち取ったわけでもない。……だから、僕は余計にナナリー
  が怖かったんだ。努力もしないで手に入れたこの場所を、いつか彼女に取
  り上げられるんじゃないかって思ったから」
 「…お前……」
 「彼女がそこまで強くなれるくらいに……その支えになれるくらいに、貴方は、
  ナナリーを愛したんだね。だから、彼女もきっと、自分一人の力で立ち上が
  ろうとしてる。貴方の愛情を、今でも支えにして」


 手を伸ばせば触れあえるほどに間近に迫った体勢から、まっすぐに自分を見
上げてくるロロの双眸を、目線を逸らして遠ざけることが、何故かルルーシュに
はできなかった。

 「僕は……人の心って、距離を置けば置くほど、離れたり褪めたりするものだっ
  て思ってた。僕の周りの人間関係はみんなそうだったし、それが家族でも
  そうじゃなくても、褪める時は似たり寄ったりで、一度そうなったら、もう戻る
  ことなんてないんだと思ってた」


 だから、と続けられた言葉の先を、ロロは僅かに躊躇ったようだった。沈黙と
同時に自らの掌を握りこんだその顔が、どこか痛みに耐えるかのような色を浮
かべる。



 「……僕は今でも、貴方と離れるのが怖いよ。できるなら、いつでも貴方の側
  にくっついていたい。そうしていないと、また貴方との関係が白紙に戻され
  るような気がしてすごく怖い。……でも、貴方とナナリーは、そうじゃないん
  だね」
 「……っ」
 「どんなに離れて暮らしていたって、貴方達はお互いの信頼を少しも心配した
  り疑ったりしてないよね?僕達とは違う。―――そう言うのを本当の絆って
  呼ぶんだなって思ったら……貴方達の関係が、今更だけど、羨ましいよ」



 刹那―――身の内から競り上がってきた衝動に何と名付けたらいいのか、
ルルーシュには言葉を見つけることができなかった。


 ロロは、ブリタニア皇子として、ゼロとしての記憶を改竄された自分を監視
するために帝国から派遣された監視者であり、暗殺者だ。だから、この身に
取り込んだと確信してから後も、自分は彼に、本当に取り戻しの効かないよ
うな機微を晒さなかったし、それに触れさせないよう自身の言動を心がけて
きた。

 ただひたすらに、自分の愛情を求めて駄々をこねるだけの子供だと思って
いた。ナナリーの代わりにはなれないとその口では言い切りながらも、機会
さえあれば、自分の中からナナリーの面影を完全に追い出して、その後釜
に収まろうという腹なのだろうとどこかで思っていた。

 だからこそ、今回のナナリー奪還をもくろんだ際も、ロロには詳細の一切を
告げなかったのだ。口では何とでも言えても、いざ、実物のナナリーを前に
した時、逆上したロロが何をしでかすか、自分にも予想がつかなかったから
だ。


 だが……いざ蓋を開けてみれば、これは何だ。
 生まれて以来、苦楽を共にしてきた実妹と、この一年ばかりを共同生活した
だけの自分との差を、ロロは自分でよく解っている。解っていて、彼はナナリー
になり替わろうとするでもなく、偽りの弟として自分の側に身を寄せ続けてき
たのだ。


 作戦を実行に移す際、正直に事情を打ち上げて協力を願っていれば、ロロ
のもつギアスの力によって、あの海上での戦況は今少し変わったものとなっ
ていたかもしれない。
 それを思うと、結局物別れに終わってしまったナナリーに対する未練が今
更のように芽をもたげる。そして、そんな風に考えてしまう自らの心の動きを、
ルルーシュは、ロロに対して心底すまないと思った。



 そんなルルーシュの胸の内を知ってか知らずか、立ち上がった体勢から見
下ろす形で、ロロがルルーシュの目前までその足を進める。
 ややして……僅かに身を固くするルルーシュに向って躊躇いがちに伸ばさ
れた腕が、その体を柔らかく包み込んだ。


 「……っ」
 「――――好きだよ、ルルーシュ」

 抱きよせられた自分を知覚したと時を同じくして、囁くようなロロの吐露が、
ルルーシュの耳朶を打つ。

 告げられた言葉の意味を咀嚼し損ねて双眸を見開いたルルーシュに向か
い、ロロはゆっくりと言葉を繋いだ。


 「好きだよ。ナナリーの代わりにはなれないって解ってて、それでも僕を受
  け入れてくれた貴方のことが、すごく大切だって思う。……こんな気持ち
  は生まれて初めてだから、躊躇うし戸惑うけど……そんな風に、僕を変え
  てくれてありがとう」
 「……っ」
 「だから……貴方が僕を迷惑に思わないうちは、僕はずっと貴方の側にい
  るよ。貴方からもらったものを、少しでも貴方に返したいから」


 刹那―――身の内から湧きおこる衝動に、全身が意気地なく震えを帯びる
のを……ルルーシュは、押しとどめることができなかった。


 ずっとその気持ちを弄び続けてきた、ロロに対する弁明も謝罪も、そしてそ
んなこの身になお手を差し出そうとする彼の行為への純然たる謝意も……
口にしたい思いはいくつもあった。そして、実際に言葉にしなければそれは
伝わらない思いだということも、ルルーシュには解っていた。
 それでも、一度口を開けば意気地なく取り乱してしまいそうで、ロロに応え
ることも叶わない。

 そんなルルーシュに何を強いるでもなく、ロロは包み込むようにその体に回
した腕に、僅か力を込めた。


 「側にいるよ……僕でよければ、ずっと側にいる。……どんなに信頼しあっ
  てたって、愛情は変わらなくったって……繋がれた手をいきなり放された
  ら、辛いよね。……ナナリーが側にいない事…愛していれば、余計に苦し
  いよね……?支えになれなくても、ずっと側にいて、僕が受け止めるから……」


 胸の奥に沁み入るようなロロの言葉を聞きながら、ルルーシュは己の体が
おこりを起こしたかのように震えだしたのを知覚した。それでも自分を放そうと
しないロロを促そうとその背に手を伸ばせば、自分を抱き寄せるロロもまた、
その身を震わせていた事に遅ればせながら気づく。

 これほどの動揺に耐えてなお……彼は、この身に差し出す手を引こうとはし
ないのか……



 「……僕を側において、ルルーシュ……大好きだよ」



 自分こそがその衝動に耐えかねているかのような様相で、それでもロロが、
震える声で自分に向けた好意を示す。
 言葉にして応えない事で自らの衝動に耐えるのも……もう、限界だった。



 「……っ」


 自分を抱き寄せる背にきつくしがみつき、線の細い胸元へときつく額をこすり
つける。

 次の刹那―――ルルーシュは、縋りついたロロの腕の中で、声を放って慟
哭した。


                             TO BE CONTINUED...


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