castling6



 「…ん…っ…は…んぅ…っ」


 それまでの、施療の一環として薬物を飲み下させていた時とは意味合いを違え
た唇が、上がる息を懸命に吐き出すロロのそれに重ねられる。忙しない呼吸を妨
げないように時折息を継がせながら口付けを深くしていくと、腕の中の華奢な総
身が大きく震えた。

 意味合いを変えた口付けのその先を、ロロも当然意識しているはずだ。その身
を眠らせるため、体内に燻ぶる薬物の効能を抜くためとどれほど理由を並べてみ
たところで、ほかに選択可能な手立てを選ばなかった時点で、これは双方が合意
した、ごまかしようもない性行為だった。


 だから、互いに一線を越えたこの段階で、相手の意思を再確認することになど
何の意味もない。そうして余計な逡巡をあおる合間にも、ロロの体は二つの薬物
に苛まれているのだ。

 「……ロロ。楽にしてろ」
 「…っ…ぁ……っ」

 敢えて返事を待つことなく、ルルーシュは腕に抱いたロロの体を寝台の上へと
横たえた。
 それまで、「処置」の妨げになるものではないと意図して手をかけなかった上
衣を、半ば強引に汗で貼りつく体から脱がせていく。長時間の拘束で強張りを見
せる両腕から慎重に袖口を引き抜くと、その色素の薄い肌にはルルーシュの科
した縛めの跡が痛ましく鬱血していた。

 今更その状況を取りなす言葉もなく、傷ついた箇所に触れぬように、開かせた
両腕をその体の脇に下ろしてやる。もう一度楽にしろと言いながら、ルルーシュ
は「施療」の間けして触れることのなかったロロの上体へと、その指や唇を滑らせ
ていった。


 あくまでもロロの体調を考えながらの加減が必要とされたが、与えられた催淫
剤の作用はこれで徐々に抜いていくことができる。あとは、寝ても覚めてもその精
神を苛み続ける、自白剤の薬効だった。

 薬があくまでも対象の精神に作用するものなら、対象の意識が完全に余所事
を向いていればその効能は格段に落ちる。薬の持続時間そのものは始めから
定められているのだから、後はその効果切れまで逃げ切れるかどうかだった。
 そう考えれば、この状況は、ある意味ではロロにとっても都合がいい。

 施療だと思うから、半端に残された理性が自白剤の追及につかまるのだ。いっ
そのこと、もっと早くに自分が覚悟を決めていれば、ここまで彼を苦しませずに済
んだだろう。


 それが解っているからこそ、ルルーシュは一度それと決めた差し出し手に、手
心を加えなかった。
 上がる呼吸が限界を超えていないか逐一意識の片隅で気に掛けながらも、這
わせた手と唇が、焦らすことなく的確にロロの性感を煽っていく。


 「…っひ…んぁ…っ」

 反らされた胸の頂きを指と舌で刺激すれば、それまで懸命に飲み込み続けて
きたのであろうはっきりとした喘ぎがその喉を突く。そのまま空いた片手を兆しきっ
たロロのものに這わせれば、上がる喘ぎはいっそう明確な響きを宿した。


 「んぁ…っ…に、さんだめ…ぁや……っ」
 「なにも考えなくていい。息は詰めないようにして、そのまま楽にしてろ」

 刺激に跳ね上がる体を緩く抑え込みながら、限界を訴えるものを煽る手の動
きに力を込める。時を待たずして、それは逐情の瞬間を求めてルルーシュの手
の中で大きく打ち震えた。
 焦らすことなく引導を渡してやれば、泣き濡れた喘ぎと共にロロが性の証を
放つ。



 明確な意図のもとに導かれた三度目の逐情は、ロロを完全に自失させてし
まったようだった。

 「…っ…は…ぁ…っ」
 「ロロ」

 弾む息を整えるように懸命に息を継ぎながら、空に向けられたロロの双眸は
のぞきこんだルルーシュを認めることもなく呆然と見開かれている。その自失の
態に、彼が強引に味わわされた性衝動による困憊の程が伝わってきたが、そ
れでも敢えて、ルルーシュはロロに正気を取り戻す間を与えなかった。

 手を濡らした性の証を指に絡め、力の抜けたロロの下肢を、間に割り込ませた
自らの体で閉じられないように開かせる。そのまま、伸ばされた指が明確な意
思を以てロロの後腔へと触れた。


 「ひ…っ」

 反射的に総身を強張わせたロロを宥めるように、悲鳴を漏らす唇に軽く口付
けを落としながら、這わせた指先が目的の場所へと僅か埋められる。それま
で薬の作用で散々に焦らされ、身を焼く悦楽に耐え続けてきたそこは控え目
なひくつきを見せており、潜り込んだルルーシュの指をさしたる抵抗もなく迎え
入れた。


 「ロロ…」
 「あ…っ!ん…んぅ……っ」

 燻ぶり続けた体には、それまでけして与えられることのなかった場所への刺
激が堪らないのだろう。埋め込まれた異物を押し戻そうと、一度はきつい締め
付けを指先に伝えたその場所は、ゆるりと内部を撫でると、上がる嬌声と共に
ごまかしようのない収縮を見せた。

 「ぁ…や、だ……にいさ……さわ、らない、で……っ」
 「ロロ、息をつめるな……お前を苦しませたくないだけだ」
 「は…っん、ぁ……こんな、こと…しなくてい、いから……っひ…んぁあ…っ!」

 様子を見ながらもう一本指を添え、内部を押し開くように動かしていると、切
れ切れに制止の声を上げていたロロ喉奥から、それまでとは声音を違えた切
迫した叫びがあがった。
 ルルーシュから頑なに顔をそむけるようにシーツに埋められていた幼い容色
が、弾かれたようにかぶりを振って涙の滴を空に四散させる。
 どうやら、内部を探る指先が、ロロの性感の中枢を掠めたらしい。それと知っ
て、触れた場所を確かめるかのように再度同じ個所を撫で上げれば、上がる悲
鳴に嗚咽が混じった。

 「ぁや…っや…だ…っ」
 「……っ」

 泣き喘ぐロロの余裕のない姿を、不憫と思いながらもそれを施すルルーシュ
の身の内で、ある種の衝動が芽をもたげる。すでに体の関係をもった相手の痴
態は、それと意識すまいする彼の情欲を、容赦なく刺激した。

 そんな自身の後ろ暗い欲を振り払うように、腹の底でロロに詫びながら、ル
ルーシュはロロを追い上げる行為に専念した。



 「やぁ…っ!ぁ、そこ嫌だ…ぁ…っ」
 「ロロ……ロロ、大丈夫だ。苦しませたりしない。このまま出していいから…」
 「ひ…ぃ…っ……だめ…も、これ以上……や、だ…っ」
 「ロロ?」

 身の内から沸き起こる衝動に全身を震わせながら、それでもロロが首を打ち
振って激しい拒絶を示す。
 内部からの刺激に達する事への抵抗にしては、この状況からの拒絶はあま
りにも激しすぎる。そんなロロの様子を怪訝に思ったルルーシュは一端送り込
む刺激を止め、泣き濡れたその顔を覗き込んだ。

 限界まで追い上げられた悦楽にガクガクと全身を痙攣させながら、束の間止
まった刺激に慌てて呼吸を整えたロロの双眸が、絶え間なく溢れ出す滴に濡
れたまま懸命にルルーシュを見上げる。
 そして……断続的にせり上がる嗚咽の下から、彼は切れ切れに、これ以上
は無理だと訴えた。


 「も…っ…無理……んぁ…っ…これいじょ……い…たら…ほんと、に…おかし
  く……っ」
 「ロロ…」
 「だめ…ぁ…っ…にいさ…も…たすけ……っ」


 これ以上の逐情はおかしくなると泣きながら、それでもそれを施す自分に助
けを求めるロロの訴えがルルーシュの胸に爪を立てる。
 身を焼く悦楽に……怯えて流した涙ばかりでは、ないのだろう。

 ここまで余裕のない段階まで追い上げられながら、それでも最後の瞬間をロ
ロが恐れるのは、その意識のどこかで、理性の糸をつなぎ止めているからだ。
だからこそ、自失の瞬間に再び意識をからめ取ろうとするだろう自白剤の後遺
を、彼は無意識に恐れている。


 このまま熱を吐きださせてやるだけでは、きっと足りないのだ。もっと強烈に
その正気を奪い、理性の糸など断ち切るほどの絶対的な衝動を与えなけれ
ば、彼の意識は結局余所事にとらわれてしまう。

 そのための、恐らくは最も効果的で、そして即物的な手立てを、ルルーシュは
既にもっている。必要に迫られればそれを与えようとする覚悟も、自ら呼吸を止
めるほどに追い詰められた弟の姿を目の当たりにした時に、自身に課していた
はずだった。




 本当にそれでいいのかと……それでも今更のように、腹の底で逃げ道を見つ
けたがる己の弱腰を、グッと奥歯を噛みしめることでルルーシュは耐えた。

 倫理が問題なのではない。それを自らに後押しするにはまだどこかで覚悟の
足りない、自分の心の問題でもない。
 いま是非を問うべきなのは、それがロロの体にとって、真に必要とされている
かどうかだけだ。それ以外の自問も自虐も、後から一人で消化すればいいだけ
のことだった。



 もう嫌だと泣きながら、それでも救いを求めるロロの手は、まっすぐに自分へ
と向けられている。
 後は……自分の中に残された、逃げ道へと退きたがる自分を押しとどめられ
るかどうかだけだ。





 「―――ロロ」


 いいかとは、口には出さなかった。仮にここでロロが拒んだところで、彼を発
狂から救うために、もうこの手を引くことはできない。


 断続的に跳ね上がる膝頭を支点にするようにして、痙攣を繰り返す下肢を抱
え上げる。
 自らにも相手にも、逡巡する時間を与えることなく―――ルルーシュは、解さ
れたロロの秘所へと、あてがった自らのものを一息に押し入れた。



 「――――――――っっ!」

 刹那……室内の空気を震わせた、声にならない悲鳴とともに、埋め込んだ欲
の証にきつく絡みつく内壁の抵抗をルルーシュが知覚した時には……ロロは、
自らの腹や胸を、放ったもので白く汚していた。


                                 TO BE CONTINUED...


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