castling5




 立て続けに逐情へと追い上げられたロロの体力は、それまで彼が苛まれ続けて
きた自白剤の後遺症とあいまって、すでに限界に達しているようだった。

 大きく胸を弾ませながら懸命に呼吸を整えようとする、その子供じみた輪郭を残す
顔は、たった数時間にも満たないこの僅かな時間の間にルルーシュの知る彼のも
のとは印象を違える程に、面やつれを見せている。プロの戦闘組織に籍を置き、常
人の想像を絶する鍛錬を課されてきたであろうロロのここまでの困憊を、ルルーシュ
はこれまで目にしたことがなかった。

 その欠陥を抱えた心臓にかかる負担もある。ロロの体に残る薬効が完全に抜け
るまでの長丁場を予想すれば、これ以上彼に無理を強いる訳にはいかなかった。

 頼むからこれで落ち着いてくれと、腹の底で祈るように独語する。ロロの体調に余
力が残されている時でもあればまだしも、このままロロの欲情に付き合い続けてそ
の命を縮めるような羽目になれば、本末転倒だ。

 だが……そんなルルーシュの思いを嘲笑うかのように、ロロを苛む催淫剤の効力
は、少しも衰えを見せることはなかった。
 三度兆し始めた自身の欲情を持て余したロロの体が、それでもルルーシュから僅
かでも逃れようと、力なくもがく。


 「…っふ……ぅ…っ」

 強制的に呼び起される果てのない悦楽に、ロロ自身困惑を覚えているのだろう。
堪え切れずに溢れ出したものでその容色をしとどに濡らしながら、今だ荒い呼吸の
隙をついて切れ切れに洩れる嗚咽には、どこか途方に暮れたような色が滲んでい
た。

 初めて目にする弟の様相に、直面したルルーシュの胸も痛みを覚える。
 だが、それでも……不憫だからと、施療の手を止める訳にはいかなかった。


 「ロロ……」

 その体に残る自白剤の後遺症を承知の上で、ないまぜになった苦痛に喘ぐその
耳元に呼びかける。自分を拒絶するかのように竦みあがったその上体を半ば強引
に抱き起こし、ルルーシュは、再び自ら煽った薬剤を、口移しにロロに与えた。


 「んぅ…っ…っは……っ」
 「ロロ…ロロ、俺がわかるか?」
 「っ…も……ぁ…それ…やだ……」

 自白効果のみならず、性的な焦燥にも苛まれ泣きぬれた困惑顔は、しかし、何
故かその容色を、常の彼のものよりも幼く見せていた。
 果てるそばから強引に欲情させられる苦痛だけでも想像して余りあるというのに、
薬を抜くことを目的に、更に別種の薬物を無理やり飲み下させられるロロの苦しみ
はどれほどのものなのだろう。

 咲世子がルルーシュに託した薬剤は、心臓に欠陥を抱えるロロでも副作用に脅
かされる恐れがない程度にまで希釈された中和剤の一種だった。少量ずつ時間
をかけて、微妙に濃度を上げながら与え続けることで、薄皮を剥ぐように自白剤の
薬効は抜けていく。
 だが、与えられた当人にとっては、その焦れるような施療の進度は、おそらく拷
問にすら感じられる生殺しの時間だろう。苦しませると解っていてそれでも「解毒」
を続けることは、ルルーシュにとっても想像以上に勇気を強いられる行為だった。


 緩慢とした中和剤の薬効と、身を焼き続ける催淫剤の後遺に耐えるのにももはや
限界なのか、子供のように嗚咽するロロの総身が不自然な震えを帯びる。咄嗟に
伸ばされたルルーシュの手を拒む余力すらないほどに、ロロが追い詰められてい
るのは明らかだった。


 「……ロロ。熱を抜いてやりたいが……まだ体が持つか?」
 「は…ぁ…っ…ぁや…も……っ」
 「もう無理か?無理なら、一度眠らせるから……」

 自白剤の中毒状態を起こしかけているロロの体から完全に薬を抜く必要がある
以上、その身を眠らせても根本的な解決にはならないことなど承知していた。むし
ろ、半端な状態で意識を失えば、体内にしつこく残るその薬効が、ロロの精神に
どんな後遺を残すか解からない。
 だが……結果としてその苦しみを長引かせるだけだと解ってはいても、限界を計
り違えてロロを発狂させる訳にはいかなかった。


 ルルーシュの問いかけに、それまで伏せられていた瞼が震えながら持ち上げら
れる。かけられた言葉を知覚できているのかいないのか、ぼんやりとルルーシュ
にむけられた若紫の双眸から、瞬きの弾みにその表面を覆っていた涙の薄幕が
零れ落ちた。

 「……ねむ、らせるって……ぁ…くすり……?」
 「ああ。いい方法じゃないがな……お前が限界なら、そうも言ってられない。後遺
  症が残るようなものじゃないって話だから、今だけ使う分には……」
 「……い、やだ…」

 上がる息の隙を縫うようにして、切れ切れに紡がれたかすかな言葉。問いかけ
に問いかけで返され、その焦燥する胸の内を否応なしに推し量らされたルルーシュ
は、ロロの動揺を誘わないように敢えて軽い語調を装った。
 だが……どうということはないのだと結ぼうとした続く言葉を、吐息に紛れそうな
ほど頼りない声音が、それでもはっきりとした拒絶の意思を露わに遮った。


 「ロロ?」
 「くすり…は嫌だ……む、りやり…寝かされたり、起こされ、たり……ると…っ…
  あ、たま…おかしく……っ」

 あとはもう言葉にならないのか、切れ切れの声でようやくそれだけを訴えると、
ロロは込み上げてくる嗚咽に呼吸を乱した。
 それでも、全身で拒絶を訴えるかのように総身を強張らせ、ゆるゆるとかぶりを
振るその姿に、仕掛け側であるルルーシュもまた、内心で途方に暮れる。


 ロロの精神が、正気を保てるギリギリのところまで追い詰められていることは、そ
の様相からも明らかだった。このまま放置すれば取り返しのつかない事態が待って
いると解っていて、これ以上手をこまねいている訳にはいかない。
 だが、その精神の均衡を守るために最も有効な手立てと思われた、薬物の使用
を当の本人がここまで激しく拒絶するとなると……

 薬効に頼ることなく相手の意識を奪う手立てが、ほかに存在しないわけではな
い。それでも、どうしても相手の体に負荷をかけると始めから解っているやりようを、
今のロロに試すわけにはいかなかった。


 「ロロ……でももう、お前も限界だろう?これ以上は…」
 「……っ」

 大きく息を荒げるロロの、汗で額に張り付いた前髪を宥めるようにかき上げる。
そのまま、その顔を濡らし汚した汗や涙の残滓を濡れタオルで拭い取ってやりな
がら、ルルーシュはその耳元で、もう一度弟の名を呼んだ。
 二種類の薬物に苛まれ、正気を失いかけているロロに無理強いはしたくない。
だが、どの道このままでは危険な状態を招くと承知の上で、呵責に負けて手を引
くことはできないのだ。


 心配するなと、自らにも言い聞かせるかのように言い置いて、ルルーシュはそれ
以上の逡巡を自らに許さずに、一端寝台を離れると部屋の入口に取って返した。



 ロロを眠らせたその後の処置は、微妙な投薬のさじ加減もあり、ルルーシュ一人
の手には負いかねた。一度咲世子の指示を仰ぐためにも、後からロロに居たたま
れない思いを味わわせないよう、投薬後にロロの身繕いを済ませてやらなければ
ならない。

 ロロの着替えや室内の換気、そんな後から考えればいい段取りにまで思いを巡
らせてしまうのは、ロロへの投薬という行為自体が、施すルルーシュ自身にとって
も気の進まない行為であるからなのだろう。今こうしている間にも続くロロの悶絶を
知りながら、たかだか同じ部屋に置かれた薬を取りに動いたにしては大仰すぎる
時間を、我知らずルルーシュは費やしていた。


 そして……その予想外の空白の時間が、室内の状況を大きく変動させた。




 「―――ロロ、このままじゃ気持ち悪いだろ?後で体を拭いてやるから……っ」

 ロロを悪戯に刺激しないよう、殊更に気安い口調を選びながら寝台へと振り返っ
たルルーシュの双眸が、目にしたものの衝動に大円に見開かれる。
 床を蹴るようにした駆け戻った寝台の上で……それまで総身を震わせながら薬
の後遺症に耐えていた華奢な体が、ぐったりとその肢体を投げ出していた。


 「ロロっ!」

 仰天して腕の中に抱き起こした体には、一切の抵抗が感じられない。まさか薬
効に耐えきれず意識を失ったのかと、その頬を叩きかけ―――面前を掠めた自ら
の指先に違和感を覚えたルルーシュは、半ば茫然とした面持ちで、ロロの鼻先に
再び手をかざした。

 あれだけ荒い呼吸を繰り返していた唇からも、その鼻腔からも、呼気による空気
抵抗が一切感じられない。よもやの思いでその胸元に目をやれば、当然あるはず
の、呼吸による断続的な上下運動も認められなかった。


 「…っロロ!おい!」

 気を失ったと状態を判断するには、明らかに違和感がある。
 これではまるで、呼吸そのものを……



 ただでさえ、その最たる循環器に欠陥を抱えた体なのだ。わずかな時間でも
呼吸障害を起こせば、後々どれほどの後遺症が残るか解らない。

 とにかく気道を確保させなければと、抱き寄せたロロの喉元を仰け反らせる。
そのまま呼吸を誘導させるべく鼻尖に手をかけかけたところで……不意に、ロロ
が喉奥で咳きこんだ。
 それをきっかけとしたかのように、薄い胸元が僅かに動き始める。


 「ロロ……?」

 とにかく呼吸が再開されたらしいことに脱力するほどの安堵を覚えながら、それ
でも解せない思いで、ルルーシュは腕に抱いた体を寝台の上に横たえた。


 発作のようなものに、苦しんだ痕跡はなかった。そんな兆候が表れていれば、
束の間側を離れたとはいえ、同じ室内にいた自分がロロの異変に気付かなかっ
たはずはない。
 となれば―――残された可能性は、これが人為的な要因によるものだというこ
とだが……

 その体内に残された薬物に、呼吸障害を引き起こすような副作用はないはず
だ。様子を見ながら徐々に飲み下させた中和剤のさじ加減を見誤ったとしても、
その急性転化まで見過ごしたはずがない。
 ほかに考えられる、人の手による変化があるとすれば……


 「……まさか…お前自分で……」


 よもやの思いと、底冷えするような恐怖が、ほかに聞く者もない室内で、それで
も続く言葉をルルーシュに噤ませる。
 あり得ないものでも見るような目で意識のないロロを眺めやりながら、その唇が
俄かに震えを帯びた。


 ロロが元来、暗殺や諜報といった裏稼業を生業とする組織の出身であることは、
今更再認識するまでもない事実だ。その暗躍に必要とされる手立てなら手抜かり
なく網羅し習得していることも承知している。

 そういった裏組織とは縁のない半生を送ってきたルルーシュにとっては想像の域
をでない話だが、諜報に係る人間は組織と情報を守るため、「敵」の手に落ちた際
の身の処し方を承知しているという。状況如何で対処も変わるのだろうが、尋問か
ら逃れ、自身の抱えた情報と命を守るために最も手早く効果的な方法が、自ら意
識を失うことなのだと聞いたことがあった。

 その具体的な方法などルルーシュは知らなかったし、これまで知りたいと思った
こともなかったが……今、こうして意識を失ったロロの置かれていた状況を鑑み
るに、彼が取れた手段は一つしかないように思えた。

 満身創痍の上、その両手首を拘束された状態から、人為的に意識を手放そう
とするなら……後は、自らの意思で操れるのは、自身の呼吸くらいだろう。
 自ら呼吸を止めるだけでは、あの限界近い欲情状態にもあったロロにはきっと足
りない。恐らくは、唯一自由になる舌を使って、自身の気道を―――


 そう仮定すれば、ロロの体を抱き起こした際に、体勢の変化で気道を塞いでいた、
巻き込んだ舌が外れてその呼吸が再開したことにも納得がいく。
 だが……仮説でありながら、その可能性に思い至った刹那、ルルーシュは身の
内から湧き上がってきた激しい怒りの衝動を、抑えることができなかった。


 「…っの……馬鹿が!」

 飲み込む事のできなかった罵声が、室内の静寂を乱す。対象である弟がいまだ
失神状態にあることを承知の上で、彼はロロを罵倒せずにはいられなかった。

 「馬鹿が!何を考えて……っ…もし…俺が気付かなかったら……っ」


 呼吸困難から意識を手放した状態が、一定時間を超えて続けばその循環器の
みならず、脳の機能にまで障害が及ぶ恐れもある。ロロが取ったのは、そんな捨
て鉢な方法だった。

 恐らくは、室内に控える自分が的確な処置を施してくれるだろうという、自分に対
する信頼が根底にあったからこそ、とれた手法だったのだろうとは思う。ロロにして
みれば、ただとにかく意識を手放したい一心で選んだ、勝算が確実な「賭け」であっ
のだろう。


 だが、それでも……何事にも、手違いというものは付いて回るのだ。
 もし、あのまま自分が自問の続きに浸っていたら。束の間の現実逃避を選び、そ
れこそロロの着替えの用意を優先し、部屋の換気に意識が向いていたら……
 そんな僅かな時間の差で、ロロの体に生涯拭えない障害を残していた可能性も、
十分有り得たのだ。それを思えば、間に合ってよかったと、単純に胸を撫で下ろす
気持ちにはなれない。


 薬は嫌だと、何度も繰り返していた弟。そんな彼に、状況的にやむを得ないと思
いながらも、更なる投薬を施すことはルルーシュにとっても苦痛を伴う行為だった。
 だが……その逡巡のために、こんな、一歩間違えれば取り返しのつかない事態
を招くというのなら……



 と、その刹那―――

 「……っ…」

 半ば強引に蘇生させられたことでその意識も引きずりあげられたのか、それまで
力なく閉ざされていたロロの瞼が、震えながら持ち上げられた。咄嗟のことにかけ
る言葉もなくその様子を見やっていたルルーシュを前に、押し開かれた若紫の双眸
が、数瞬の沈黙の末に隠しようのない陰りを帯びる。
 意識を取り戻してしまったと……そんな、言外の絶望じみた思いが滲み出たかの
ような、表情だった。

 眼前のルルーシュに目を向けることもなく、一人自失するロロのそんな姿に―――
ルルーシュの中で、何かが音を立てて弾けた。



 「―――ロロ」
 「……っ」

 半覚醒の状態で周囲に意識が向いていなかったのか、短い呼ばわりの言葉にロ
ロの総身が跳ね上がった。
 自分の取った行為が後ろめたいという思いはあるのか、向けられる視線から逃れ
るかのように、その顔が体ごとルルーシからそむけられる。

 「ロロ。こっちを向け」

 内心の衝動を押し殺しながら、務めた平静を装った再度の呼ばわりにも、ロロは従
おうとはしなかった。
 それならそれで好都合だと、一端部屋の片隅まで後ずさりながら、目的のものを
手に、ルルーシュが再び寝台の脇に立つ。

 そして……予備動作を加えることなく、ルルーシュは背を向ける華奢な体を自分に
向き直らせた。


 「ひ…っ!」
 「ロロ…手のこれ、外すぞ」

 言うが早いか、制止の声をあげかけたロロを殊更に無視して、その両腕を拘束して
いた戒めに、手にした刃物を滑らせる。
 ブツリという音と共に両腕の自由を知覚したらしいロロの容色から、瞬時に血の気
が引いた。

 「ひ…っ駄目!兄さん駄目!!」
 「黙れ!」

 解放された両腕で自らの体を抱きしめるようにして、懸命にルルーシュから逃れよ
うとするロロの叫びに、倍もの激しさで叩きつけられたルルーシュの怒声が重なる。
 思わず抵抗を止めたロロの、怯えきったような顔を覗き込みながら、ルルーシュは
怒りも露わにロロを詰った。


 「お前は!自分が何をしたのか、自分で解っているのか!!ただでさえ心臓の弱
  いお前があんな……一生をふいにしてもおかしくなかったんだぞ!!」
 「…っ」
 「薬を嫌がったお前をそれでも薬で眠らせようとしたのは悪かった。それでも、まさ
  かあんな……ほかに方法はあっただろう!」


 叩きつけられる怒気に委縮したのか、それとも覚醒直後の意識をかき乱されて混
乱を覚えたのか、言葉もなくルルーシュを見上げるロロの双眸から、じわりと溢れ出
したものがあった。
 その衝動をどこかで不憫に思いながらも、激情の納めどころを見つけられないルルー
シュの怒声は止まらない。


 「俺が一番腹が立つのは!……お前が、一人きりでこの状況と戦おうとしているっ
  てことだ。後から俺のフォローを見越したにしてもこんな……これじゃ、お前が前
  に言っていた、一人で戦っていた頃のお前と何も変わらないだろう!!」
 「に…っ」
 「この部屋でも…お前が自分の居場所になったと言った、ここでも、お前は一人で
  戦うのか?お前の生きる世界は、お前が嚮団にいたあの頃のままか?まだ、お
  前は一人のままなのか!?」


 激情のまま続けられた叫びに、総身を竦ませていたロロの双眸が弾かれたように
見開かれた。
 何事かを口にしようとして……それでも、結局は言葉を見つけられずに押し黙って
しまったロロの総身を、伸ばされたルルーシュの腕がきつく抱き寄せる。


 「……そんなに薬が嫌なら、睡剤は使わない。お前の体の事が気がかりで考えな
  いようにしていたが……結局似たような結果になるなら、俺が眠らせてやる」
 「…っにいさ……」
 「俺を頼れ!」

 反駁とも懇願ともつかないかすれた呼び声を打ち消すような、確かな意志の力を感
じさせる叫び。
 反射的に瞬いた双眸から零れ落ちた情動の残滓をぞんざいに拭ってやりながら、
ルルーシュはその耳元で再び自分を頼れと繰り返した。

 「俺が何とかしてやる。何があっても、俺が最後までつきあってやる。……だから、
  今くらい何も考えずに俺を頼れ。この部屋の中でまで、一人で戦うな、ロロ」



 刹那―――ルルーシュの腕の中で、ロロの総身が傍目にわかるほどの反応を示
した。

 告げられた言葉に反射的に跳ね上がった体が、ややして小刻みな震えをおび……
そんな自らの衝動を宥めようとするかのように、戒められたわずかな空間の中で、何
度も上がる呼吸を整える。
 それでも結局は、身の内から沸き起こった震えは治まりを見せず、ぐっと自身の上
衣の胸元を握りしめたまま、ロロは自分を抱く兄の肩口に、観念したようにその額を
押しあてた。

 堪え切ることのできなかった新たな情動の滴が、ルルーシュの胸元をじわりと濡ら
す。


 「……けて…」

 せり上がる嗚咽に飲まれ、明確な言葉を形どることができなかった吐息のような呟
きが室内の空気を震わせる。
 言葉の続きをルルーシュが無理強いすることはなかったが……回された手で、宥め
るかのように癖毛を撫で梳かれると、最後の自制を守ろうとしがみついたロロの矜持
は、呆気なく瓦解した。


 「……にい、さん……助けて……っ」




 自身の言葉を知覚すると同時に、新たな情動の滴が伏せられた瞼の下から溢れ出
す。
 もはや言葉を続けられず、嗚咽を漏らすばかりになったロロの再び乱れ始めた呼吸
は、明確な意志をもって降りてきたルルーシュの唇に吸い取られていった。




                                   TO BE CONTINUED...


 




  コードギアスR2の小部屋