■恋せよ乙女■

 

私、御崎榛名(みさきはるな)17歳。
普通に高校に通っている、普通の女子高生。
自分でいうのもなんだけど、これでも結構「可愛い」という評判をもらってるの。
そりゃ、それなりに体型を維持したり、メイクやファッションだって気を遣ったりしているけどね。
可愛い女の子には可愛い女の子なりの苦労っていうものがあるのよ。
そんな私のモットーは…。
「恋せよ乙女、人生一度、楽しまなくちゃ損損♪」

その私が今一番気になる人っていうのが…。

この混沌とした世界を救うべく、神が遣わせた伝説の戦士。
そう、勇者様!!

 

「勇者さま〜!」
「なんだい、御崎くん」
「えへっ♪いや、勇者様に会いたくてまた来ちゃいました」
そう言って私は全速力で走ってきた息を整えて、勇者様と並んで歩く。
「君って変わっているよねぇ」
突然勇者様がにこやかに、私にそう言葉を投げかけてきた。
「えっ?変わってますか?」
「うん。だってほら…」

ばしゅっ!!

「へっ?」
きらめく一線の光…。
振り向くと路上には、魔物が見たことのない色の体液を流して倒れている…。
「毎回こういう魔物と出くわす危険性があるっていうのに、わざわざ僕に会いに来るから」
「あぁ、そんなことですか」
「う〜ん、そんなこと…か…」
なんだか勇者様は腕を組んであごに手をやり、悩んでいるような顔をしている。
「だって、好きな人とはずっと一緒に居たいじゃないですか?だからこんな魔物くらいどうってことないですよ!!」
「ははははは」
「なんかおかしいですか?」
「いや、違うよ。すごいなぁと感心したんだよ」
そう言って今度はにっこり微笑んでくれる…。
ほら、やっぱり勇者様ってかっこいいんだから!

 

私が勇者様に会ったのは三日前のこと。
いつものように、街で変な男にナンパされて、頭に来て蹴飛ばして逃げていた時…。
いつもだったら軽く逃げ切れるのに、その日に限って途中で変な「モノ」とぶつかってしまって…。
気がつくと地面に倒れているわ、後ろから厳ついナンパ野郎はやって来るわ、もう大変!
しかもそのぶつかった「モノ」っていうのがよく見ると…。
えっ?見たこともない物体…というか…生物?
でも、たしかニュースかなにかで見たことがあったような…。

――っ?!

思い出した!これって…魔物っていうヤツ?!
実物を見たのは初めて…。
本当にいたんだ…こんなモノが…。
…って、それどころじゃない!!
…これじゃ前門の魔物、後門のナンパ師!?
私、絶体絶命のピンチじゃん!!
そんなことを覚悟するわけもなく、何か脱出する方法を考えないと…と思っていると…。

ざんっ!ばしゅっ!!

ふと現れた銀色の光と共に前門の魔物が、上半身とか半身がずれるような形で崩れていくのが見えた。
私は一体何が起きたのか一瞬理解しかねる。
そんな私の頭上で…。
「う〜ん、こいつはたいした経験値じゃないなぁ…」
と言う声が聞こえた。
見上げると、そこには学生服にマントを身につけ、右手に大きな剣(?)をもった黒髪の男の人が立っていた…。
「あ…あの…」
私が声をかけようとした、その瞬間!
「貴様!こんなことして逃げ切れるとでも思ったのか?!」
そんな声が背後からした。
あちゃ〜!もう追い付かれてしまった?!
振り向くとそこには、さっきの厳ついナンパ野郎が立っていた…。
もう、そういうんだから女の子にもてないっていうのに…わかっていないのよね。
「!」
そうだっ!
私はふと閃いた。
「あ…あの、私、あの悪い人に追われているんです、助けてくれませんか?」
そう言って私は目の前にいる黒髪の男の人に助けを請う。
精一杯の愛くるしい懇願の眼差しで…。
だけど…返ってきた言葉は。
「悪いけど、経験値にもお金にもならないことはしない主義でね」
そう言って黒髪の男は、マントを翻して立ち去ろうとする…。
ちょっ…ちょっと待って…?!
可愛い女の子がこんなにも助けを求めているというのに、あっさり帰るなんて、そんなのあり?!
普通ありえないでしょ?!
「ちょっ…ちょっと待ってください!」
「ごめんね〜、僕先急ぐから」
あ…あの…こういう場合嘘でも助けるべきでしょう?!
こうなったら…。
「助けてくれたら一万円」
「そこの悪党!か弱い女性をいじめるとは人間のクズだなっ!!」
突然振り向き、厳ついナンパ野郎に剣先を向け、そう格好良くセリフを言う黒髪の男…。
うふっ!単純♪

…ってアレ?
学生服に…マントに…剣?
これってもしかして…!!
テレビで時々見かける――勇者様?!
えっ?ウソ?!
この人があの有名な勇者様?!
スゴイじゃん私!!
あの勇者様に助けてもらえるなんて…。
これはきっと、運命の出会いっていうヤツね♪
もう、神様!ありがとう♪
ステキな出会いに私は心から感謝をした。

ちなみにその後、私は地面に突っ伏している厳ついナンパ野郎からお金をちょっと拝借して、そして勇者様にお礼として渡した…。

それから私は毎日学校が終わると、こうやって勇者様に会いに来ている。
実際、勇者様と一緒にいると、噂通り…。
見たこともない、いろいろな生物、「魔物」というものがひっきりなしに襲いかかってきた。
襲いかかる魔物に、ちょっと恐い思いもするけど…。
だけど、勇者様が必ず守ってくれるし、さらにそんなカッコイイ勇者様を間近で見られるから、多少のことは我慢できるっていうもの。
それに…、もうだいぶ慣れてきたし♪

次の日。
私は学校が終わって、いつものように勇者様がいるこの街へとやってきた。
いつもならそろそろ、勇者様が現れる頃なのに…。
私はなかなかやってこない勇者様を今か今かと待ち構えていた。
すると…。
金色の髪に金色の目をした、変な男の子が勇者様と親しげに話をしながらこっちにやってくる。
勇者様の友達かな?
「勇者様〜♪」
「やぁ♪今日も来たんだね」
「えぇ、もちろんですよ!一日一回勇者様に会わなくてどうするんですか?」
私がにこやかにそう言うと、金色の男の子が意味深な言葉を投げかけてきた…。
「この子が…?」
「そう、この子さ」
「ふ〜ん…」
そう言って金色の男の子は私をじっと見つめている…。
な…何…会っていきなり――告白?!
そ…そんな、たしかに金髪の美少年っていうのも捨てがたいけど…今の私は勇者様一筋なの!
ごめんなさいね金色の人。
「ねぇ日呂、この人なんか変な格好しているけど…?」
「いいんじゃないのか?自分の世界に浸っているみたいだし…」
その言葉ではっと我に返った私…。
「ゆ…勇者様…こちらは?」
「あ〜こいつ、下僕の陰山扇名」
「お…おい、下僕って…!?」
「そうだったんだ〜!やっぱり勇者様クラスになるとこういう人の一人や二人いて当然ですよね♪」
「そうそう♪」
「いや、だから違うだろ!!」
なにやら下僕の人がわめいているけど、この際それは無視。
「ところで今日はどこに行くんですか?」
私が何気なく尋ねた質問に、何故か二人は顔を見合わせて…。
「ん〜今日はダンジョンの攻略に行く予定なんだけど…」
「ダンジョン?」
「そう、地下の迷宮さ」
へぇ、やっぱりテレビで言っていたことは本当だったんだ…。
勇者がダンジョンっていうのを攻略すれば世界が平和になるって…。
それがどんな場所かちょっと見てみたい気もする…。
「あ、あの〜勇者様。私もついていっていいですか?」
「ん?まぁいいけど…」
「やった♪」
私は右手で小さくガッツポーズをとった。
だって、こういう機会って一般人だと絶対ないでしょ?
ましてあの勇者様と一緒に行けるなんて、スゴイ感動!!
「じゃ、これ貸してあげるから…」
そう言って勇者様が小さな小刀みたいなものを渡してくれた…。
「これは…?」
「ダガーだよ。自分の身は自分で守ってね」
そう言うや否や、勇者様はすたすたと道を歩き出した。
慌てて私はそのあとを追う…。
これが私の命取りになろうとは…。

「きゃあああああああ!!!」
「ほら、そこじゃないって!」
「だぁぁぁめぇぇぇぇぇ!!!」
「だから、この魔物はここが急所!」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
「こんなのまだ初歩の初歩だよ…」
ダンジョンとかいう場所に入った直後から、私の悲鳴だけが妙にこだましていた。
その度に勇者様に助けてもらってはいたけど…。
「んじゃ、僕らは先に進むから、ついてこれるようになったらおいで!」
そう言い残して、勇者様は奥へと消えていってしまった…。
ちょっ…ちょっと、待ってよ!
こ…こんなところでか弱い女性を一人にしないでよ!!
っていうか、勇者様だったら最後まで責任もって助けてよ〜!!
「きゃあぁぁぁ――!!」

その後、なんとか命からがらダンジョンとかいうところを抜け出した私は…。
二度と勇者様に会うことはなかった…。
っていうか、あんなところに置いてきぼりを食らわすようなヤツに、二度と会いたくないわ!
こっちから願い下げよ!!
勇者なんて…。
…もうサイっテー!!!

 

私、御崎榛名、17歳。
普通に高校に通っている、普通の女子高生。
この間はちょっと生死を彷徨いかけたけどね。
自分でいうのもなんだけど、これでも結構「カワイイね」って言われるの。
そりゃ、そう言われるためにいろいろと努力は怠らないけどね。
カワイイ女の子にはカワイイ女の子なりの苦労っていうものがあるのよ。
そんな私のモットーは…。
「恋せよ乙女、人生一度、過去は振り返るな!」

その私が今一番気になる人っていうのが…。

「立瀬さ〜ん!」
「やぁ、御崎さん。毎日走って来るなんて、スゴイね」
「そんなことないですよ、それに愛の力は無限大ですから♪」
私は切れ切れになっている息を整えて、胸を張ってそう答える。
「あははは、そうか!」
「えぇ♪」
「ところで…、俺ちょっと用事があるんだけど…」
「用事って?」
「いや、図書館なんだけど…」
「なんだ〜。それ、私もついて行っていいですか?」
「ん、まぁいいけど…大変かもしれないよ?」
図書館が大変…?なんか変なことを言う人…。
でもそんなのお構いなしよ♪
「いいですよ〜!それに私、ちょっとやそっとじゃ動じませんから♪」
「そうか、じゃ一緒に行くか?!」
「はい!」

その軽い返事が、その後大きな後悔を招くことになろうとは、この時は思ってもみなかった…。
図書館に行くと言っていたはずの道が、何故か二度と来たくない場所にすり替わっているなんて…。

ダンジョン――

それはまさに魔物の巣窟…。
人外魔境のその場所は、人が足を踏み入れていい場所じゃない…。
っていうか、絶対来たくない!!
こんなところに来るくらいなら、まだお墓に行く方がマシよ!!
暗い迷宮の中、そんなことを思った私は…。

――二度とこの街に来るもんかっ!!

この後すぐにやってくる恐ろしい光景を前に、私はそう確信した。

 

恋する乙女はいつだって大変なんだから!!

 

 


祐祐様へ

(前略)

こんな小説を書いて贈らせてもらいました。あまり長い(文章)のは如何なものかと思って、本当に”ショート”ストーリーにしてありますけど…。こんな感じで、違った視点から見る日呂くんたち、如何でしょう?

正直、言葉遣いとか表現とかイメージにそぐわない部分がたくさんあると思います。「こんなのいらねーや!!」といって投げ捨ててもいっこうに構いません(^^;

ホント、こんなモノしか遅れなくて申し訳ないです…。

それでもえ〜と、、一応1万・2万ヒットオーバー記念小説ということで…(笑)

2004/11/24 「うららかな日々」 by しゅん


というわけで、頂きましたァ!!!!

しゅんさん、本当に有難うございます!感無量です!
こういう視点の話大好きです!だからすっごい嬉しかった…!
話も面白くて笑わせてくれるし、テンポとまとまりの良さがイイです!
私が小説書くとダラダラ長くなっちゃうからこういうの尊敬しちゃいます。しゅんさん凄い。
日呂の最低っぷりが最高です。本当にあの街は玄人向けですね。

御崎ちゃんには、この経験をもとに是非幸せな恋をしてもらいたいと思います。
頑張れ御崎ちゃん!命短し恋せよ乙女!

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