開催日時:2006年7月1日(土)12:00〜15:00 場 所:銀座「CLUB−NYX」 参加人数:9名 テーマ:ロワール・アルザス・ローヌ (Loire, Alsace, Rhone) 内容 ワイン:ロワール・白「チュエリー・ピュズラ トゥーレーヌ・ソーヴィニヨン・ |
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第2回目のワインについて
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はじめに
今回のテーマは「アルザス・ロワール・ローヌ」です。フランスには、ブルゴーニュとボルドーという二大産地以外にも、様々なタイプのワインの生産地があります。今回ご紹介する地域では、ブルゴーニュのロマネ・コンティのような超級銘柄や、ボルドーの細かいシャトー格付けとは違った、個性的でそれでいて自由に楽しめるワインが作られています。 |
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白ワインについて
白ワインはロワールのソーヴィニヨン・ブランと、アルザスのゲヴルツトラミネールをそれぞれ用意して頂きました。 ロワールの白ワイン ロワール河はフランス中央部から大西洋に注ぐ長さ1000kmの大河です。華麗な古城が点在する、まさにフランスの「庭園」。河口に近いナント地区のミュスカデから作られた白ワイン、その上流アンジュ地区のロゼ、美しい景観を見せるトゥーレーヌ地区のシノン、そして中央部のソーヴィニヨン・ブランから作られるサンセールやプイイ・フュメなど、フレッシュでフルーティなワインが楽しめます。 ロワールの白を代表する品種は、ミュスカデ、シュナン・ブラン、そしてソーヴィニヨン・ブランです。いずれも冷涼な気候において、きりっとした酸味が特徴の、切れ味があるドライなワインとなります。中でもソーヴィニヨン・ブランは、とてもアロマティックで、ハーブやミントのような独特の植物系の香りを持っており、青リンゴやグレープフルーツの風味が爽やかな印象を与え、酸にもキレがあります。 今回用意して頂いたのは、「チュエリー・ピュズラ トゥーレーヌ・ソーヴィニヨン・ブラン2004年」。チュエリー・ビュズラはビオデナミの醸造家として知られています。葡萄は全てビオデナミで栽培され、天然酵母で発酵され、ステンレスタンクで軽くマロラクティック発酵が行われます。ビオ香としても知られる独特のリンゴのような香りが特徴的で、バランスがとても良く取れていました。 |
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アルザスの白ワイン アルザスは長い間フランスとドイツの間で領土争いの犠牲となってきた地域です。その結果、この地域のワインは、フランスとドイツの混血児とでも言うべき、特殊なスタイルに仕上がりました。瓶形も銘柄もドイツ風で、品種も白が中心でドイツワインと共通しています。また、フランスワインとしては珍しくラベルに品種名が表示されています。全体的に香りが華やかで、かつボディもしっかりしています。 特にグラン・クリュは、基本的にリースリング、ゲヴルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカの四つの高級品種の単独醸造で造られます。その中でもリースリングとゲヴルツトラミネールは、華やかな香りが特徴的で、それでいて長期熟成も可能な力強さを備えています。高貴さという点ではリースリングの方が上位にランクされるかも知れませんが、より冷涼な気候と痩せた土地を好むリースリングは、やはり隣国ドイツが本場のように思われます。一方、イタリア原産のゲヴルツトラミネールは、ドイツよりも温暖で肥沃なアルザスでこそ本領を発揮します。ライチとスパイスの香りを合わせ持つゲヴルツトラミネールを飲まずして、アルザスワインは語れません。 用意して頂いたワインは、「ポール・ジンク アルザス・ゲヴルツトラミネール2003年」。チャーミングでありながら洗練されたラベルデザインが印象的です。ポール・ジンク社は、1965年に設立され、現在ポールとフィリップの親子が経営しています。このゲヴェルツトラミネールはポール・ジンク社が一番得意とするワインだと言われています。前述のロワールのソーヴィニヨン・ブランと比べると、あきらかに色が濃く、輝きのある黄金色をしており、何とも言えない独特のライチの香りが楽しめます。口当たりと香りはより甘く感じられ、エキス分が多いせいか口に含むと若干苦味を感じます。畑は有機農法、発酵はステンレスタンクを使用しており、極力自然な葡萄本来の味わいを損なわないように造られています。 白に合わせた料理はスズキのカルパッチョ。この二つの白で比較すると、ロワールのソーヴィニヨン・ブランとの相性が良いようです。ゲヴルツトラミネールはやや甘味があるので、もう少し味の濃い料理の方が合うと思われます。 |
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アルザスの歴史について
「皆さん、私のフランス語の授業はこれが最後です。ドイツ語しか教えてはいけないという命令が、ベルリンから届きました……」 アルザスのワイン造りは、紀元前後のパックス・ロマーナの時代までさかのぼります。中世、ライン河が交易手段として利用され、ストラスブールはワイン交易の中心地として栄えていました。複雑な地殻変動を受けた結果、この地はフランスで最も多様な地質構成となっており、小道一つ隔てた向こう側には年代を数億年もさかのぼる土壌があるという具合に、ワインの質には畑ごとに大きな違いが見られます。 しかし三十年戦争による荒廃、ドイツワインの台頭などによりその地位は低下していき、普仏戦争後のドイツは、かつてのライバルを安ワインの生産地におとしめ、フランスは敵国のワインにそっぽを向き、アルザスの名声は地に落ちたのです。実際のところ、アルザスは交通の要路、ロレーヌは鉄鉱・石炭等の地下資源の宝庫だったため、軍事上・経済上独仏両国にとって重要な土地であり、長い間互いに奪い合い、積極的な同化策を推し進めることになりました。 ドイツは寒冷地のため古くから品種の選別と交配による改良に力を入れてきました。一方フランスでは元々品種よりもテロワールを重視し、土地の持つ特性をワインに反映させることを第一義に考えます。大戦後、アルザスの生産者達は組合を結成し、高貴品種への切り替えと減反策、新市場の開拓等を積極的に進め、結果としてドイツ的な品種を前面にアピールしつつ、テロワールの概念に基づいたフランス的な栽培・醸造を極めることによって、両国の良い所取りに成功しているように思われます。 |
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赤ワインについて
赤ワインは北ローヌのシラーと、比較のためにブルゴーニュのピノ・ノワールをそれぞれ用意して頂きました。 ローヌの赤ワイン 北のヴィエンヌから南のアヴィニヨンまで、ローヌ河沿いの日照に恵まれたブドウ畑からは、アルコール度の高い、力強い赤ワインが生産されています。北部では花崗岩質土壌の急斜面の畑から、シラーを中心に力強く香り豊かなコート・ロティやエルミタージュなどが、南部では砂質・石灰岩土壌の台地から、グルナッシュを中心になめらかでコクのあるシャトーヌフ・デュ・パプなどが造られます。 特にローヌ北部で中心的な品種となるシラーは、色調が濃く、カシスやプラムのような果実香と、漢方薬のようなスパイス香を合わせ持ち、高いタンニンと豊かなフルーツ感が特徴となっています。一方で独特の土臭さや野性味を持っているので、ボルドーのカベルネ・ソーヴィニヨンやブルゴーニュのピノ・ノワールと比べると、やや洗練さに欠ける印象がありますが、最北部に位置するコート・ロティなどは、熟成によってより繊細で上品な味わい深いワインとなります。なお、オーストラリアではシラーズと呼ばれ、より色が濃く、後味の甘さが際立つワインとなります。 用意して頂いたのは「ヴァン・ド・ヴィエンヌ サン・ジョセフ・ルージュ2003年」。ヴァン・ド・ヴィエンヌは、フランソワ・ヴィラール氏、ピエール・ガイヤール氏、イヴ・キュイユロン氏の優秀な若手醸造家3人が、1996年から始めたネゴシアンです。新樽比率の高い木樽での発酵・熟成を行います。 サン・ジョセフの赤ワインは、コート・ロティやエルミタージュに比べて、どちらかというとかなり野性的で荒っぽいという印象を持っていましたが、今回試飲してみて驚きました。このサン・ジョセフはシラーにありがちな土臭さや酢酸臭が殆ど感じられず、非常に綺麗である意味無駄のないボディを備えていて、爽やかな果実味とスパイシーな香りを楽しめるワインに仕上がっています。一方でリニエのモレ・サン・ドニは、どちらかというと伝統的な製法のためか独特の荒々しさを持っていて、ベリーの香りだけでなくムスクなどの動物的な香りや、ある種の土臭さも感じられました。ブラインドで飲んでみたところ、確かに色合いはサン・ジョセフの方が濃いので、おそらくシラーだろうと見当は付くものの、互いに似たような果実的な味わいとスバイシーさが感じられ、一瞬迷った程です。図らずも、シラーとピノ・ノワールの違いを確認してもらうはずが、両者に共通する味わいを見出す結果となりました。 |
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ブルゴーニュの赤ワイン(参考) 赤ワインの比較の意味で用意して頂いたのは、ローヌのさらに北にあるブルゴーニュのピノ・ノワール、「ジョルジュ・リニエ モレ・サン・ドニ 2002年」。ジョルジュ・リニエは、代々受け継がれてきた伝統的な製法を踏襲し、昔ながらのブルゴーニュを生む生産者です。今時の新技術にはほとんど目もくれず、昔ながらのやり方でワインづくりを行っているそうです。祖父の代から堆肥一筋で、発酵も当然培養酵母などは用いず、野生酵母のみでゆっくりと時間をかけて行います。逆に豊作の年でも収量の削減はしないそうです。 メインはニュージーランド産の骨付きラム。シンプルな味付けで、しかも非常に柔らか。一般的にフランスの赤ワインと肉の組みあわせについては、ボルドーは羊、ブルゴーニュは牛と言われていて、ジェラルド・アシャーなどはその著書の中で、「ラム・ブルギニョンなんて、聞いただけでぞっとする」と書いているほど。しかし近年評価の高まっているニュージーランド・ワインの世界では、ピノ・ノワールとラムの組み合わせが当然のことながら定着しています。その意味ではニュージーランド産のラムが選ばれたのも分かるような気がしますが、なにしろ肉の味がしっかりしているので、今回についてはサン・ジョセフとの組み合わせの方に軍配が上がりそうです。 |
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ワインと料理の相性
ワインと料理の相性については、「魚は白、肉は赤」といった話がまことしやかに語られますが、必ずしもこのように決めつけられない一方で、ある種の法則・原則は確かに存在するように思えます。特に西洋のフルコースでは、一つの皿ごとに食材がソースと絡み合うことにより特定の味にまとめ上げられていて、それぞれに違った味わいのワインを合わせていくというスタイルができあがっていますが、日本では小皿に取り分けられた料理が一度にいくつも並べられ、その中で一つの皿だけを集中的に食べることは行儀の悪いことと見なされているので、食材ごとにタイプの違うお酒を組みあわせるという習慣がありません。このことが、ワインを分かりにくいものにしているようです。 ワインには白と赤、辛口と甘口、軽いものと重いものそれぞれのバリエーションがあるので、なるべくその違いを生かした組み合わせを見つけることが大事だと思われます。特に白ワインを使った料理には白ワイン、赤ワインを使った料理には赤ワインを合わせれば、合わないということはまずありません。白っぽい料理には白、濃い茶褐色をした料理には赤、と考えても良いほどです。特に今回は、白ワインに白身魚のカルパッチョという、色合いから見ても全くぴったりの組みあわせとなりました。 日本酒と違い、ワインは酸を多く含むため、時として注意が必要です。特に生魚や干物などの海産物は、魚介臭の主成分であるアミン類が含まれますが、これらがワインの酸と反応すると、時としてひどく生臭くなることがあります。生の魚介類と合わせるときは、レモン汁(クエン酸)などを加えて酸のレベルを合わせる必要があります。今回出されたカルパッチョにもしっかりレモンが添えられていました 一般的に、フレッシュな白ワインにはリンゴ酸や酒石酸のような、果物系の、冷たい状態で美味しい酸が含まれ、一方熟成した白ワインや赤ワインには、乳酸やコハク酸のように、暖かい状態で美味しい酸が含まれます。乳酸は元々ワイン果汁に含まれているわけではなく、リンゴ酸が発酵・熟成の途中で乳酸菌の作用により乳酸に変わったものです。フレッシュなワインはやや冷やして(6-10℃)、熟成したワインはやや室温(14-18℃)で供するのはそのためです。クエン酸はリンゴ酸同様冷たい状態で美味しい酸なので、食材にレモン汁を加えることにより白ワインとの相性はより良いものとなるわけです。 また、特に赤ワインについては、苦渋味が低温ではより強く感じられるため、濃厚でボディのある、より多くタンニンを含む赤ワインほど、ある程度の温度が必要となります。香りの成分も、温度の低い状態では感じられなくなるので、赤ワインを冷やしすぎるのは考えものです。もっとも、赤ワインは室温で飲むものだからと、フルーティさと軽快さが売りのボジョレーやイタリアの軽い赤ワインなどを冷やさずに飲んでも美味しくはありません。冷涼なヨーロッパと日本ではそもそも室温の基準が違うので。 デザートは今回もやはり「NYX」定番の「クレープ」ではありましたが、前回とは違ってチョコレートソース仕立てになっていて、味の違いが楽しめました。 次回のテーマは南フランスを考えています。フランスにしてもイタリアにしても、どうしてもワインの銘柄は北の地方に偏りがちですが、歴史的に見れば南の地域の方がより豊かな食材と美酒を提供していたのも事実です。近年再評価の高まるラングドックやプロヴァンス、南ローヌなどを中心に選んでみようと思っています。 |
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