第1回目の会

 開催日:2006年5月20日(土)

 場 所:銀座「CLUB−NYX」

 参加人数:10名

 テーマ:ブルゴーニュとボルドー(Brougogne & Bordeaux)

 内 容 ワイン:ブルゴーニュ・白「ドメーヌ・セギュノ・ボルデ・シャブリ2004年」
         ボルドー・白「ジェ・ド・シャトー・ギロー2004年」
         ブルゴーニュ・赤「シルヴァン・カティアール・ヴォーヌ・ロマネ・
                  プルミエ・クリュ・マルコンソール2001年」
         ボルドー・赤「ラローズ・ド・グリュオー1997年」
     食 事:魚介のサラダ
    (ランチ)霧島豚のロースト
         塩バターとキャラメルのクレープ

 Via Vinoの記念すべき第一回の会、なんとか10名の方々に参加していただける運びとなりました。準備万端怠りなく……のつもりだったのに、何としたことか、案内役の宇都宮氏が二日前に風邪をひいてしまうというアクシデント発生。会のキャンセルは何としても避けたいと、むりやり薬で熱を下げていただきました。当日はかろうじて声が出せるかなという状態ではありましたが、がんばって解説をしていただきました。
 ワインは比較がしやすいよう、2種類の白(もしくは赤)ワインを同時に出していただきました。つまり参加者の前にそれぞれ2つのワイングラスがならんだ形での会食となりました。
 さて、会での話のまとめ+いい足りなかったことを宇都宮氏に語っていただきましたので、ご一読ください。
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第1回目のワインについて
はじめに

 イタリアやスペイン、新世界など、今では様々な国のワインが楽しめるようになっていますが、今回の試飲会は、まずはフランス、それも最も代表格であるブルゴーニュとボルドーから始めることにしました。濃厚さとジューシーさが特徴的なカリフォルニアワインも、ボディのあるオーストラリアワインも、上品なニュージーランドワインも、全てこの二大産地のワインを目標に造られているので。
 ブルゴーニュは内陸にあり、石灰質土壌が基本で、全体的にワインは香りが華やかで繊細。ボルドーは海の近くで砂利と粘土が入り交じり、白も赤も重みがあり力強い印象を受けます。このようにことごとく対象的な二つのワインですが、ブルゴーニュはワインの王、ボルドーはワインの女王とされてきました。フランス人の多くはフランスワインの王道はブルゴーニュにあり、と考えているようなのですが、それは多分に歴史的な背景が影響しているのではないかと思っています。

白ワインについて

 白ワインはブルゴーニュの「シャブリ」、ボルドーの「ソーテルヌ地方の辛口」をそれぞれ用意して頂きました。

 「シャブリ」は「ドメーヌ・セギュノ・ボルデ」の2004年物です。シャブリ地区の中でも歴史あるドメーヌのひとつで、1732年より前から、代々家族経営を続けているドメーヌです。品種はシャルドネ、淡い色調、シトラス、青リンゴの香り、ミネラル感、シャープな酸と切れ味が特徴です。

 「ソーテルヌの辛口」は「ジェ・ド・シャトー・ギロー」の2004年物。ソーテルヌは普通、セミヨンを主体にソーヴィニヨン・ブランをブレンドし、甘口の貴腐ワインで知られていますか、これはその辛口バージョン。貴腐菌のつかなかったソーヴィニヨン・ブランを中心に辛口に仕上げています。色合いは濃く、ハーブ系の香り、しっかりした余韻があります。

 一般的に冷涼な気候で造られるワインは単一品種の場合が多くなります。ドイツやアルザスも、リースリングやゲヴルツトラミネールといった単一の品種でワインを造っています。厳しい気候で育つ品種は元々限られており、かつこういった土地ではブドウが時間をかけてじっくりと熟すので、複雑で個性的なアロマが得られるためだと言われています。一方、温暖な気候ではブレンドが中心となります。例えば南フランスの「シャトーヌフ・デュ・パプ」というワインがありますが、全部で13種類の品種の使用が認められています。これは暖かい気候では様々な品種が十分に育つため、一つに絞ることが難しく、逆にブレンドによってワインに複雑味を与えることができるためです。

 さて、今回あえて「シャブリ」というオーソドックスな白ワインを最初に持ってきたのは、このワインの持つ「ミネラル感」に注目して欲しいと考えたから。硬度の高い、エビアンなどのミネラルウォーターに感じられる独特の舌触り。フランスワインには多かれ少なかれこのミネラル感が存在し、これが他の地方、特に新世界ワインと区別するとき最も分かりやすい基準になります。
 ワインの原料となるブドウの原産地は、コーカサス地方、今のグルジアやアゼルバイジャンといった地域であるとされていますが、この土地には多く石灰質土壌が含まれます。石灰質土壌とは、太古のサンゴや貝の死骸が堆積してできた、カルシウムなどを多く含んだ土壌のことで、1億五千万年前、恐竜の生きていたジュラ紀の時代の地層に多く含まれます。そしてこの石灰質土壌は世界の約7パーセントを占めますが、フランスは実に55パーセントが石灰質土壌なのです。アルプス山脈、そしてピレネー山脈の造山活動によって、断層が生まれ、太古の土壌が表に出てきた結果です。
 ヨーロッパ文明の特徴は、何よりもまず石の文明だということ。石で家を造り、道路を造りました。その意味でヨーロッパの人々はいわゆる石の味に敏感です。単にジューシーなワインでは物足りないのです。そのことを頭に入れておくと、ヨーロッパのワインに対するこだわりが見えてくるかと思います。

 白に合わせた料理は魚介のサラダ。シンプルな味付けが、ミネラル感のあるシャルドネと、ふくらみのある酸味を持つソーヴィニヨン・ブランの両方にマッチしていました。

      
シャブリ           ソーテルヌの辛口

赤ワインについて

 赤ワインはブルゴーニュの「ヴォーヌ・ロマネ」、ボルドーの「サンジュリアン」をそれぞれ用意して頂きました。

 ブルゴーニュ、コート・ド・ニュイの「ヴォーヌ・ロマネ」は、かの有名な「ロマネ・コンティ」の畑がある村で、少なくともそこの一級畑は、全てのブルゴーニュ赤ワインの指標となるものであるとされています。今回用意していただいた物もその一級畑、「シルヴァン・カティアール」という造り手の、「ヴォーヌ・ロマネ・プルミエ・クリュ・マルコンソール」2001年物です。「カティアール」はヴォーヌ・ロマネでも著名な造り手で、「マルコンソール」という畑は、あの「ラ・ターシュ」の隣にあります。明るい色調、イチゴやチェリーの香り、しっかりした酸味がピノ・ノワールの特徴ですが、よりフィネス、上品さ、繊細さが求められる品種でもあります。熟成した良質なピノ・ノワールに見られる複雑な香り、動物的なムスク香が若干感じられました。

 ボルドー、オー・メドックのサンジュリアン村の格付け第二級「シャトー・グリュオー・ラローズ」は、ラベルに「王の中の王」と記されたかなりパワフルな赤ワインですが、「ラローズ・ド・グリュオー」はそのセカンド・ラベル。従来、「グリュオー・ラローズ」のセカンドワインは「サルジェ・ド・グリュオー・ラローズ」とされていて、未だに普通の本にはそう記されていますが、この97年からこの「ラローズ・ド・グリュオー」もセカンドワインとして作られるようになり、今ではこちらだけが残っているそうです。グラン・ヴァン(グリュオ・ラローズ)が平均樹齢40年、樽熟成16〜18ヶ月のところ、セカンドワインは平均樹齢15年、樽熟成14ヶ月となっており、グラン・ヴァンよりも早くから飲めます。1997年は8月が暑く、9月に雨が降ったので豊作、品質は安定していて中庸といったところ。元々パワフルなワインなので、この種のものは10年近く置かないと実力を発揮しません。ブドウ畑は、サンジュリアンの南の方の素晴らしい土地にあり、石灰質と泥灰土の下層土壌の上に、砂利と砂があります。水捌けの良い砂利や砂があることによって、皮が厚く晩熟なカベルネ・ソーヴィニヨンはより濃厚になり、本来の力が発揮できるようになります。

 ボルドーは特に熟成によってまろやかになってから楽しむことを前提としているので、少なくとも五大シャトーやソーテルヌは10年我慢することが当たり前だと考えた方が良いでしょう。実際飲んでみると、十年熟成とは思えないほど若々しく、まだ果実味も強く残っていて、ボルドーならではの底力を感じさせました。

 赤に合わせた料理は「霧島豚のロースト」。ヨーロッパではフランスでもイタリアでもスペインでも各地で豚が食べられています。一般的に繊細なブルゴーニュには牛肉が、パワフルなボルドーには羊が合うとされていますが、豚肉ならどちらにも合いますし、実際豚肉はそもそもフルーツとの相性が良く、ヨーロッパでも中国でも果物と一緒に調理されることが多いので、よい組み合わせだと思いました。

      ヴォーヌ・ロマネ       サンジュリアン

歴史的な背景

 さて、何故、力強さと濃厚さを備え生産量も二倍以上のボルドーが女王で、繊細で上品さが売りのなで肩瓶のブルゴーニュが王なのかというと、それはやはり歴史を紐解いて見なくてはなりません。

 ブルゴーニュもボルドーも、古代ローマ時代の終わりには既にワインの主要生産地でした。ブルゴーニュにワインを伝えたのはジュリアス・シーザー、ボルドーに伝えたのはライバルのクラッススとされています。

 ブルゴーニュは百年戦争の頃にはブルゴーニュ公国として栄え、さらにその昔にはブルグンド王国として、「ニーベルングの歌」を始めとする神話を生んでおり、ある意味本家フランスよりも隆盛を誇っていました。バーガンディというイギリスでの呼び名も、このブルグンド王国に由来します。キリスト教が支配的になると、修道院がワイン造りを推進していきます。ブルゴーニュの特級畑もこの修道士達によって、石灰質土壌を多く含む土地が深重に選ばれ、開墾されていきました。シトー派修道院が「クロ・ド・ヴージョ」を建立したのが1108年のことです。

 さて、そんな中、シトー派を興した聖ベルナールが、ブルゴーニュの町ヴェズレーで第二次十字軍の決起を促したのが1146年のこと。これに感化されたフランス王ルイ七世が、十字軍に参加し、同時にそれに付いて行くのを嫌がったエレノアと離婚。ボルドーを領有するアキテーヌ公国のエレノアは、アンジュー伯アンリ・プランタジュネと再婚しますが、このアンリが英国王ヘンリー二世となったために、広大なボルドーの土地はそのまま英国領となりました。ブルゴーニュとボルドーの因縁はまさにこの頃から始まるわけです。この当時、まだフランスという国もイギリスという国もできたばかりで、そもそも国境という意識もなく、親子・親戚で領地争いをしていただけなのですが、結果としてボルドーでは英国式の長子相続が採用され、広大な土地が分割されずに残りました。だからシャトー・ラトゥールはあくまでシャトー・ラトゥールなのです。グリュオー・ラローズの84haの畑のブドウは全てグリュオー・ラローズ一銘柄のために使われます。

 一方、ブルゴーニュはというと、ブルゴーニュ公国はイギリスと結んでパリを押さえていたほどでしたが、結果としてはアルマニャック党と和解して、その後フランス王国に組み込まれていきます。この間、領主であるブルゴーニュ公フィリップは、不味いという理由でピノ・ノワールの三倍の収量が得られるガメイ種の根絶を宣言しています。一族郎党で争っている間も、ワインの品質は無視できない、というわけで、かたやボルドーでは品種の違いなど意識もしていなかった時に、既に領主がこのようなこだわりを持っていたことに驚かされます。しかし、時代が下って、フランス革命と同時に王侯貴族のブドウ畑は没収、ナポレオン法典によって長子相続が廃止されると、ブルゴーニュの畑はさらにバラバラになっていきます。この現象は今日まで続き、結果としてわずが8haのモンラッシェの畑に、10以上の生産者の造るワインが存在することになります。それぞれの生産者は醸造法、清澄・濾過の有無、熟成期間が異るため、同じ畑のワインなのにその仕上がりは千差万別、結果として数倍以上の価格差が生じることになるわけです。だからうかつに「この間飲んだシャンベルタン、美味しかったよ」などと言おうものなら、すかさず「誰の?」と聞き返されるのでご注意を。

 さらに時代が下り、ナポレオン三世の時代になると、パリ万博に合わせてボルドーの格付けが行われました。メドック地区のボルドー赤を、五つの等級に分け、第一級には五大シャトーが君臨します。この格付けは一部を除いて百年以上の間変わっていません。なぜボルドーだけなのか。これはナポレオン三世が長い間英国で亡命生活を送っていたため、イギリスで人気のあったボルドーを贔屓したのだとされていますが、先に述べたように、一つのシャトーに一つの生産者という位置付けを貫くボルドーに対し、一つの畑で生産者ごとに品質の変わるブルゴーニュは一律で格付けできないという背景もあったように思われます。そうでなくても、輸出品として重要なのはイギリスという顧客を持つボルドーであり、海上輸送によって英国へ運ぶルートが既に確立していたことがポイントでした。ちなみに、ボルドーの「オー(eau)」は水を意味し、「水に囲まれた」土地を意味します。交通の便の悪いブルゴーニュのワインは、パリの王室で古くから親しまれていたとは言え、海外どころか国内でも殆ど出回ることはありませんでした。「ワインは旅をさせるな」というのはあくまでブルゴーニュワインのことだと言われます。ボルドーは旅することを前提に造られているのですから。

 なぜボルドー瓶が怒り肩で、ブルゴーニュ瓶がなで肩なのかも、ここから類推できるのではないかと思います。パワフルな超熟型で、輸出と貯蔵を前提としたボルドーの場合、横に寝かせて安定するボトルで保管する必要があります。どうせデカンテーションしてしまうのですから、瓶形の美しさはあまり問われない。それに対し、ブルゴーニュは横に重ねて並べることをあまり意識していませんし、そもそもデカンテーションもあまり一般的に行われません。なで肩の瓶は横に重ねていくとズレ落ちるおそれがありますが、テーブルにそのまま置くなら優美ななで肩の方が良いに決まっています。また、ブルゴーニュに近いシャンパーニュはやはりなで肩ですが、二次発酵後の澱を取るためには怒り肩では都合が悪い。こんなことも影響しているかも知れません。

 ちなみに会のしめくくりのデザートは、お店の定番「塩バターとキャラメルのクレープ」。シンプルながらしっかりしていて、何度食べても飽きない味です。

 次回は、フランスの他の産地、アルザスやロワール、ローヌのワインを選んでみようと思います。

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