第十回目の会 | ||||||||||||||||
開催日時:2007年7月28日(土)12:00〜15:00 場 所:神楽坂「 s . l . o (スロー) 」 参加人数:18名 テーマ:アメリカ(America) |
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内容 ワイン:■オレゴン・白「A to Z オレゴン・シャルドネ2005年」 ■オレゴン・赤「ウィラメット・ヴァレー・ヴィンヤーズ・ピノ・ノワール2005年」 ■カリフォルニア・赤「ベリンジャー・クリア・レイク・ジンファンデル2003年」 ■カリフォルニア・赤「スタッグス・リープ・ナパ・ヴァレー・メルロー2004年」 食 事:【アミューズ】枝豆のキッシュ |
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Via Vino第10回を開催しました。本会としてははじめてニューワールドのワインを楽しむことになりました。 今回は18名の方々に参加いただき、会場のお店を貸切っての開催となりました。また宇都宮氏から、先にアメリカのモントレーで開催された S W E (Society of Wine Educators)総会および表彰式の報告がありました。その様子を撮影したビデオを自身で編集して解説していただき、有意義な会になりました。それでは今回のワインの解説をご一読ください。 |
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第10回目のワインについて | ||||||||||||||||
目 次 | ||||||||||||||||
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はじめに
アメリカは、フランス、イタリア、スペインに次ぐ世界第4位のワイン生産国で、その90%以上はカリフォルニアで作られています。その中で最大の生産地は内陸の温暖なセントラル・ヴァレーですが、太平洋からの冷涼な風の影響を受けるノース・コーストとセントラル・コーストが、高品質なワイン産地として知られています。 |
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当初、「春は霜、秋は雨」で、ワイン栽培には適さないとされたオレゴンは、今では最上のピノ・ノワール産地として知られています。冷涼な海洋性気候で、降雪が少ない一方夏も26℃を超えることがないため、最も涼しいウィラメット・ヴァレーを中心に、カリフォルニアとはスタイルの異なる、アルコールが控えめで酸の高いワインが作られています。 アメリカのワインは、歴史が比較的新しく、ワイナリーの殆どが禁酒法以後20世紀後半になって新しく設立されたものです。従って伝統や規則にとらわれない、自由で開放的な要素を多く持っています。フランスのテロワール至上主義とは対照的に、ブドウ品種の表示が最優先となり、かつその選択はワインの作り手に自由に任されています。また、カリフォルニアやワシントンなどでは、多くの場合収穫期に雨が降らないため、ヴィンテージに左右されることがあまりないとされています。この分かりやすさが、アメリカのワインの最大の特徴かも知れません。 |
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ブドウ品種について
シャルドネは、冷涼なシャンパーニュから温暖なオーストラリアまで、ワイン生産地で栽培していない所がないとまで言われるほど世界中に広まった品種で、その栽培面積はスペインのアイレンに次いで白品種の中で第2位の規模を誇っています。温暖な気候ではトロピカルフルーツ系のボリュームのあるスタイルとなりますが、オレゴンのような冷涼な気候では、シャープな酸を伴う柑橘系の香りのワインとなります。 |
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耐久性が強く適応能力のあるシャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンは、カリフォルニアをはじめとして新世界の多くの土地に根付くことができましたが、栽培が難しく、限られた条件のもとでしか繊細な持ち味を引き出すことができないピノ・ノワールに関しては、ブルゴーニュに匹敵する土地を探すことは不可能と思われてきました。現在では、意欲的な生産者達によって新世界にもピノ・ノワールの畑が広がりつつあります。特にオレゴンは、ブルゴーニュに近い気候で、新世界では珍しく畑に潅漑を行わないこともあって、ミネラル感のある長期熟成が可能なピノ・ノワールを生みだしています。 | ||||||||||||||||
フランス系品種が主流となっているカリフォルニアワインですが、アメリカ独自の品種であるジンファンデルの存在を忘れるわけにはいきません。果皮を除いて発酵させたロゼ・タイプのホワイト・ジンファンデルから、限定された畑で栽培された凝縮力のある古樹のジンファンデルまで、様々なタイプが作られています。以前はとっつきにくく飲みにくい印象の強かった品種ですが、最近では優れた作り手による、澄んだ果実香の中にもどこか野性味を感じさせるような、他の地域では味わえない個性的なワインが入手できるようになりました。 | ||||||||||||||||
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SWE総会報告〜カリフォルニア・モントレー
2006年度の年間受験最高得点者として、本年6月にカリフォルニア・モントレーで行われた米国ワインエデュケーター協会(SWE)の年次総会に招待されました。その模様を10分程度のDVDに収めてきましたので、ワインとお料理が配られている間、それを上映しました。 |
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当紹介したかったのは、アメリカのワインにある独特の自由な雰囲気です。旧世界のワインが、どこか伝統と形式とに縛られがちなのに対し、新世界にはある意味納得するまでいろいろやってみようという積極的な姿勢を感じるのです。それは仕上がったワインにも現れているように思われます。 | ||||||||||||||||
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オレゴンワインのテイスティング
まずオレゴンワインのテイスティングです。シャルドネで造られた「AtoZ2005年」と、ピノ・ノワールで造られた「ウィラメット・ヴァレー・ヴィンヤーズ2005年」です。 |
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ウィラメット・ヴァレー・ヴィンヤーズは1983年に生粋のオレゴン人であるジム・バーナウと妻のキャシーによって設立されました。1994年からはオレゴンで最も大きなピノ・ノワールの生産者となりました。自社畑はAVAウィラメット・ヴァレー内の南/南西向きの斜面に位置し、同社のワインの核を形成しています。収穫量は低く抑えており、ピノ・ノワールは30hl/haに制限しています。鮮やかなルビー色で、チェリー、ベリー、バラの花のアロマがあり、しなやかなタンニンと活き活きとした酸味が印象的な赤ワインです。雑味がなく、どこか一本筋の通った素直な仕上がりは、どこか本家ブルゴーニュに通じるものが感じられました。 合わせる料理は、アナゴと夏野菜のテリーヌ・バルサミコソース。ウナギやアナゴは意外と赤ワインと合うことで知られていますが、バルサミコによる若干の酸味を含ませたソースによって、ピノ・ノワールとの相性がさらに良くなっていました。 |
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アメリカワインの歴史
1560年頃 フロリダ州でアメリカ初の野生種による葡萄栽培始まる |
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1944年 アメリン&ウィンクラー積算温度表の発表 1961年 ハイツ・ワイン・セラーズ創設、国産ワインへの関心高まる 1966年 オレゴン州でピノ・ノワール栽培開始 ロバート・モンダヴィ・ワイナリーの設立 1976年 パリ、インターコンチネンタル・ホテルにてフランス対カリフォルニアの ブラインドテイスティング対決 1位:スタッグス・リープ(赤)、シャトー・モンテリーナ(白) 1978年 AVA法規制定、「ワイン・アドヴォケイト」創刊 |
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1979年 パリにて、ブルゴーニュのロベール・ドルーアンによりピノ・ノワールの ブラインドテイスティング対決 2位:アイリー・ヴィンヤーズ(オレゴン) 1986年 ニューヨークにてフランス対カリフォルニアのテイスティング10周年記念対決 1位:クロ・デュ・ヴァル 2006年 ロンドン及びナパにてフランス対カリフォルニアのテイスティング 30周年記念対決 1位:リッジ・モンテ・ベロ |
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アメリカの歴史は、フランスと密接な関係にあります。アメリカ独立に際して、フランスはアメリカに自由の女神像を送り、ナポレオンは戦費調達のためにルイジアナを中心とする広大な植民地を安い価格で売り渡しました。 一方、ワインの歴史においては、アメリカはフランスに、少なくとも三回、大きな打撃を与えています。その一つ目が、有名なフィロキセラ災害です。 アメリカ全土でのワイン生産は、極端にカリフォルニア州に偏っています。最初にワイン作りを始めたフロリダ州をはじめとして、多くの土地で盛んに葡萄栽培が奨励されましたが、殆どが失敗に終わりました。これはアメリカ原産の害虫フィロキセラによるもので、この虫に対する免疫を持たない欧州産の葡萄は、ことごとく数年で枯れてしまったのです。 |
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このフィロキセラが、船に乗ってヨーロッパに渡ってしまったために、19世紀後半にはヨーロッパ全土で多くの葡萄畑が全滅してしまうことになるのです。フランスでは2/3の生産量が失われ、1/3の畑は永久に元には戻りませんでした。耐性のあるアメリカ産の台木に接ぎ木することによって、何とかこれに対処することができるようになりましたが、その結果、ヨーロッパの原産種は、全てアメリカの台木なしには存続することができなくなってしまいました。 二つ目の打撃が、アル・カポネの暗躍を生んだ禁酒法です。1920年に発令された禁酒法は、アメリカのワイン産業だけでなく、輸出国であるフランスにも大打撃を与えましたが、その法の解除と共に、ワイン産業はカリフォルニアを中心に復活を遂げ、1960年代にはロバート・モンダヴィを始めとする多くのワイナリーが誕生することになります。 |
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そして三つ目の打撃は、パリ・ワイン対決です。1976年にパリで開催された、フランスワインとカリフォルニアワインのブラインドテイスティング対決は、凄まじい反響を呼び起こしました。シャトー・ムートンを始めとするボルドー、ブルゴーニュの特級クラスを押さえて、白ワインではシャトー・モンテリーナ、赤ワインではスタッグス・リープと、共にカリフォルニアワインが第1位となったのです。 | ||||||||||||||||
神聖視されていたフランスワインを上回るものを、新世界で作ることができる……結果として両国の生産者に、品質をより追及していく必要性を痛感させることになり、これ以降多くのフランスの大手企業がアメリカの生産者と手を結ぶことになります。シャトー・ムートン・ロートシルトのバロン・フィリップはロバート・モンダヴィと手を組んで「オーパ・ワン」を立ち上げ、シャトー・ペトリュスのムエックスは、ナパヌック・ヴィニャードと組んで「ドミナス」を立ち上げました。一方でこれはまさに、ワインが生産地という固定観念から引き離され、得点と順位付けで評価される時代の始まりでもありました。 | ||||||||||||||||
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カリフォルニアワインのテイスティング
次にオレゴンワインのテイスティングです。ジンファンデルで造られた「ベリンジャー・クリア・レイク2003年」と、メルローで造られた「スタッグス・リープ・ナパ・ヴァレー2004年」です。 |
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スタッグス・リープ・ワイン・セラーズは、「ワイン屋の息子」という意味のポーランド語の名を持つウォーレン・ウィニアスキー氏が、1964年に一家揃ってカリフォルニアに移住し、1972年に設立したワイナリーです。1976年、パリのブラインドテイスティング対決において、シャトー・ムートン・ロートシルト1970を見事におさえて一位に輝いたのが、たった樹齢3年のカベルネから作られたスタッグス・リープ・ワイン・セラーズ・カベルネ・ソーヴィニヨン1973です。これにより、設立間もないワイナリーはアメリカを代表するワインメーカーとなりました。 | ||||||||||||||||
カベルネを主体とするしっかりとした味わいの赤ワインで知られていますが、一部メルローも造っています。「ナパ・ヴァレー・メルロー2004年」には、約9%のカベルネ・ソーヴィニヨンが加えられており、フレンチ・オークで16ヶ月の熟成を経て、非常にまろやかで親しみやすいワインとなっています。濃い赤紫色で、ラズベリー、チェリー、プラム、クランベリー、スターアニスなどの香りがあります。しっかりしたタンニンとバランスの取れた酸があり、ソフトな味わいながら、ミディアムボディで余韻が長く感じられました。 合わせるのはポルチーニ・マッシュルームのタリアテッレと、豚肩肉のロースト・緑胡椒ソース。どちらも濃厚な味わいの赤ワインとの相性が良く、楽しめました。 |
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ロバート・パーカーについて
1970年代のボルドーワインは、いくつか作柄の悪い年があったにも関わらず、アメリカでの価格は吊り上がり、消費量は増加する一方でした。多くのワインライター達が、それに対して警鐘を鳴らしていましたが、まさしくその頃に、1976年のパリでのブラインドテイスティングの結果が、業界を大きく揺るがすことになったのです。弁護士だったロバート・パーカーが、「ワイン・アドヴォケイト(ワインの擁護者)」という名のニュースレターを始めたのは丁度その頃でした。 |
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1982年産ボルドーの真価を高らかに訴え、ローヌのワインを再発見したロバート・パーカーは、世界で最も影響力のあるワイン評論家となりました。無名のワイナリーを破産から救う一方で、評判を落とされたメーカーからは訴訟を起こされるなど、その影響力は常に二面性を抱えています。特に、あまりにも分かりやすくかつ一面的な採点表は、本来補足的な意味合いである筈が、流通業界の中で独り歩きを始め、多くの識者から非難を受ける結果となっています。 | ||||||||||||||||
「おとなというものは、数字が好きです。おとなの人は、かんじんかなめのことは聞きません」(サン・テグジュペリ「星の王子さま」)味覚に対する客観的な判断なしには、品質の高い物を作ることはできません。しかし一方で、私達の回りにある、私達にとって大切なものは、数値化してそれで終わるというものではないはずです。1本のワインが作られた土地に思いを馳せ、食事と共に味わい、多くの人と語り合うことによって、一杯のグラスの味は何倍にも変わっていくものではないでしょうか。 | ||||||||||||||||
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おわりに
このワイン会では、フランスからカリフォルニアまで、単にワインの銘柄説明だけでなく、その国の歴史について色々と説明してきました。やはりワインというものは、その歴史的背景を知ることによって、断然魅力が増すものだと考えています。 |
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〈参考文献〉 ジョージ・M・テイバー「パリスの審判」日経BP社 堀賢一「ワインの個性」SoftBankCreative エリン・マッコイ「ワインのロバート・パーカー」白水社 ジェラルド・アシャー「世界一優雅なワイン選び」集英社文庫 飯山ユリ「ジンファンデル」小学館スクエア 「カリフォルニアワイン」Ohta Publications |
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