『―――誘惑?―――』



きっかけは一通の手紙だった。


ある日、花梨宛に届いた手紙。それを、花梨は何度も何度も読み返した。
差出人の名前の無い、悪意のある内容。

あなたのような子供は、頼忠には似合わない。
大人の女性を多く相手してきたから、子供が新鮮なだけ。
どうせすぐに飽きて捨てられるわ。

頼忠に振られた女性からの、嫌がらせの手紙。
そういう内容の手紙は何度も届いているから、今更動揺なんてしない。
こっそり浮気を楽しむような人ではないし、女性だって相手してもらえていたら嫌がらせなんてしないだろうから。
だから、一瞬だって頼忠の心を疑った事は無い。
疑った事は無いけれども、花梨が子供だから我慢しているだろう事は想像出来る。
「もう一年以上経つんだよね・・・・・・・・・。」
あの京で出会って、この世界に一緒に戻って来たのは九月。
恋人となってから一年以上経つが、まだキス以上の事はしていない。
だけれど。
26歳の精神的にも身体的にも健康な大人の男性が、それだけで我慢しているのは辛いのではないか、と友人達も言うし、私もそう思う。
元々、15歳程度で結婚して、一夫多妻制で浮気し放題の自由な環境下で育った頼忠が、私一人だけを見つめてくれているのは贅沢な幸せなのだ。
それ以上の行為をしたいと言葉では一度も言った事は無いけど、抱き締める腕の強さとか激しいキスとか熱のこもった視線で伝わって来る。
だけど、怖がる私を追い詰めないように何時も逃げ道を作ってくれていた。
何時も広くて温かい心で優しく包み込んでくれる頼忠・・・・・・・・・。
正直、今でも怖いと思うけど・・・・・・でもそれって、知らない世界に飛び込む時は何時も思うし・・・・・・・・・初めてって誰もが経験する事だし・・・・・・・・・。
「あれ?私ったら何を考えているの?」心臓が早鐘を打ち、息苦しい。「もしかして・・・思って、いる・・・・・・・・・?」
今まで握り締めていた手紙を投げ出し、熱を持ち始めた頬を両手で覆った――――――。



数日後、花梨は学校帰りに頼忠のアパートに来ていた。

今日は平日だから、頼忠はまだ当分帰って来ない。
静かな寝室に入ると花梨は一人ため息をつきながら、ベッドに座って枕を抱き締めた。
頼忠を誘惑しようと色々と努力をしてはみたものの。
化粧をしてみたけれど、幼い顔には似合わない。
大人っぽいセクシーな服を着たけれど、子供っぽい体型が強調されただけ。
香水を探したけれど、店員さんには石鹸の香りとか子供用を勧められてしまう。
やっぱり私には早すぎるのかなぁ・・・と呟きながら、花梨は鞄から紙袋を出した。
全て断念した後、友人に泣きついたらプレゼントしてくれた物。レースのフリルがいっぱいの可愛い下着。けっこう透けているけど、いやらしくは見えない。
「これを着て迫れって?」
手に取り、しげしげと眺める。
でも、下着姿をどうやって見せるの?いきなり服を脱ぎ出したら驚くよね?それよりも、友達の事とか映画とかの話をしていて服を脱ぐ雰囲気にはならないよ。
「やっぱりこれも駄目か・・・・・・。」ため息を付きながら、下着を仕舞う。

でも。
あれ、可愛かったな。
着てみたい、よね。
紙袋を睨み付けながら、たっぷり10分間は悩み続ける。
時計を見ると、今はまだ5時少し前。2時間以上頼忠は帰って来ない。
だったら。
「着てみよう、かな?ご飯作るにもまだ早すぎるし。」
再び下着を取り出すと、着替える。そして、洋服ダンスの鏡の前でクルクルと回って姿を確かめると。
「やっぱり可愛いけど・・・ちょっと布地が小さいな・・・・・・。」
肌も透けて見えるし、恥ずかしい。
でも、そんな事より。
手で胸のあたりを覆うと、ふくらみはほとんど隠れてしまった。
「・・・・・・・・・胸、ちっちゃい。」
痩せ過ぎの身体を改めて確認しなくたって嫌だって言うほど知っている。だけど、いつまで経っても開き直る事も出来ず、気分が落ち込んでくる。
ベッドにポスンと倒れ込むと、布団に顔を埋めた。

「こんなつまらない身体で迫っても、頼忠さんを困らせるだけだよね。」
だったら、もう少し大人の女性の身体になるように努力しなきゃ。
確か・・・胸を大きくする体操ってあったよなぁ。うん、今日から毎日やろう。
レバーを沢山食べたら胸が大きくなったって、グラビアアイドルの女の人が言っていたような気がする。レバーの刺身は無理だけど、レバニラ炒めなら我慢すれば食べられる。よし、お母さんに頼んで作ってもらおう。
太ると胸も大きくなるって言うから、2kg位太ろうかな?でも、それで脂肪はついたけど胸は変化なしだったら嫌だなぁ・・・。

いろいろ考えていたが、ふと今の自分の状態を思い出した。
男性のベッドの上で、セクシー系の下着一枚の姿で胸を大きくする方法を考えている女の子・・・・・・。
何をやっているんだか。やっぱり私ってば子供だ。
ふっと笑みを零しながら顔を上げた花梨は、呆然と立ち尽くしている頼忠と目が合った。
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
頼忠は、何時もより少し早く仕事が終わっただけだ。だから、普段よりも早い時刻に帰れたのだ。
だが、帰宅すると自分のベッドの上に恋人の悩ましい姿を発見して頭の中は真っ白になっていた。

「キャーーーっっ!」花梨は両腕で胸を隠しながら叫んだ。「何で頼忠さんがいるのっっ!?」

花梨の悲鳴を聞いて、やっと我に返った。
「ここは私の部屋ですが。」
そりゃそうだ。そんな事は始めから解っている。
「そうじゃなくて!今日に限ってどうしてこんなに早く帰って来たんですかっ!?」
「貴女は私に逢う為に来られたのではないのですか?」大股で花梨に近付いた。
確かにその為にここに来たのだ。
「そうですけど・・・・・・。」身体を覆い隠す物はないか、必死で探すが。
「貴女が私を誘惑するとは思ってもいませんでした。」花梨の腕を掴むと、強引に広げる。「嬉しいですよ。」
「違う!違うのっ!!」熱い視線に晒されて、恥ずかしさで全身真っ赤になってしまう。「そうじゃなくて―――。」
「違うのですか?」花梨に触れるほど近くに座ると、耳元で囁いた。「このようなお姿なのに?」
「っ!」熱い吐息がかかって、花梨はぴくりと反応してしまう。
「えっとぉ。あのぉ・・・。そう、あのね、話を聞いて?」何とかして逃げようと必死になるが。
「睦言でしたらいくらでも・・・・・・。」頼忠は、花梨の首筋に顔を埋めてしまう。
「ひゃうっ!」思わず悲鳴に似た声を上げてしまう。「落ち着いて!ねぇ、冷静になって?お願いだから!」半分泣きながら頼むが。
「無理です。」怖いぐらい熱っぽい瞳できっぱりと言う。「貴女がご卒業されるまでお持ちするつもりでしたが。」腕から手を離し、今度は華奢な腰に腕を回して抱き締める。「もう理性を保つ事など出来ません。」
頼忠はそう言うと、今までとは比べように無いほど激しく少女の唇を貪り始めた――――――。


そして。
理性を無くした頼忠の情熱を受け止めた花梨は、大人の関係と言うものが身体だけでなく心も繋ぐ事だと知った。
それと同時に、ヒジョ―――に体力を消耗する事だとも。

その日。
花梨は生まれて初めての外泊をも経験したのだった――――――。



後日談。

花梨の悩みを知った頼忠。
「私は全く気になりませんが。」
「女の子にとっては重大問題なんです。」
「そうなのですか?」
「そうなんです。」
「それでしたら、協力致します。」
「どうやって?」
「刺激を与えると大きくなると聞いた事があります。」
「刺激?」
「はい、刺激です。」にっこり楽しげに微笑んだ。

さて。
花梨の悩みとは何か。
頼忠がどのような協力をしたのか。
効果はどの程度あったのか。
協力した頼忠の笑顔と花梨の真っ赤で複雑そうな表情だけで判断をしよう――――――。






注意・・・「色っぽくお強請りする花梨ちゃん」

「花梨が頼忠にしたお強請りとは何か、考えて!」と言われたので、はい、考えてみました。
おや?どこが色っぽくお強請りしているのだ?
で。
これ、表に置いても大丈夫、だよ、ね・・・?

2004/09/17 17:13:16 BY銀竜草

こんな妄想をさせた「色っぽい花梨ちゃん」の絵は綾(くろい)様のサイトにあります。
隠してあるので、18歳以上の精神的にも大人のお嬢さんはお探し下さい。
探す価値有りますっ!

2004/09/21 14:43:00 BY銀竜草