『―――妄想―――』



花梨はポケ〜とテレビのニュース番組を見ていた。
何も考えては居なかったのだが、特集が始まった途端、画面に釘付けとなった。

「女性の間で、今、大人気のお店です。」リポーターの女性が嬉しそうに店の中を紹介している。「かなり若い女性の姿も見えます。」
薄暗い店内、妖しげな照明、がんがん鳴る音楽、異様に盛り上がる女性客。そして、舞台では全裸に近い状態の男性が踊っていた。男性ストリップ劇場―――花梨の知らない世界がそこにはあった。
「・・・・・・・・・うわぁ。」

「花梨。何をそんな熱心にご覧になっているのですか?」
頼忠がコーヒーを煎れて戻り、話し掛けたのだが。
「・・・・・・・・・。」
花梨の耳に頼忠の声は入らない。
「だんせい、すとりっぷ???」リポーターの説明を聞いて理解したのだが。『こんなのに興味がおありなのか?男の裸が?』当然、面白くない。「・・・・・・・・・。」

特集がやっと終わり、花梨はため息を付いて現実世界に帰ってきた。
「凄いなぁ。あんな店があるんだぁ・・・・・・。」
「花梨。」
「うん?なあに?」
「興味が御ありですか?」
「・・・・・・無くは無いけど。」そう言って、頼忠の顔をまじまじと見つめる。『頼忠さんだと・・・・・・?』
「花梨?」
何か嫌な予感。
「・・・・・・・・・(じぃぃぃぃぃぃぃ)。」
「・・・・・・・・・。」
何を考えておられるのだろう?
「・・・・・・・・・(妄想中妄想中妄想中)。」
「・・・・・・・・・。」
背中に冷たい汗が流れる。
「駄目だ。」がっかりしたような声で呟いた。「頼忠さんには似合わない。」
「はっ?」
「うん。諦めよう。」
「・・・・・・・・・。」
貴女はもしかして、私のあんな姿を想像したのですか?
「あっ、コーヒー、ありがとう!いただきま〜〜〜す♪」さっさと気持ちを入れ替えた花梨、嬉しそうにマグカップを手に取った。「良い香り〜〜〜。」
「・・・・・・・・・。」
恋人の考える事が理解出来ない時がある。時々ではなくて、よくある。だが、今日は助かったようだ。ほっと胸を撫で下ろした頼忠ではあったが。

『そう言えば・・・深夜番組で紹介していた店があったな。』興味が無くてすぐにチャンネルを回してしまったが。『これと似た店だった。踊っているのは女性だったが。』にこにことコーヒーをすする恋人を盗み見る。『あそこまで大胆で挑発的な踊りは似合わないだろうが・・・・・・・・・。』
「頼忠さん?」
何時の間にか、まじまじと花梨の顔を見つめながら考え事をしている。
「・・・・・・・・・(じぃぃぃぃぃぃぃ)」。
「・・・・・・・・・。」
何を考えているんだろう?
「・・・・・・・・・(妄想中妄想中妄想中)。」
「・・・・・・・・・。」
何か・・・凄く嫌な予感がする。
「控え目にだったら可愛いかも。」
にっこり。
「はい?」
「あぁ、でも今の花梨には無理、か。」明るい所では未だに肌を見せる事の出来ない恥ずかしがり屋の花梨では。「残念だ。」
「・・・・・・・・・。」
尋ねない方が自分の為かも。
「楽しみは取って置くか。」ふむふむと一人頷いている。『逃げられないように策略を練ってからでも遅くは無い、と・・・・・・・・・。』
「・・・・・・・・・。」
頼忠はこの世界に馴染むに連れて、余計な知識まで身に付けている。花梨の想像も出来ないような発想をする事もあり、提案する事もあり。恋人の考える事が理解出来ない時がある。時々ではなくて、よくある。この世界を楽しんでいるのが解り、喜ぶところだけれども。
『頼忠さんの事で、私が知らなくても良い事がある。』
少しは学んでいるのだ――――――色んな事を経験したお蔭で。
「そう言えば、頼忠さんが観たいと言っていた映画のDVDを見つけたので借りて来たんです。今から観ませんか?」
頭の中を切り替え、鞄からDVDを取り出して尋ねる。
「あぁ、ありがとう御座います。」花梨から受け取り、DVDデッキにセットする。「では、観ましょう。」



さて。
頼忠が密かに抱いた妄想を実際に見られる日が来るのかは・・・・・・策略を思い付いたかどうかによる。―――花梨、危うしっ!






注意・・・現代ED。

またもや怪しい頼忠の出来上がりっ!・・・・・・花梨ちゃん、御免なさい(涙涙涙)。

海外にはあるようですが、日本に『男性ストリップ劇場』があるのかどうか、私は知りません。つまり、行った事はありません。―――念の為、言っておきますが。

2005/02/15 14:36:35 BY銀竜草

掲示板から再掲。
前編・後編を合わせました。

2006/01/16 BY銀竜草