『―――子供っぽい恋人―――』



仕事で遅くなり真夜中に帰宅した頼忠は、花梨が自分を待たずに眠っているのに気付き、ホッと胸を撫で下ろした。
「一人で眠るのには、このベッドは広すぎて寂しいんです。」
そう言って、今までどんなに帰宅が遅くなろうと起きていたのだが、今日初めて先に寝てくれた。笑顔の出迎えがないのは寂しいが、寝不足で体調を崩されるよりはマシだ。

だが、ベッドで眠る愛しい恋人の姿を見て呆然と立ち尽くす。
楽しい夢を見ているのか、笑みを浮かべているのだが。
「抱き締める存在があると、安心して眠れるんです。」
そう言って、自分に抱き付いて眠る習慣ではあったが。
花梨は今、大きなくまのぬいぐるみを抱き締めているのだ。そして、そのくまは頼忠のパジャマを着ている。
「・・・・・・・・・・・・。」
花梨が自分以外のものを抱き締めるのは、それが例えぬいぐるみであろうと不愉快だ。
だが、頼忠のパジャマを着させたと言う事は、このくまは己の代わり。この抱き締める存在を思いついたから、先に眠ったのだろう。もし止めるように言えば、再びどんなに遅くなろうと先に眠る事はしなくなるだろう。
「全く貴女と言う人は・・・・・・・・・。」
頼忠の心を揺さぶる、唯一の存在。愛しくて憎らしい、幼さの残る恋人。

恋人の腕から無理矢理取り上げると、それを睨みつける。
「お前なんかに花梨は渡さない。」宣戦布告をして、遠くへ放り投げる。
そして、隣に横になると恋人を腕の中に閉じ込める。
「貴女が抱き付くのは私だけにして下さい。」


朝。
花梨は部屋の隅に転がっているくまを発見し、抱き上げた。
そして、ぬいぐるみにヤキモチを焼く、意外と子供っぽいところのある年上の恋人を思い、大きなため息をついた・・・・・・。






頼忠が『子供っぽい恋人』でした。・・・何をしているんだか。

2004/07/27 15:25:25 BY銀竜草

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2005/03/01 23:51:13