『―――メロン―――』



「源さ〜〜〜ん。お茶ぁ、どうぞぉ♪」
某会社では、最近、一つの黄色い声が一人の男に纏わり付いていた。
「あ。ありがとう御座います。」
その度に、生真面目な声が礼儀正しく答える。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
その周りでは、冷たい空気が流れている。
「源さ〜ん。これぇ、解らないので教えて下さぁ〜〜〜い。」
「何処でしょうか?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」

「美和ったら、今度は源さんを狙っているのね。」
「何よ、あの甘えた声に媚びた眼。気持ち悪いったらありゃしないわ。」
「ほんとほんと!」
頷く同僚の女三人。本当は自分だってその男に心を奪われているのだが、あからさまな態度は見っとも無いとの思いから、ただ遠くから眺める事しか出来ない。



「あっ!」
美和と言う名前の女が、ばさばさと書類を落とす。
「大丈夫ですか?」側に居た頼忠、しゃがみ込むと落ちている紙を拾い集める。「これが最後のようですね。」
「御免なさぁ〜〜〜い。」
「何処にお持ちするのですか?重いでしょうからお運び致します。」
「え〜〜〜?ありがとう御座いますぅ〜〜〜♪」
上目遣いでにっこり微笑む女に、頼忠、生真面目な瞳で見返した。

「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
不愉快そうに顔を見合わせる。
「わざとらしい。」
「源さんが側に居るからわざと落としたクセに。何を言っているんだか。」
「重いって?そんなか弱い女かって、あの女が。」



そんなある日。
「おい。今日は会社の前の道路が工事で通行止めになるから、残業はするな。」上司が叫ぶ。「さっさと帰れよ!」
一人の女がチャンス到来と顔を上げた。
「源さん。」美和が思い悩んでいるような顔を作って話し掛けた。「ちょっと相談したい事があるんですけどぉ、今夜ぁ、時間良いですかぁ?」
「相談、ですか?」頼忠は驚き、振り向いて美和を見上げた。「同僚の女性か上司の方に相談した方が宜しいのではありませんか?私では適切な助言は出来ないと思いますが。」
「えぇ。話を〜聞いてくれるだけでもぉ、良いんですぅ。」小首を傾げ、するりとジャケットを脱いだ。「ね?お願いしますぅ。」
座った男が見上げれば、自慢の胸が丁度良い角度で眼に飛び込む。

『出た〜〜〜!』周りに居た女が眉を顰めながら隣の女に小声で話し掛けた。『必殺、巨大メロン攻撃!』

「・・・・・・・・・。」
頼忠、困ったように眉間に皺を寄せた。
「・・・・・・・・・。」思っていたような返事が返ってこない為、更なる攻撃を仕掛ける。「お願いしますぅ。」
そう言うとぴょこんと頭を下げ、ボタンを二個外した胸元から谷間とその奥を頼忠の眼の前に晒した。たわわに実った巨大メロンのような胸を揺らしながら。―――ここまでやって拒絶した男はいない。涎を垂らして付いて来る筈だ。―――心の奥底で勝ち誇った気分でほくそ笑む。

『あのメロンに男どもは弱いんだよねぇ。』
『あの女の本性には気付かないんだから、男って馬鹿だよねぇ。』
憎々しげに、だが、ちょっぴり羨ましそうにその豊満な身体を睨む。だが、一人が首を傾げた。
『ねぇ。源さん、メロンには眼が行っていないようだけど?』
『え?』
『あれ?』

「・・・・・・・・・。」横を向いて考えていた頼忠、返事をしようと向き直って口を開いた。「しか―――。」
と、その時。
ぴろろろ〜〜〜ん♪
頼忠の携帯電話が鳴り響いた。何時もとは違う、可愛らしい曲が。
申し訳ない、と小声で言うと後ろを向いて電話を受ける。
「花梨。どうなさったのですか?」優しい声で話す。「はい。この後の予定は何もありませんが。―――はい。」
「・・・・・・・・・。」
水を注された女、頼忠が後ろを向いているのを良い事に盛大に顔を顰めた。

『かりん?』
『誰?花梨って?』
『さぁ?でも・・・・・・。』
この声音だと・・・・・・もしかして、もしかする?

「―――はい。あの、私がお邪魔しても宜しいのですか?」

『・・・・・・っ!』
『うわっ!』
『ねぇ!』
普段無表情の頼忠の顔が少しずつ柔らかく変化していくのを、周りの女達、驚いて見つめてしまう。そして、見惚れる。
『格好良〜〜〜い!』
『わぁ・・・・・・・・・・・・。』
『どっひゃあ・・・・・・。』

「そうですか。では、これからお伺い致します。宜しくお伝え下さい。」嬉しそうに言うと、ぷちっと電話を切った。「確か、ご両親共にワインに嵌っておられると仰っていたから、お土産にお持ちするか。」ぶつぶつと独り事を言いながら、テキパキと机の上を片付け始める。「いや、私にはワインの事は全くと言って良いほど解らない。」一瞬手が止まる。が、すぐに動き出す。「母上殿は花梨と同じく果物がお好きだとか。だったら、花梨もご一緒に食する事の出来る果物の方が宜しいか・・・・・・?」
「・・・・・・・・・。」
完全に存在を忘れられた女、次第に青冷めていく。
「では、先に失礼させて頂く。」椅子から立ち上がると、足早にドアに近付いた。が。「あっ。」思い出したように振り返った。「急用が出来たので、今日は申し訳ない。」
美和に声を掛けた。
「あの、源さん!」周りの女の一人が慌てて話し掛けた。「花梨さんって恋人ですか?」
「・・・・・・・・・。」返事はしなかったが、ほんのりと頬に朱が差して優しく煌く瞳が電話の相手との関係を教えた。「・・・・・・では。」
しかし、ドアノブに手をやるとそのまま止まり、振り返って再びチラリと美和に視線を送る。そして、名案を思い付いたとばかりに嬉しそうに呟いた。
「花梨はメロンを一番好んでおられたな。うん、それにしよう。」

頼忠が立ち去った室の中。
「な〜〜〜んだ、恋人がいるんじゃん!」
「ベタ惚れなんだねぇ♪」
「別人みたいだったねぇ!」
三人の女が涙を流しながら大笑いしている。
「花梨はメロンを一番好んでおられたな。うん、それにしよう。」
一人が頼忠の口調を真似る。
「やだぁ!メロンだってさ、お土産は♪」
「きゃはははっ!く、苦しいぃぃぃぃ。」
横目で立ち尽くしている女を見、そして更に転げ回って笑う。そしてその肝心な女は。
「・・・・・・・・・冗談でしょう?」
惨めな姿を人目に晒していた――――――。






注意・・・頼忠×花梨。現代ED。

少し前、テレビによく出ていましたねぇ。うるうる瞳と甘えた口調で男に媚びるのを売り物にした女性タレントが。
だからと言って、女性らしい女性を妬んでいるのでも喧嘩を売っているのでもありません。誤解無いように、念の為。

2005/11/25 19:46:31 BY銀竜草

UPしても良いのかと迷った内容。
しばらくここに置いておきますが、期間限定として下げるか『ハテナの部屋』に再掲するかは、その時の気分次第で。

2006/04/22 23:47:27 BY銀竜草

まぁ大丈夫そうなので、『ハテナの部屋』にて正式にUP。

2006年8月1日 14:21:19 BY銀竜草