『残された者達』 |
花梨と縁の深い者達だけで旅立ちを見送る。 八葉の仲間と星の一族の二人、そして、黒龍の神子である千歳。 「今までありがとう!みんな、元気でねっ!」 左腕を頼忠の腕を絡ませた花梨は、右手を大きく振っていた。泣いているが無理に笑顔を見せている。 頼忠と幸鷹の二人は花梨を守るように立っていた。特に頼忠は、緊張しているが花梨の傍にこれからもいられる喜びで満面の笑みを浮かべながら。 「姫君、幸せになりなさい!」 「頼忠、花梨を泣かすんじゃないぞ!」 「幸鷹殿、二人をお頼みします!」 「花梨、後の事は任せとけ!」 「花梨さんを頼みます!」 「神子、こちらの事は問題無い。」 「神子様、お元気で!」 「神子、感謝する!」 「花梨、ありがとう!」 「あ〜あ、行ってしまったな。」花梨の姿が完全に見えなくなったところで、勝真がぽつりと呟いた。「もう少し時間があると思っていたのに。慌しかったな。」 「ゆっくりお話する時間が無かったのは残念だったわ。」 千歳も寂しそうに言う。 「これも貴族達が煩いせいだ。帰るって言っているんだから、放っておいてくれたって良いじゃないか!」イサトは悔しそうに叫んだ。 「御免なさい・・・。」 「申し訳ありません。」 東宮である彰紋、貴族の泉水は謝るが、二人に責任が無い事は全員が解っている。 「龍神の神子」をこの京に引き止めようと、大騒ぎになってしまっていたのだ。 帝や院は、彰紋、泉水、幸鷹が説明をしたので理解してくれたのだが、周りの貴族達は権力を得る為に利用しようと考えたのだ。 貴族の地位や財産などをあげれば喜んで残るだろうと考える者や、既成事実を作って結婚を企む者まで出ていた。 「身分も財産も興味は無いと、何度言えば解るのだろうね。」翡翠も呆れる。「想いを交わした相手がいると言っているのに邪魔をしようとは、何とも無粋な輩だ。」 京滅亡の危機に怯えながらも権力争いに明け暮れていた貴族達にとって、身分の高い貴族の求婚を蹴って武士を選ぶ事など理解出来る筈も無い。 せっかく偏った気の流れを正常に戻したのに、神子の存在が新たな争いの火種となりそうで。花梨の体調が戻ると同時に、帰る事にしたのだ。 まぁ、理由が無ければ何時まで経っても名残惜しくて旅立ち出来そうも無かったから、良い口実にはなったが。 「幸鷹殿が羨ましいと思いませんか?恋人にはなれなくても、ずっと花梨さんの傍にいられるなんて。」 「そうでしょうか?お傍にいられても、御心を得られないと解っているのですから辛いと思いますよ?他の男と幸せになっているのを見続けるのは。」 彰紋のその言葉に泉水が寂しそうに答えると、翡翠がクスリと笑った。 「どうしたのです?」彰紋が不思議そうに翡翠を見つめる。 「あの男の故郷が姫君と同じ世界だとしても、それだけでこちらの世界の責任を放り出して帰るような無責任な人間ではないだろうに。」 「え?どういう事でしょうか?」 「姫君と苦労を共にした仲間だ。姫君は信頼しているし、これからも相談したりして頼る事も多いのだろうね。そう簡単には縁は切れないよ?」 「まさ、か・・・・・・?」 「そういう事だ。諦めの悪い男だからねぇ、幸鷹殿は。」 『『『『『うわぁ・・・・・・。』』』』』 頼忠にちょっとだけ同情をする。 「だったら初めから頼忠が向こうの世界に行きたいと思わせなけりゃ良かったじゃん?わざわざ仕向ける事なんか。」 「お前は元気を無くした花梨を放っておけたか?」 イサトの疑問に、幸鷹の気持ちを理解した勝真が逆に質問をする。 「・・・・・・出来ねぇ。」 「だろう?花梨に幸せになって欲しいのは幸鷹殿も同じだよ。幸せに出来るのが頼忠だけならあいつに任せるしかない。だが、そこまで機会を与えて駄目なら指くわえている必要なんて無いさ。」 「頼忠が寂しい思いをさせたりしたら、その心の隙間に入り込もうって魂胆ですか。ですが、花梨さん以外に興味の無い男ですから、その可能性は低いのではないでしょうか?」 「そりゃそうだが、永遠に別れるよりはあるだろう?」 「どちらを応援します?」彰紋が空を見上げて、イサトに尋ねた。 「う〜〜〜ん?花梨さえ幸せなら相手が二人以外でも構わないぜ、俺は。」 イサトのその答えに、全員が大きく頷いた。 「「「「「そりゃそうだな!」」」」」 「そうですわね。」 「うむ。」 「そうね。」 これでやっと全て終わったぁ・・・・・・。蛇足のもう一つのエンディングです。 残された者達にとっての本音の願いとは「花梨が幸せになる事」であって、決して「花梨が男の誰かと二人で幸せになる事」ではありません。 そんなものです。 仲間として友人として、頼忠と幸鷹には個人的に幸せになって欲しいですが。 こんな所にまで眼を通して頂き、真に有難う御座います。 御礼創作とは言えませんが、この話に苦笑いして頂ければ幸いです。 2004/10/18 02:16:44 BY銀竜草 |
※ブラウザを閉じてお戻り下さいませ。