『―――誓願を叶える者―――』



「お散歩お散歩楽しいな〜〜〜♪」
花梨は歌いながら歩いていた。目的地はお気に入りの場所、可愛いコマネズミ、大豊神社。



コマネズミに近付いた花梨は、一人の男が熱心に祈っているのに気付いた。
「あれ?あれは・・・・・・頼忠さん?」
花梨がじっと見つめていると、頼忠は人の気配を感じて振り返った。
「神子殿!?」さっと顔色が変わった。「また屋敷を抜け出しましたね。お一人で出歩くなどきけ―――。」
「うわっ。」お説教だ。話を変えなきゃ!「頼忠さん。お参りですか?」
「はい。」問い掛けられれば答える。―――悲しい従者の性(さが)。「誓願したい事がありましたので、こちらに寄りました。」
「誓願?神様に願う事があるんですか?」
驚いて尋ねる。八葉としての役目があった頃は、願う事など何も無いと言っていた頼忠さんに?それはとても嬉しい。夢や目標が出来たという事だろうから。生きたいと思っているからだろうから。
「はい。誓願とは、自分が行おうとする事を神仏に誓い、その成就を願う事です。」うっすらと笑みが浮かぶ。「この頼忠、必ずや己の誓いを果たします。」
「頼忠さんの願いが叶うように、私も応援しますね♪」
頼忠の生き生きとした表情を見られたのは初めてで、とても嬉しい。微笑みが花梨にも移り、笑顔でそう言うと。
「応援、と言いますと。」何処と無く妖しげな微笑みに変わる。「もしかして、この頼忠の願いを、神子殿は叶えて下さるおつもりなのでしょうか?」
「え?私が、頼忠さんの願いを叶えられるの?」
「・・・・・・・・・。」
微笑みが深くなる。
「・・・・・・・・・。」この笑顔を見ながら嫌だと言える者が居るだろうか?それに、頼忠の願い・・・・・・興味津々。「うん。私に出来る事なら叶えてあげる。」
大真面目に頷きながら答えた。


これで。
花梨の運命は決まった。


「ありがとう御座います!」頼忠は頭を深々と下げ、お礼を言う。と、花梨が反応する前に一歩近付いた。「では、ありがたく頂戴致します。」
「――――――は?」くるんと視界が回り、頼忠の背中に頭をぶつけた。「え?ちょっと?何?」
「では、参りましょう。」
花梨を肩に担ぐと、足早に歩き出した。
「ちょっと待って!ねぇ、頼忠さん?どういう事?」
背中をポカポカと叩きながらじたばたと暴れるが、両足共にがっちりと捕まれていてはどうしようも出来ない。
「こういう事です、神子殿。」
「ねぇ。こういう事、だけじゃあ、分からないよ?」
「頼忠の願いを叶えに。」
「それって何?」
「すぐにお分かりになります。」
「すぐって何時よ?」
「ほんの少し後、です。」
まともな返事もせず、四条の屋敷へと戻った。



花梨の室でやっと床に下ろして貰えた。だが、逆さまになっていた為、頭に血が上り、立っていられない。崩れるように座り込む。
「で・・・・・・?」
眩暈でグラグラする頭で尋ねる。すると。
「神子殿。」花梨の耳元で囁いた。「お慕いしております・・・・・・・・・。」
「え?」驚き、声がした方を向く。と。「んぐっ!」唇が頼忠のそれによって塞がれた。「ん・・・・・・ぅん・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・。」
何が何だかさっぱり解らぬまま、頼忠の熱に浮かされていく。

「神子殿・・・・・・・・・。」
腫れるまで味わうと、やっと唇を解放する。
「よ・・・りただ・・・・・・さ・・・・・・・・・。」
すっかり力が抜け落ちてしまった身体を支えていられない。腰と背中に腕を回している男に寄り掛かった。
「貴女とこのような関係になれるとは・・・・・・夢のようです・・・・・・・・・。」
一瞬だけ強く抱き締めると、耳元で囁く。そして優しく押し倒すと、ゆっくり脱がせていく。
だが。
「・・・・・・ん・・・・・・・・・。」
花梨にはもう、頼忠の言葉は耳に入らず。
「花梨殿・・・・・・。」
「・・・はぁ・・・・・・。」
理解せぬまま無意識のまま、ただ流されるまま・・・・・・・・・。



結局。
花梨が全てを理解したのは・・・・・・・・・翌朝。にこやかな笑顔の女房に「おめでとう御座います」と言われた時だった――――――。






注意・・・京ED。
      おまけイベント『京の小正月』から妄想。

花梨ちゃん、頼忠のとなりました。(おいおいおい。)

2006/03/05 03:30:47 BY銀竜草