霊と付き合う。

- 2001.02.10 -

▼心霊現象    
 

 心霊写真。何らかの心霊現象が写っている写真のことですが、この種の写真を持つときまって悪いことが起るから、除霊やら供養やらをする必要がでてくるようです。それには当然お金がかかります。そこに霊商法が存在するのです。

 そもそも心霊現象とされる多くの現象は、その人の認知のあり様に大きく左右されるようです。例えば試験で出来が悪かったのは試験問題が悪いからだ、と思う人もいれば、自分が勉強しなかったからだ、と思う人もいるでしょう。それと同様にこれは「霊」の仕業ととらえる人もいれば、そうでない人もいます。

 
▼自動思考    
 

 「霊」の仕業ととらえない人でも、不運が続いたりすると、やっぱりおかしいと不安になってきます。また、周りに相談したり、同じような体験談を聞いたりして、もしかして「霊」の仕業なのでは?と考えるようになっていきます。

 漠然とした不安も働き、こうした考えを続けていると、すべての不可解な出来事は「霊」のせい、という自動思考が生じます。電車に乗り遅れたり、初回限定版が買えなかったり…と日常的な出来事ですら、「霊」のせいだ、とすぐに考えてしまうようになり、冷静な判断ができなくなっていきます。

 
▼憑依    
 

 「霊」のせいにするという自動思考は、回数を重ねるにつれて確固たるものになっていきます。こうなってしまうと、うつ状態になってきます。外に出ると不運な出来事にあう。「霊」にとりつかれてしまった自分に未来はない。どんどん悪い方悪い方へと「霊」を介して思うようになっていきます。活動も停滞していき、引きこもるようになっていきます。

 周りの人たちも、こういう状態を見れば「霊にとりつかれた」と本格的に思うようになるでしょう。となると、「除霊」をして良い状態に戻さなくては、と「除霊」を専門家に依頼することになります。

 
▼リピーター    
   専門家は、霊能者らしい格好をし、霊能者らしい道具を取り揃え、除霊を行います。専門家が「除霊終了」を告げると、もう「霊」はいないんだ、もう「霊」に悩まされることはない。と思えるようになり、ようやく日常的な活動を行うことができるようになります。

 「霊」がいないのに「霊」のせいにすることなんてできませんから、再び「憑かれた」と思うようになるまでは、いかなる不運な出来事があっても、この安泰な生活は続きます。が、「再び憑かれる可能性」を 示唆するのが専門家です。つまり、「あなたは憑かれやすい体質だから、また何かあったら除霊をしなくてはならない」みたいなことを言い、「霊」による呪縛を断ち切れなくするのです。
 
▼霊商売    
 

 霊商売の恐ろしいのはこの「リピーター」を生産することです。リピーターはかたくなに「霊」の存在を信じます。周りに不幸な人がいれば、親切心から「除霊」を勧めます。勧める本人に悪気はなく、しかも除霊の効果を証明しているのですから、話された人は信じてしまうかもしれません。

 「霊」がいるか、いないのか。それは私にはわかりません。が、霊商売は人間の認知の歪みをたくみに利用した一種の心理学の知見を応用した職業であることは確かです。そして「除霊」には精神療法の手法が使われているのです。 「カウンセラーとこうした除霊師との違いは何か。」一歩間違うとカウンセリングも除霊となんら変わらないものとなってしまうのです(同じだ、という人もいますが…)。

 

【元ネタ情報】

書名 「うつ」を治す (PHP新書111)
著者 大野 裕
出版社 PHP研究所
出版年 2000年5月
定価 660円(税別)
ASBN 4-569-61084-6
サイズ 新書版、211ページ
キーポイント 認知療法、カウンセリング、心霊現象
参考 講義「パーソナリティ演習」(木島)
参考 講義「認知臨床心理学」(小谷津)

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