サンタのくる夜に (デジモン/ヤマト×タケル)




『バージニア、お答えします。サンタクロースがいないんだという、あなたのお友だちはまちがっています。きっとその子の心には、いまはやりの、なんでもうたがってかかる、うたぐりやこんじょうというものがしみこんでいるのでしょう。うたぐりやは、目にみえるものしか信じません』




「…って。ねえこれ、僕のことかな?」


クリスマスイブの夜。
兄弟で、兄のベッドに潜り込んで、ひとしきりじゃれあいながら他愛もない話をした後。

そうだと思い出したように鞄から一冊の本を取り出したタケルに、ヤマトが不思議そうな顔をした。
しかも、問いかけは、そんな風にさらに不可解。


「どうしたんだ、その本」
「うーん。一乗寺くんがくれたんだけど」
「一乗寺? なんで一乗寺が?」
「さあ? けど、"タケルくんは、ばかばかしいと思うかも知れないけど、こういうのもまた読んでみた方がいいと思うんだ"って」
「…はあ?」
「僕、サンタなんていないって、そんなコト言ったのかな?」
「俺に聞かれても困るけどな。覚えあるのか?」
「うーん。それと同じようなことは言ったかも。…というか。"ウチの場合は、お母さんだけど"って言ったのが、もしかして気にさわったのかな」
「…サンタが?」
「…うん」

枕を2つ並べたその壁側の方に、ぽふっと顎を埋めて、タケルが困ったような顔になる。
別に、プレゼントを買ってくるのは確かに母さんだけど、それとサンタを信じてないっていうのとは、ちょっと違うんだけど…と、そういう顔だ。
ヤマトがそれに気づいて苦笑し、その金色の頭をぽんぽんと宥めるように軽く叩いた。

「一乗寺もほら、アイツもなかなか頭固いからな。自分でこうだと思うと、そういう風にしか見えねえっていうかさ」
「うん」
「凹むなよ、そんな。」
「凹んでるってほどじゃないけど。僕って、そんなに現実主義者に見えるのかなー」
「そうでもねえと思うけど、俺は。つーか、本当にそういうのだったら、デジタルワールドなんか行けやしねえだろ?」
「うーん、そうだけど。あ。それとも、もしかしたら。単に根性ワルイって言われてるんだと思う?」
「いや、それはねえだろ。…って言っても。まあ、そんな風じゃないにしても、誤解はされてるっぽいか」
「まーったく。大輔くんといい…」

頭を叩かれた手で、そのまま髪をくしゃくしゃとされて、タケルが少々表情を綻ばせる。
未だにそんな風に、兄に小さい子のようにされると、なんだか心地よい気がしてしまう。
こんな本音というか、弱音を兄に吐くことも最近では珍しいから、兄にしてみれば嬉しいのかもしれない。
そして、こんな風に甘やかされることも、タケルにとっては久々なので、やっぱり嬉しいのだ。
たまには、愚痴もいいのかもしれない。
害のない程度というか、誰も傷つけない程度になら。


「で、どうなんだ?」
「え?」
「信じてるのか。タケルは」
「何を? サンタクロースを?」
「ああ」
「…お兄ちゃんは?」
「俺? 俺は信じてるけど?」
「え、そう?!」
「なんだよ、意外そうに! 俺は、これでも結構ロマンチストなんだぞ」
「うん、それは知ってるけど! でも」
「なんだよ」
「なんか、そんなに言い切るとは思わなかったからビックリした」
「ひでえな。――で?」
「うん?」
「お前は、どうなんだ?」
「うーん。半分半分、かな。半分は信じてる。半分は、信じないようにしてる」
「信じないように?」
「うん。だって、僕の本当に欲しい物は、プレゼントの品物なんかじゃなくて、もっとこう、カタチのないような…」

「シッ…」
「え?」

やおら、口の前で人差し指を立てるヤマトに、タケルが驚いたように口を噤む。
兄の部屋の前で、ひそひそ小声で話す声に、二人して顔を見合わせ聞き耳をたてた。
片方は、この家では聞くはずのない声のような…。


「――お母さん…かな?」
「みたいだな」


「あ…。僕、今夜は泊まるんじゃなくて、帰るつもりだったから。朝、お母さんにもそう言ってたんだけど」
「さっき電話したんだろ、母さんの携帯に。やっぱりコッチに泊まるって」
「うん、仕事遅くなるって言ってたから携帯に電話したんだけど。そうしたら、なんだか、すごく慌てた様子だったんだよね」
「なるほどー。お前が今夜コッチ来てるってことはさ。お前のプレゼントも、サンタに転送させなきゃなんねえってことだよな」
「あ。そうか。空のベッドのとこには、プレゼント置いてかないだろうしね、サンタさんも」

納得するタケルに、ヤマトがしばし考え、それから意を決したようにベッドを降りた。
部屋を出ようとする兄に、タケルが慌ててそれを呼び止める。

「お、お兄ちゃん…! 今、出て言ったらマズイって…ば」

が、それには構わず、ヤマトはトイレにでも行くような気軽さで、そのドアを勢いよく開いた。



「あれっ? 母さん?! どうしたんだよ。こんな時間に!」



わざとらしいよとツッコミたくなるような大げさな驚きように、タケルははあ〜と溜息をつくと、肩を落とした。

リビングでは、焦っている風の父と母の声が聞こえる。
いったいどうする気なんだろうとやりとりと聞いていたタケルの耳に、兄の自分を呼ぶ声が聞こえ、タケルは大慌てでばたばたと兄の部屋を出た。



かくして。
タケルは、やっと兄の意図を知ることとなったのだ。



父用に、まだ、残されていたクリスマス用のご馳走。
ちょっと仕事のコトで…とかなんとか苦しい言い訳をする母に、"あっためなおすから、メシまだだったら食ってけば?"とすすめる兄。





そうして、久しぶりに家族四人揃っての、遅いクリスマスパーティを催すこととなったのだ。








後になって、ひどく嬉しそうに、タケルが兄に言った。
「やっぱり、いるんだよね。サンタさんって」
「ん?」
「僕が今いちばん欲しかったもの、持ってきてくれた」




――ささやかだけど。 『一家団欒』





ありがとう、サンタさん。
ありがと、お兄ちゃん。