「ぬくもり賞味期限」
このお話しは、沢山の愛を込めて。親愛なる、風太さんへvvv 玄関のドアを開ければ白い息。
今更ながら冬を感じて。
時任は、後ろでゆっくりと靴を履いている同居人を振り返って睨む。
「…行くからね」
口を開こうとした瞬間に告げられ、時任の眉がピクリと上がる。
「まだなんも言ってねぇじゃん」
「お前の言いたい事なんか大体わかるんだよ」
「すげぇむかつくんですけど」
語尾に力を入れ、大きく足踏み。我ながら子供の様だと思いながらも、我慢出来ない。
性格…というやつなのか、ただの我侭なのか。
もちろん、時任は前者。同居人に言わせれば、後者。
「ときとー」
「な、おわっ」
いつもの調子で呼ばれ、ふいに引っ張られる腕。
中途半端に開いたドアが大きな音を立てて閉まる。
怒鳴り返そうと視線を合わせれば、穏やかな眼差し。
うっ。と詰まれば、優しく微笑まれ。
「…久保ちゃん」
「ん〜?」
「買い物行くんだろう」
「そうねぇ〜、でもお前あんまり行きたそうじゃないからねぇ」
「そ、そりゃ、外寒そうだし…い、息白いじゃん」
「だーね」
暢気に答えながら近づいてくる顔、時任は掴まれていない片手でそれを思いっきり阻止する。
「テ、テメェ…っ、なにすんだよっ」
「ねぇ、ゲームで負けた方が買い物に行くって言ったのお前だよね?」
「お、おぅ」
「それで時任は負けたからお買い物」
「………」
「でもさ、どーしても一人じゃ嫌だって言うから俺が付いていくんだよね?」
確認する様に問い掛けられ、時任は頬を膨らませる。
「別に頼んでねぇし」
「んー、そりゃそうね」
「っうか、腕離せよっ」
「あっためてあげるよ。それから一緒に行こう?」
「却下」
「えー」
「うるせぇ!それだけはぜってぇに嫌だ!!」
「なんでよー」
不満そうに答えられ、時任のこめかみがピクリと動く。
「あ、あのなぁ!」
掴まれた腕を渾身の力で振り解き、立ち上がる。
ぽけーっと座っている久保田に向かって人差し指を向ける。
「そんな事したら買い物どころじゃなくなるんだよっ」
「手加減するって」
「テメェはいつもそう言って一度も守った事ねぇだろうがっ!!」
「だって、お前がさ」
「なんだよ!」
長い指でおいでおいでの仕草。
ヤバイ、マズイ、キケン。の信号が頭の片隅で鳴っているのに、体は引き寄せられる。 弱いのだ、この指先に。
敵わない、この眼差しに。
「はい、いい子」
「…っ」
力強い腕に抱き寄せられ、耳朶に少し冷たい唇が当たる。
「もっと。って強請るんだもん。手加減なんかむりっしょ」
ちゅ。と首筋に吸い付かれ、久保田の首筋に顔を埋めた時任の体がピクリと反応する。
「しちゃう?」
甘く囁かれ、思わずコクンと頷きそうになるが、快楽に流されそうな心の片隅で、ふと思う。このまま流されて、きっといつものパターン。
それはそれで悪くはないけれど、きっと自分一人を残して、この大きな犬は買い物に出掛けてしまうだろう。
ぬくもりの残るベッドに一人で寝むのは、とても寂しいのだ。
悔しいから決して口には出さないけど。 「一人で買い物行くの嫌だ」
「うん」
「だから、久保ちゃんが一人で行くのも許せねぇ」
「お前さぁ」
時任は顔を上げ、ジロリと睨む。
「帰ってきたら、あっためろよな!」
少し早口で告げ、時任は立ち上がる。
「返事!」
ドアを開けながら、振り返らず。
「はーい」
ゆっくりと腰を上げ、久保田は暢気に返事を返す。 互いの体に残るぬくもり。
賞味期限は、あと数十分。
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「偶然世界」有村苺さんからのイタダキモノです――!!!
うわあ、もう素敵すぎて言葉もないです…! す、すごいよ苺さん!
私はもう久保ちゃんの「はい、いい子」に昏倒してしまいました!!!
思わず、森川さんの声で想像しちゃいましたよ。うわーうわー(///)
しかもコレ、私がいただいちゃっていいんですか!!!
(ちゃっかりその一文つきでもらってくる私)
嬉しすぎます…! 本当にどうもどうもありがとうvv
賞味期限内にちゃんとアップせねば…!と頑張ったんですが、果たして
間に合ったでしょうか(笑)
どうかこれからも素敵な久保時、いっぱい読ませてくださいませねーv
苺さんの書かれる久保時、本当に大好きなのー。(風太)
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